労働災害防止対策とは?建設業における対策や取り組み事例を紹介

建設業界で長年にわたって課題になっている労働災害。長期的には徐々に減少傾向にあるものの、職場や現場での作業中などの怪我や事故といった労働災害が後を絶ちません。
そこで今回は労働災害に関連する法律や、労働災害が起こる原因を基に、建設業における労働災害防止策としてどのような対策を行っているのか、事例を交えながら紹介していきます。

目次
労働災害とは
労働災害(労災)とは、労働者が業務を行っている際に、その業務が原因で怪我や病気になること、または死亡することをいいます。
建設業の視点から労働災害の例をいくつか挙げてみましょう。

①墜落・転落災害
- 足場の組み立てや高所での作業中に墜落をした
- 現場での調査や作業の際に足場から足を踏み外し転落した
②建設重機災害
- バックホーが旋回して作業者に激突した
- 丸太を運搬していたホイールローダーにひかれた
③崩壊・倒壊災害
- バックホーで掘削を行った後、作業者が掘削構内で作業中に側壁が滑り落ちてきた
上記のようなことが建設業の観点から起こりうる労働災害です。
これらの労働災害を防ぐためには労働災害対策費の適切な活用や労働者の健康管理を十分に行っていくことが大切です。
労働災害に関する3つの法律
労働災害には労働基準法、労働安全衛生法、労働契約法の3つの法律が主に関係してきます。
労働災害がどのようなものか知った上で、法律についても簡単に触れていきます。

労働基準法
労働基準法とは、労働者の労働条件に関する最低限の基準を定めた法律です。
規定内容は以下のようなものがあります。
- 雇用契約
- 休日
- 休憩
- 年次有給休暇
- 賃金
- 解雇
- 就業規則
- 書類の保存 など
この法律は、採用や雇用に関わる立場の人が理解しておかなくてはいけない法律の一つであり、事業者と労働者との労働関係を定めた最も基本的な法律です。事業者は事業者はこの法律の基準を最低限守る必要があるため、正確に把握しておきましょう。
労働安全衛生法
労働安全衛生法(安衛法)とは、労働者の健康と安全の確保を行うとともに快適に過ごせる職場環境作りを形成する法律のことです。
安全衛生法には以下のような義務が定められています。
- 安全管理体制の確立
- 労働者の危険または健康障害を防止するための措置
- 機械等並びに危険物および有害物に関する規制
- 労働者の就業にあたって措置 など
このように事業者は労働者を雇用する際に労働安全衛生法を遵守する義務が生じます。事業者が講ずべきルールや措置を定めることで、労働者の安全を守っています。
労働契約法
労働契約法とは、正規雇用の正社員、非正規雇用のパートやアルバイト、または契約社員などの労働者に対して、労働者と事業者との間で結ばれる労働契約の民事的なルールを定めた法律です。
労働契約法は以下のように大きく三つに分けられています。
- 労働契約の理念・原則
- 労働契約の締結・変更、継続・終了
- 有期労働契約
労働契約法は、契約社員やアルバイトのような有機労働契約で働く労働者を守るために制定されました。就業形態の多様化と、それに伴う紛争の増加を目的としています。
事業者が労働契約法を使用するときは以下のようなものが挙げられます。
- 労働契約の締結
- 就業規則の変更
- 出向・懲戒・解雇
- 有期労働契約による労働者の雇用 など
上記の場面において、労働契約法のルールに則ることで労働者と事業者との間でトラブルが起こることが無いよう、両者対等な立場で契約の締結や変更を行います。
労働災害が発生する原因
労働災害は、現場の状況や環境など様々な要因があり、いつ、どこで起こるのか予想が困難です。時には、病気や怪我にとどまらず、最悪の場合死亡にもつながってしまうとても恐ろしいものです。
そこで、労働災害が実際に発生した際に、どのようなことが原因で起こっているのか詳しく解説していきます。
労働災害の多くはヒューマンエラーが原因
労働災害が起こる一番の原因はヒューマンエラーといわれており、9割以上を占めています。
人間の行為によって発生するミスや事故のことです。 ヒューマンエラーによる労働災害は、建設業だけではなく製造業や運送業などでも起きているため、どの業界においても非常に深刻な問題となっています。
ヒューマンエラーの分類
ヒューマンエラーには、さまざまな種類があります。
ヒューマンエラーは主に以下12タイプに分類できます。
- 危険軽視・慣れ
- 不注意
- 無知・未経験・不慣れ
- 近道・省略行動
- 高齢者の心身機能低下
- 錯覚
- 場面行動本能
- パニック
- 連絡不足
- 疲労
- 単調作業による意識低下
- 集団欠陥
では、それぞれのヒューマンエラーについて詳しく解説していきます。
①危険軽視・慣れ
不安全行動の代表的なものになります。「事故が起こるわけがない」「このくらいは大丈夫」などといった危険を軽視し始める行動のことをいいます。
よくある事例として、「新人が初めのうちは細心の注意を払いながら作業をしていたはずなのに、段々と業務や作業に慣れ始めて気が緩み大きな事故に繋がってしまう」といったことや、その反対に「何十年も作業に従事しているベテランの人が、自分の作業や業務に対する技術に過信してしまい事故を起こしてしまう」といったことがあります。
また工期が短い、生産性が落ちるといった背景から、危険を軽視してしまうケースもあります。現場の安全衛生責任者や職長が、現場の作業員や従業員と密にコミュニケーションをとり、ルールに則った作業をする必要があります。
②近道・省略行動
「早く仕事を終わらせたい」「工期の期日が迫ってる」などの考えから正規の手順を踏まずに作業を行ってしまい、労働災害に繋がってしまうケースがあります。
工事や作業現場などでは工期が決まっており、一日にできる作業の時間も決まっているため、作業の進捗状況が良くないと焦ってしまうこともあるでしょう。急いで作業を行うことで、手を抜いて作業をしてしまったり、やるべき手順を飛ばしてしまい事故に繋がってしまいかねません。
経験豊富なベテラン作業員ほど「危険の軽視」や「慣れ」による油断が生じやすい傾向があります。時間的プレッシャーがかかる状況では、むしろ意識的に危険予知活動を強化し、定められた手順を厳守することが重要です。
③場面行動本能
場面行動本能とは、注意が一点に集中することで周りが見えなくなり、本能で行動してしまうことをいいます。具体的な例として、安全帯やハーネスの装着をせずに、高所作業をしている際に道具を落としてしまい、道具を拾おうとした時に、落下してしまったということがあります。
この例は、安全帯やハーネスの着用を怠ったというところでは、「危険軽視・慣れ」に該当しますが、取り掛かっている作業に集中しすぎて何も考えずに、本能的な行動をとってしまい事故に至っています。
こういった人間の本能的・反射的な行動は対策が難しいですが、人間は本能的な行動を取ってしまうという事実をしっかり理解することが大切です。またこのような事故が起こらないように、ヒヤリハット事例の共有を繰り返し行うことで、様々な事故の想定が可能となります。これにより、安全意識の高い行動を取ることにつながります。
④疲労
業務中だけでなく、普段の私生活などでも疲労が蓄積すると様々な能力が低下することが知られています。
体に疲労が蓄積していくことで、頭が働かなくなります。自分の思い通りに体が動かないことで作業効率も悪くなり、仕事のパフォーマンスも悪くなります。疲労は作業をする上では避けられないことですが、適度に休憩を入れたり、長時間の労働は避けるようにしてリフレッシュを図ることも必要です。
特に夏場は、特に夏場は、作業員の熱中症リスクに注意が必要です。高温下での作業は、屋内・屋外に関わらず、想像以上に体に負担をかけます。朝礼などで各作業員の疲労度や体調不良の兆候を確認することが重要です。
⑤不注意
ヒューマンエラーの代表的なものが不注意です。単純に注意散漫になってしまうのもそうですが、作業に集中しているときこそ注意しなければなりません。作業や業務に集中していること自体は悪くないのですが、作業に集中すればするほど、周りへの注意を払うことができず、事故を起こしてしまうことがあります。周りと声を掛け合うなど、常に気を配るようにしましょう。
⑥高齢者の心身機能低下
建設業界では、労働者の3人に1人が55歳以上といわれています。近年では建築業界に限らず高年齢労働者の人口も増えてきている現状です。
高年齢労働者の培ってきた経験や技術は、今後の若い世代の労働者にも良い刺激にもなる反面、高齢による心身機能の低下にも十分に注意を払う必要があります。特に割合が高いのは死亡災害です。原因の一つに、高年齢者が自身の身体能力の低下を自覚するのが難しいという点があります。
年を重ねるごとに筋力は衰えていくものです。平衡感覚の低下も顕著に表れてきます。また、疲労の回復にも時間を要してくるのに加えて、視力や記憶力なども低下してきます。
対策としては、高年齢者が自身の心身機能低下を自覚するための「体力測定」の実施や、高年齢者がより力を発揮できるように配慮した職場環境の改善に努めることが大切です。
⑦パニック
パニックとは、想定していなかった場面や事態が生じた際に、普段通りの正常な判断が出来なくなることをいいます。例えば、車やトラックなどで移動をしている際に、急に歩行者が飛び出してきて、アクセルとブレーキを踏み間違えてしまうことがあります。
また、現場で作業をしている際に、先輩や職長に注意をされたことで気持ちが焦ってしまい、パニックに陥ってしまうこともよくあります。このように、普段なら絶対にしないことを無意識に行ってしまうことで危険につながることが予想されます。
パニックに陥らない対策として、事前に現場に入る前に下調べをすることによって手順を確認し、当日落ち着いて作業を行えるようにします。また、メンタルトレーニングを行うことで想定外の事が起きてもパニックにならないようにすることも効果的です。
⑧短調作業による意識の低下
反復して行う作業はみなさんも一度は経験してきたことがあると思いますが、同じ作業を繰り返すことで周りの注意や意識が低下してしまいがちです。
「不注意」に通じる部分が多いですが、何か突発的なことが起こった時に、瞬時の判断が難しくなり、ミスをしてしまうことがあります。不注意やパニック、単調作業による意識低下などは、人の注意力に依存しない安全環境を整えていくことが大切です。
⑨無知・未経験・不慣れ
知識や経験が乏しい者が作業を行ってミスを起こしてしまうヒューマンエラーです。このヒューマンエラーは新人がよく起こしやすいものになります。
「無知・未経験・不慣れ」は原因を突きとめやすいので、新人を十分に教育出来る環境を作っていくことが大切になります。
現場での実地研修は重要ですが、見るだけでは習得できない技術も多くあります。研修後には必ずフォローアップを行い、作業員が理解できていない部分を具体的に聞き取りましょう。その上で必要な技術を繰り返し練習させることで、確実な技術習得につながります。
⑩錯覚
錯覚には様々な種類があり、認知ミスや誤認識が含まれます。具体的には「見間違い」「聞き間違い」「思い込みや勘違い」などが該当し、これらが作業中の判断ミスにつながることがあります。
また、足場があると勘違いして墜落して怪我をしてしまう、似たようなサイズの材料などを異なる環境下で見誤ってしまうなど様々です。職長の安全指示の伝え方と受け取る側の工夫を行うことで錯覚を減らすように努めましょう。
⑪連絡不足
連絡不足は個人的なエラーではなく、複数人によるコミュニケーションのギャップから生じるものです。現場の規模が大きくなると、元請けから協力会社、一次業者、2次業者と伝える相手が増えていき、コミュニケーションロスが生じます。
全作業員に正しい指示を行い連動していなければ、労働災害に繋がりかねません。朝礼時に伝えたことを、見回り時や指示を出した者に再度確認を行うなど、小まめにコミュニケーションを取るようにして、正確な指示のもと安全な作業に取り組むことが出来るように徹底しましょう。
⑫集団欠落
集団欠落とは、いわゆる現場の雰囲気のことを指します。工期が迫っていたり、進捗状況が良くなかったりすると、安全第一ではなく、工期第一になってしまい、不安全行動の原因になり事故に繋がりかねません。
また、そのような雰囲気が醸成されることで、正しい作業に則っていない作業員に対して、注意喚起もしづらくなります。業界全体でも集団欠落は大きな課題であり、個人ではなく業界全体で取り組んで行く必要があります。
ヒューマンエラーによる労働災害は、直接的な要因もあれば間接的なものもあります。上記に挙げたようなヒューマンエラーを起こさないように、事業者も労働者も細心の注意を払い正確な情報共有を行って確認を怠らないようにしましょう。
労働災害を防止する5つの対策
ここからは、労働災害の発生を減らすための5つの対策について紹介していきます。
- 安全衛生教育を徹底する
- リスクアセスメントを実施する
- KY活動を徹底する
- 特別教育を実施する
- 5Sを徹底する
安全衛生教育を徹底する
安全衛生教育を徹底することで労働災害防止につながります。なぜなら、安全衛生教育を受けることによって、労働者が従事する業務の安全や衛生について学ぶことができるからです。
労働安全衛生法の中には、事業者がその労働者に対して所定の安全衛生教育を行うことが法律で義務付けられています。(安衛法 第59条第1項、第2項)労働災害を防止するためには、新規や中途採用の労働者を雇い入れる、または作業内容を変更した場合には必ず安全衛生教育を遅滞なく実施しな
くてはなりません。
安全教育は主に以下の6種類です。
- 雇い入れ時・作業内容変更時の教育
- 特別教育
- 職長等に対する教育
- 安全管理者等への能力向上教育
- 危険・有害な業務に従事する者に対する安全衛生教育
- 健康教育・健康保持増進措置
雇い入れ時・作業内容変更時の教育
労働者の作業内容が変更された際や、新たに雇用された際に行われる教育のことです。機械や原材料の危険性、取り扱い法、有害性、安全装置の性能などについて学びます。
特別教育
危険性や有害性のある業務に従事する労働者を対象とした教育で、フルハーネスや足場の組み立てなどの使用者に対する教育を行います。
職長等に対する教育
職場で指導的な職長や安全責任者を対象としている教育です。リーダーとしての役割を果たすために知識や技術を習得します。
安全管理者等への能力向上教育
責任者や安全衛生管理者などを対象とした能力向上を目的とした教育です。
危険・有害な業務に従事する者に対する安全衛生教育
危険や有害の高い業務に従事する労働者を対象とした安全衛生教育のことです。
健康教育・健康保持増進措置
労働者が健康的に働き続けられるように、事業者が計画的に実施する取り組みのことです。
安全衛生教育を受けることによって、労働者が従事する業務の安全や衛生について学べます。また、労働者の安全意識の向上や、事業場の安全対策の効果を高めることが期待でき、労働災害を防止することにつなげることができます。
リスクアセスメントを実施する
リスクアセスメントとは、作業を行う上での危険性や有害性を特定するものです。災害の発生する可能性と、労働災害や健康障害の被災の程度とを組み合わせることで、危険性と有害性を想定します。そのリスクの大きさに基づき評価を行い、対策の優先度をあらかじめ決めます。その上でリスクの除去または低減する対策を検討して、その結果を記録することによってその都度さらに見直しを行うことができ、労働災害の低減につなげることができます。
進め方の手順は以下のようになります。
- 労働災害につながる可能性のある危険性や有害性の特定を行う。
- 特定を行った危険性や有害性に対して既存の予防対策を行った評価を基にリスクの調査を行う。
- 調査した内容からリスクを低減するための優先度を決定し、リスク対策の実施を行う。
- 優先度の高いリスクのものから対策を始める。
- 実施したものは記録に残し、より精度の高い予防対策を行う。労働災害防止のノウハウを蓄積していくことでさらなる低減を図る。
以上のように手順を踏み、リスクアセスメントを実施することで労働災害を未然に防ぐ結果へ導くことが出来ます。
KY活動を徹底する
KY活動を徹底することで労働災害防止につながります。なぜなら、作業前に起こりうる危険について話し合い、対策を立てることで事故を未然に防ぐことができるからです。
危険予知(KY)活動では、作業前に起こりうる危険について全員で話し合い、対策を考え、具体的な行動目標を決めて実行します。この活動を毎日繰り返すことで、作業員の安全意識が高まり、危険に気づく力が養われます。
また、KY活動は作業の安全性を高めるだけでなく、危険による作業中断が減ることで作業効率も良くなります。すべての作業員がKY活動に参加し、職場全体で安全への意識を高めることが大切です。
特別教育を実施する
特別教育とは、危険または有害な業務を行う労働者に対して労働安全衛生法第59条第3項により定められたものになります。建設現場などで、これらの業務に携わる場合には、安全または衛生に関する特別教育を必ず受けなければなりません。
特別教育を受講することで、業務中の作業の危険性や有害性について学ぶことができます。
特別教育の手順として、安全に業務を遂行できるように作業方法や正しい道具の使い方、事故を防止するための対策を行います。そして、もし事故が起こってしまった時の対処方法に加え労働者の健康とストレスの管理について教育を行います。
最初に解説したように高所作業や機材の取り扱いなど危険な作業を伴う労働は特別教育の修了をしている事が求められます。
特別教育は有害な業務を伴う労働を行う労働者の安全を確保するための教育ですので、特別教育を受講せずに業務を行った場合は法令違反になってしまうので必ず受講するように気をつけましょう。
5Sを徹底する
建設業において5s活動を徹底していくことは、労働災害の防止につながります。
なぜなら作業環境の整理・整頓によって危険要因を排除し、事故の発生源を未然に取り除くことができるからです。
整理、整頓、清掃、清潔、躾の頭文字がSから始まる5つの要素で構成されているものです。
整理
必要なものと不要なものは分けるようにして、必要のないものは、捨てるようにする事です。整理をすることによって、現場でのつまずきや転倒のリスク低減、ものを探す時間が減るなどの効果があります。スペースを広く使えるようにして無駄を無くすようにしましょう。
整頓
整理と似ていますが、整頓がされていないと、必要な道具や部材などが欲しい時にすぐに見つける事が出来ません。また、資材や工具を足元に置かないことで、衝突事故や転倒を防ぐことができます。必要なものがすぐに取り出せるように、印を付けたり、置き場を決めて表示する様にしましょう。
清掃
ゴミや汚れを除去する事で清潔を保ち、こまめに点検する事ができます。清掃を行う事は、設備にとっても良いので、故障を減らし稼働率を上げることにもつながります。また細部な所にも気付きやすくなるため、機器・設備の不具合による事故を防ぐことができます。
清潔
上記の整理、整頓、清掃を実行し、維持することによって汚れの無い状態を保ちます。
現場での通路を確保することや落ちている部材、工具等で怪我や事故を防ぐ事ができます。
躾
躾とは整理、整頓、清掃、清潔の4Sのルールを守り、継続を徹底することを指します。現場や作業場が常に奇麗な状態で働くことで仕事のやる気も高まり、作業効率の上昇が期待できます。決められた事を継続して実行することで事故の発生率を下げましょう。
以上の5Sを実施していくことで、労働災害の低減が期待できます。継続して実行できるようにしましょう。
建設業における労働災害防止の取り組み事例
建設業での労働災害を防止するためには、どのような防止策を行い取り組んでいるのでしょうか。実際の取り組み事例を紹介していきます。
労働安全衛生管理DXの導入
近年では、デジタル技術が急激な成長を見せていて、建設業界でも端末を利用して健康管理やドローンを使った危険区域、高所の作業などのDX(デジタルトランスフォーメーション)の導入が進んでいます。
IoTデバイスの導入
作業現場にセンサーを設置し、温度や湿度、騒音などの現場の状況をリアルタイムで把握してモニタリングを行います。
もし異常があった場合は、アラート発信を行い異常を知らせてくれます。
ウェブアラブル技術の活用
現場で作業を行っている労働者に対し、心拍数、体温、疲労度などを測定し、スマートヘルメットやスマートウォッチを活用して健康リスクを早期に察知します。
ドローンの活用
危険地域や高所での作業を行う場合、労働者が危険に遭遇する可能性が上がります。ですが、ドローンの活用を行うことによって、実際に作業員が現場に入って作業を行うリスクを低減することが可能になります。
ヒヤリハット情報や職場巡視に基づく危険箇所の洗い出し
現場で起きたヒヤリハットや巡視中に発見した危険や怪我、事故のもとを見つけ、社員全員で情報の共有を行います。そして、危険に対する有害性や危険性を取り除くための対策を事前に行うことで、労働災害を低減することが可能です。
職場の巡視は定期的に行うようにし、対策を立てることによって、継続的に労働者の身の安全の確保につなげることが期待できます。また、同業他社などの事故事例などを参考に作業員に起こりうる危険の可能性を共有し、類似した状況に陥らないよう教育をすることも効果的です。
効果的な安全教材を活用し現場の安全意識を高める
毎月の安全訓練を徹底していても、自社で準備できる安全訓練の資料には限界があります。安全教材を導入することで、安全訓練のマンネリ化を防ぎ、結果的に安全意識の向上につなげることができます。安全教材には資料だけでなく、アニメーション動画などを取り入れたものもあり、作業員が飽きずに視聴でき、より効率的に内容が記憶に残るため、現場の安全意識向上が見込めます。

労働災害を起こしてしまった場合
労働災害防止対策をどれだけ行っていても、労働災害を完全に防ぐことは難しいでしょう。では、万が一労働災害を起こしてしまった場合にどうすればいいのか、解説していきます。
労働災害が起きてしまった場合の対応は以下になります。
- 被災者の治療
- 災害の事実関係や状況を細かく把握する
- 届出・申請
- 再発の防止
- 現場の立ち入り調査・聴取の対応
- 不服等の調整
①被災者の治療
労働災害を起こしてしまった場合は、まず被災者の治療が第一優先です。最寄りの労災指定病院で治療を受けさせるようにしましょう。
事故の度合いによってはすぐに救急車の要請を行い、警察の通報と労働基準監督署に連絡を行うようにしましょう。
労働災害では、被災者の保険証使用はできないので注意が必要です。
労災指定病院で治療を受けた場合は、労災指定病院から労働基準監督署に請求が行くため、被災者が治療費を負担する必要はありません。
労災指定病院以外で治療を受けた場合は、被災者が一度立て替えます。この時健康保険は使用できないため、被災者は10割負担となります。後日被災者が支払った治療費は、療養の費用支給として労働基準監督署に申請を行うことで最終的に費用が現金で被災者に支給されます。
②災害の事実関係や状況を細かく把握する
いつ、どこで、なぜ災害に遭ったか、事故を見ていた人は誰なのかなど、できるだけ詳しくメモを書き記録を残しておきましょう。
- 労働災害申請書類を書く際
- 労働基準監督署長による労働災害の認定
- 保険給付に関する不服申し立て・行政訴訟
- 警察官・監督官の捜査(業務上過失致死傷罪、労働安全衛生法違反)
- 労災賠償裁判(使用者の損害賠償責任、安全配慮義務違反)
上記の手続きや調査に対応するために、災害の事実関係を把握しておくことが必要です。
③届出・申請
労働災害が起こった場合、労働基準監督署への報告や保険給付などの届出や申請が必要になります。
提出すべき申請は被災者か遺族のものが多いですが、会社の証明や添付書類を求めるものが多いので、会社が被災者の代わりに手続きをする場合がほとんどです。
④現場の立ち入り調査・聴取の対応
労働災害の労災申請書類を受けた後、所轄の労働基準監督署長が認定を行います。
認定が行われる前に、必要に応じて被災者や関係者に事情聴取や、現場への立ち入り調査を行います。災害規模によっては警察官が捜査を行うこともあります。
また、労働災害の事故がきっかけで、監督官によって一斉監督が行われることもあり、事業場での安全衛生上の不備が確認された場合は注意を受けます。
⑤不服等の調整
労災保険給付に関して被災者や遺族から不服がある場合は、不服申し立てにより審査請求や行政訴訟などが提起される事があるので注意が必要です。
また、事業者側が安全配慮義務違反や不法行為があり、労働災害で被害を受けたすべてのものが労災保険の給付だけでは完全に補う事が出来ない時、被災者や遺族から労災賠償裁判で事業者に賠償を求められる可能性もあるので気を付けましょう。
⑥再発の防止
労働災害が起きてしまった時は、今後同じ災害をくり返す事がないよう再発防止対策をする事が非常に重要です。
災害の起きた直接的な原因の究明も必要ですが、会社の職場環境や労働者の健康管理面などの間接的な部分の見直しも行い、労働災害防止対策書やマニュアルを作成し、労働災害を低減させる事が大切です。
労働災害再発防止対策書の記入
労働災害が発生した際に、繰り返し労働災害が起こる事がないよう、労働基準監督署より労働災害防止再発対策書の作成と提出を求められる事があります。また、書類の申請を求められなくても、事業主が労働災害の再発を防ぐために、自ら書式を利用して、労働災害の原因を調査し、再発対策を講じる事が推奨されています。
書類の記入手順は以下のとおりです。
1.災害状況
いつ、どこで、誰が、どんな作業をしていた時に、どの様に災害が発生したのかを記入
2.災害発生原因
2-1.労働災害が発生した作業及び作業環境を記入
2-2.機械・設備に関する事で、危険な状況ではなかったかの記入
2-3.作業ややり方に不適切な事がなかったかなどの人に関する事を記入
2-4.機械設備の危険や作業員の行動に危険な事はなかったかなどの安全衛生管理についての記入
3.再発防止対策
2-1〜2-4でそれぞれ出てきた災害発生原因に対しての再発防止対策の記入
4.再発防止対策の持続性についての検討
再発防止対策の持続性について費用や労力、時間の負担許容範囲内であるか。また、作業者が自発的に取り組む事が出来るのかの検討とその結果を記入
5.労働災害防止対策の水平展開
労働者に十分な教育を行い、同様の災害が起きないようにどのような防止策を行っているのか、また事業場内の他の機械・設備や作業でのリスクに対してどのような防止対策を行ったのか、労働災害防止対策に記入
上記の5つの項目を記入し、労働災害再発防止対策書の作成を行い労働災害防止につなげられるように活用していきましょう。
労働災害を予防するために作業員が気を付けるべきポイント
労働災害を防止するためには、各会社や現場での取り組み以外にも、各個人が対策を講じなければ効果は出ません。そこで、ここからは作業員一人ひとりが労働災害を予防するためのポイントについて解説していきます。
スキル・知識の習得
労働災害を防止する対策の一つとして、スキルや知識の習得は大切です。
スキルの向上を図ると、作業効率が上がります。その結果、一つの作業にかかる時間が短くなり、時間に余裕が生まれるので、落ち着いて作業を行うことができます。
例えば、実際に現場で作業する際に「この作業をすると危ない」「この作業をする時はこうすれば安全に行える」といった危険をいち早く察知することができます。正しい手順で作業ができれば、ミスを起こす可能性も減らすことができます。作業を行う上で、分からないまま進めてしまうことは非常に危険であり、労働災害につながりかねません。
スキルや知識を習得するためには、定期的に講習会に参加したり、事業者自らが研修や講習会を行うことが効果的です。また、最近では、定年を迎えても働き続ける人が建設業に限らず増加傾向にあります。高年齢労働者は長きにわたりその業界に携わり、豊富な技術や経験を持っています。このような高年齢労働者のスキルや知識、経験を活かし、次の世代への継承に力を入れることもスキルや知識の習得の近道になるでしょう。
危険を予測し、事前に対策を講じる
労働災害を防ぐためにはリスクの所在を知っておく事が大切です。リスクの所在を知っておく事で、危険を予測し事前に対策を講じることが出来ます。
そのためには、現場や会社など、身の回りの巡視を徹底させた危険箇所の洗い出しとヒヤリハットの情報共有を行うと効果的です。
危険箇所の洗い出しを行うことで、出てきた危険に対して事前対策を講じることができるので、労働災害のリスクを減らすことが期待できます。
見つけ出した危険性のある事柄や場所は一部の人が把握しておくのではなく、必ず会社や関係者に共有するようにして、あらかじめ知らせておくようにしましょう。
また、自社や同業他社であった過去の事故事例を基に対策を立てる事も一つの手です。
何が原因で労働災害が起こってしまったのか考え、「どの作業が良くなかったのか」、「どうすれば労働災害が起こらなかったのか」などロールプレイングを行うことで、類似したような状況と遭遇した時にどのような行動を取ればいいのか、いち早く行動に移すことが出来ます。
安全行動を習慣化し、無意識のミスを防ぐ
安全行動の習慣化も欠かせません。
なぜなら、安全行動を習慣化することによって、身の回りの危険を察知するだけでなく、作業にかかる際に、ヒューマンエラーも防ぐことが期待できます。
「自分の身を守るために」「共に働く仲間や従業員を守るために」何事も慎重に作業するようにしましょう。
「この作業はしなくても大丈夫」「ここの部分は飛ばしてもいい」といった解釈は事故につながる元になるので禁物です。
無意識での行動は労働災害を起こす可能性が高いです。
無意識で作業を行わないように、自分が今回の現場でやるべきことを頭の中で整理し、落ち着いて業務に取り掛かるようにしましょう。
まとめ
労働災害は決して起こしてはならないものです。労働災害は労働者の安全や健康を脅かすだけでなく、会社にも大きな影響を及ぼします。
労働災害を未然に防ぐためには、事業者が労働者に対する健康管理や現場作業に関する教育を徹底し、安全な職場環境を整備することが重要です。事業者と労働者が協力して安全対策に取り組み、日々の業務を安全に遂行できる職場づくりを目指しましょう。