建設業におけるICTとは?導入のメリットや事例を紹介

2025.07.10
建設業ICT記事表紙

現在の建設業界ではICT化の導入が進められている状況にあります。ですが、実際にICT化をどのように進めればいいのかお悩みの方も多いでしょう。

そこでこの記事では、ICTについての基本的な知識や建設業におけるICT化が推奨される背景、導入のメリットなどについて具体例を交えながら解説していきます。

建設業の生産性向上おすすめツール資料

建設ICTとは

建設ICTとは、情報通信技術を活かし、業務効率や生産性向上を目指したものです。

ICTとは

ICTとは情報通信技術(Information and Communication Technology)です。 主に通信技術を活用したコミュニケーションを指し、情報処理やインターネットのような通信技術を活用した産業サービスなどの総称です。

ICTはITに加えて「Communication(通信・伝達)」という言葉が入っています。Communicationという言葉の通り、ITよりも通信によるコミュニケーションの重要性が協調されています。ただ情報処理をするだけでなく、ネットワーク通信を利用した知識や情報の共有を重視しています。

建設ICTの具体例として以下のものが挙げられます。

・スマートフォンやタブレット端末による図面・書類の電子化と共有
現場での施工管理アプリや図面をタブレットで利用し、リアルタイムで指示や情報共有が可能になります。

・ドローンによる写真撮影・測量
危険個所や高所、広範囲の測量をドローンで効率的に行うことが可能になります。

・現場監視カメラシステム
複数のカメラやAIによる動体認識・物体で、作業員の事故防止や安全確保について役立ちます。

以上のように建設業にICTを導入することで、現場での作業において遠隔での業務指示や現場の状況把握が可能になります。

i-Constructionとの違い

i-Constructionとは、国土交通省が2016年から推進している建設業の生産性向上を目指す取り組みです。建設ICTはその取り組みの中で用いられる情報通信技術の総称です。

つまりi-Constructionは

i-Constructionは目標と戦略を示す大きな枠組みであり、建設ICTはその実現手段となる技術的要素です。

このi-Constructionの取り組みでは、コンピューターやネットワークなどのICT技術を取り入れることで建設生産システム全体の生産性向上を図り、魅力ある建設現場を目指しています。i-Constructionの生産性向上を図ることによって、建設現場で働いている方々の賃金水準の向上と、企業の経営環境を改善するとともに、現場で安全に作業することや安定的に休暇の取得を実現できることを目指しています。

建設dxやIT化との違い

建設dxとは、AIやIoT、3D、AR等のデジタル技術を活用することで、建設生産プロセス全体の効率化や業務の自動化の推進を行い、最終的にはビジネスモデルの変革を目指すことです。

一方、IT化とは主に通信情報技術を活用して業務効率化や生産性向上を目指すものです。IT化は、既存の業務プロセスに情報技術を導入し、作業をデジタル化することでコスト削減や効率化を図ります。

IT化も建設ICT化と同じで、建設dxの手段であり、dxはそれらを活用することで組織自体を変革することを目的としています。

建設業界ICT化の背景

ここからは、建設業界がICT化を進めている理由や、背景について詳しく解説していきます。

建設業でICT化が進められている背景として以下のものがあります。

  • 労働者の減少
  • 厳しい労働環境
  • 働き方改革

労働者の減少

建設業の課題の一つとして、労働者の減少は深刻な問題です。建設業界の労働者が減少する原因として、従業員の高齢化と次世代を担う若者の建設業離れがあります。

現在の建設業では、就業者の35.5%が55歳以上を占めています。一方、29歳以下はわずか12%にとどまっており、技術継承の危機と若年層の業界離れを示しています。

建設業における就業者数の推移

このような若年層の業界離れに加えて高齢化が進み人手不足が起こることによって、「伝統的な技術を次世代に引き継ぐことが難しくなり、企業が廃業するリスクが高まる」「多数の工事がこおなわれているが、人手が足りず各作業員の負担が増える」などの現象が生じてしいる現状です。

ICT化を進めることで、作業の効率化や生産性の向上を図り、建設業界の若手労働者の確保を行うことが重要になります。

厳しい労働環境

建設業では、厳しい労働環境で働くケースが多く存在します。

建設業界には、炎天下や寒冷地での作業といった自然環境による厳しい労働条件があります。 例えば現場で作業する際に、夏場の高温多湿の環境や冬場の厳寒の中での作業を余儀なくされることがあります。

また、早朝や深夜に行う作業、人手不足により休暇が少なく労働時間が長くなるといった身体的に厳しい条件もあります。

これらの厳しい労働環境を改善するため、ICTを活用することで従業員の健康管理やマネジメント、業務の効率化などが重要になります。

働き方改革

建設業界は他の業界と比べて労働時間が長い傾向にあるため、働き方の改善が必要です。 建設業は「3K(きつい・汚い・危険)」というイメージを持たれています。実際に、他の産業に比べても休暇は少なく、労働時間は長いというのが現状です。

こうした労働環境は、特に近年の若者世代に敬遠される傾向があります。若者は職業を選ぶ際に労働条件やワークライフバランスを重視しているからです。そこで、ICTを建設業に導入することによって、遠隔操作や自動化技術により危険作業の削減、デジタル化による書類作業の効率化、労働時間の短縮が可能になります。これらの改善は働き方改革を推進し、建設業の3Kイメージを払拭することにつながると期待できます。

建設業界ICT導入のメリット

ここからは、建設業にICTを導入するメリットについて解説していきます。

建設業にICTを導入するメリットとして以下のものが挙げられます。

  • 業務効率化と生産性向上
  • 現場管理の効率化
  • 安全性の向上
  • コストの削減
  • 品質向上

業務効率化と生産性向上

建設業界にICTを導入することで業務効率化と生産性向上が期待できます。

例えば、丁張りなどの人工がかかる作業のカットや、施工の確認作業の効率化ができるようになります。ICTの導入で同じ時間と人員でもこなせる工事量を増加させることも可能になります。また、施工や測量がより高精度化されるため、やり直し防止にもつながります。

国土交通省では、従来の施工をICTによる施工に切り替えることで、作業時間の減少を約3割縮減できたというデータ結果もあります。

現場管理の効率化

建設業にICTを導入することで現場管理の効率化が期待できます。

具体的な内容は以下の通りです。

・情報共有の迅速化
写真データや図面データをデジタル化し、クラウド上で管理することでリアルタイムに関係者間での情報共有が可能になります。

・書類・報告業務のデジタル化
今まで紙ベースで作成されていた工程管理表や作業日報、安全書類などの現場で必要だった書類をデジタル化させます。これにより、ペーパーレス化が可能になり、書類の保管・作成・検索が容易になり、記載ミスや紛失などのリスクを低減することができます。

・進捗・品質管理の効率化
IOTセンサーやWebカメラを活用することにより、現場の進捗状況をリアルタイムで把握できます。これにより、進捗管理の効率化が期待でき、残業時間や工期の短縮が可能になります。
また、写真や動画による施工記録が自動で保存・整理されることで、品質管理の効率化も期待できます。

・リアルタイムでの現場状況把握と判断の迅速化
IOTセンサーやクラウドカメラ、ウェブアライブルカメラを現場に設置することで、作業員や重機の動き、進捗状況をリアルタイムで遠隔からモニタリングできます。これにより、現場に足を運ばなくても施工の進捗や安全状況を正確に把握できるだけでなく、問題や課題の早期発見が可能になり、関係者間で迅速な意思決定や情報共有が可能になります。

・遠隔からの現場指示・監督の実現
IOTセンサーやクラウドカメラ、ウェブアライブルカメラを設置することで現場の各種データーや映像をリアルタイムで遠隔地から確認できるため、指示や監督の実現が可能になります。

安全性の向上

建設業におけるICT化は、作業員の安全性の向上が期待できます。

なぜなら、ICTを活用することにより、従業員を怪我や事故から守るための多様な技術的手段が実現できるからです。

例えば、建設業では「建設機械等の転倒、接触」が労働災害の要因の一つとして挙げられています。
そこで、ICTの技術を活用することにより、現場作業員は機械が作動する場所から離れることができ、危険を回避することができます。

また、センサー技術やIoTを活用した危険エリア検知システムを導入することで、作業員が危険区域に近づいた際に自動的に警告を発し、事故を未然に防ぐことが可能になります。 この他にも、作業員がウェアラブルデバイスを装着することで、体温や心拍数などの生体情報や位置情報をリアルタイムに把握し、体調不良や危険な状況を素早く検知して対応することができるようになります。

コスト削減

建設業においてICTを導入することで、コストの削減につながります。
理由として、人件費や移動時間の削減、消耗品コストの節約が可能になるからです。

具体例は以下の通りです。

  • ICTを取り入れることで、複数人いないとできなかった作業が一人でも可能になるため、人件費の削減につながります。
  • オンライン会議システムにより遠隔地での打ち合わせが可能になるため、移動時間やコストが削減できます。
  • ペーパーレス化やデジタルデータ管理により、印刷用紙や保管スペースといった消耗品のコスト節約が可能になり、資料整理の手間も削減できます。

このように、ICT導入は短期的な投資は必要ですが、長期的に見れば人件費、移動コスト、事務経費などの削減に非常に効果的です。

品質向上

ICTを導入することで建設現場の品質向上が期待できます。デジタルツールを活用することで、正確なデータや数値に基づいた作業が可能になります。

例えば、3Dスキャナーやレーザー測量機器により、ミリ単位の精度で形状や寸法を計測でき、従来の目視や手作業による誤差を大幅に削減できます。
また、BIM/CIMシステムを用いることで、設計段階から施工までの整合性を確保し、図面の不整合による手戻りを防止することができます。さらに、IoTセンサーを用いてコンクリートの温度や湿度をリアルタイムでモニタリングすることで、最適な養生条件を維持し、強度や耐久性の向上につなげることも可能です。

この他にも、クラウドベースの品質管理システムにより、現場での検査結果や不具合情報をデータベース化し、パターン分析を行うことで、品質上の問題点を早期に発見・対処できるようになります。これらのデジタル記録は、将来の維持管理にも活用でき、建物のライフサイクル全体での品質向上に貢献します。

このようにICT導入は、単なる作業効率化だけでなく、建設物の精度、耐久性、信頼性といった本質的な品質向上に大きく寄与するのです。

建設ICTの具体事例

ここからは、建設ICTの具体例を紹介しながら、どのようなことが期待できるのか解説していきます。

具体的事例は以下の通りです。

具体的事例
  • ドローンによる測量
  • ICT建機による施工
  • IoTセンサーによる現場管理
  • クラウド型施工管理システムの導入

ドローンによる測量

建設業ではICTの推進により、ドローンによる測量が積極的に活用されています。このドローンを活用した測量は、安全性と作業効率の向上に大きな効果をもたらしています。
例えば、建設現場において、高所での作業や作業員が立ち入りできない危険な場所での測量作業が必要な場合、ドローンが非常に役立ちます。

ドローンを活用することで得られる主なメリットは次の通りです。

  • 測量の際に足場を組む必要がなくなり、時間短縮と作業員の怪我リスクの低減。
  • 人の手による従来の測量方法と比較して、作業時間を大幅に短縮可能。
  • 高精度な3Dデータの取得がスムーズ。
  • 山間地や複雑な地形でも、安全かつ効率的に測量が可能。

以上のような利点から、ドローン測量の導入は建設現場における安全性の確保と作業効率の向上に大きく貢献しています。

ICT建機による施工

ICT建機を活用することにより作業効率や安全性、利益率を上げることにつながります。
なぜなら、ICT建機を活用することによって人員を削減することができ、工期の短縮にもつながるからです。

例えば、ICT建機を活用すると、バケットや排土板の高さや勾配を建機自体が自動制御する機能があります。また、自動追尾式の位置測定装置で建機の位置を測定しながら、施工する箇所の設計データと現況地盤データとの差分を計算して、オペレーターにモニター表示で作業箇所を知らせる機能を有しています。このような機能が備わっていることで、経験の浅いオペレーターでも精度と効率の高い作業を行うことができます。

また、あらかじめ3次元データで入力したデータをもとに、建機内のモニターや音声で設計ラインを確認しながら施工を進めることができるので、丁張りや補助作業員を削減することができます。

このように、少ない人数で作業することで作業効率と安全性を確保し、工期の短縮が可能になります。さらに、工事の受注を増やすことが可能となり、利益率の向上にもつながります。

IoTセンターによる現場管理

建設業において、IoTセンサーによる現場管理は、センサーやカメラなどの通信機器で現場と事務所を連携させることで、リアルタイムでの情報共有や作業報告を実現することができます。

これにより、現場の生産性の向上や効率化、作業員の安全確保などにおいて有効です。

例として以下のものがあります。

  • 機材や重機、資材、作業員のヘルメットなどにIoTデバイスを取り付け、温度や湿度、位置情報などのデータを収集する
  • 社内から現場に業務指示を出したり、現場の情報を共有する
  • 現場の音声情報や映像をリアルタイムに共有する
  • 現場の作業員の安全を確保する

上記のことから、無駄な移動時間の削減や施工の効率化、安全性の向上などが実現します。

クラウド型施工管理システムの導入

建設業におけるICTの具体例として、クラウド型管理システムの導入も注目されています。クラウド型管理システムは、建設業において情報共有や工事の進捗管理をクラウド環境で行うことができます。これにより業務効率化や情報共有の改善などの効果が期待できます。

具体例として、建設業には予算管理や見積書など、作成した帳票の過去の工事データを探し出すのに時間がかかる、承認をもらう際にわざわざ帰社するといった手間があります。

これに対して、クラウド型管理システムを活用することで、見積作成・予算管理機能により現場での帳票作成が可能になり、これらの課題を解決できます。

建設業でおすすめICTツール・機材

ここからは、建設業におけるオススメのICTツールや機材について、いくつか紹介していきます。

紹介するICTツール・機材は以下の通りです。

建設業でおすすめICTツール・機材
  • 施工管理アプリ
  • ICT建機
  • 安全教育eラーニング
  • 新規入場者教育動画

施工管理アプリ

ICT化の活用で生産性の向上を目指すために、工事関係者間での情報共有の促進は重要です。 その情報共有を効率的に行うために必要なツールとして「施工管理アプリ」があります。

施工管理アプリは、各書類や図面、データ、写真といった工事に関係する情報を一元管理できるITツールです。工事関係者が各自、スマートフォンやパソコン、タブレットなどから最新情報にアクセスできるので、情報共有の工程が大幅に改善され、社内外の関係者との連携が円滑になります。

ICT建機

建設業においてICTの活用は安全性や作業の効率化、生産性の改善に役立つ重要な取り組みです。その中でもICT建機は施工プロセスを革新するツールとして注目されています。

主なICT建機とICT技術は以下の通りです。

  • ドローン
  • 自動レベリングシステム搭載ブルドーザー
  • 3D CADや点群処理ソフト
  • GPS搭載建設機械

例えば、ドローンで取得した測量データを基に3Dモデルを生成し、設計図と重ね合わせて、差分となる土の量をソフトウェアによって算出します。そのデータをICT建機に読み込ませることで、施工作業の半自動化を実現することができます。

安全教育eラーニング

建設業における安全教育をサポートするeラーニングサービスは、毎月の安全訓練に最適です。安全教育eラーニングでは、労働安全衛生コンサルタントによる専門的な安全教育動画や、実際の現場を想定した労働災害事例の解説など、豊富なコンテンツがあります。

インターネット環境があれば、時間や場所に制約されることなく、必要な時に必要な知識を学ぶことができます。また、学習用のテキスト資料は印刷可能なため、現場での共有や復習にも便利です。

安全教育だけでなく、建設業法など法令関連の知識も学べるので、毎月の安全訓練のネタ探しに悩む現場責任者にとって、効率的かつ効果的な安全教育を実現するツールです。

新規入場者教育動画

新規入場者教育動画は、建設現場に初めて入場する作業員向けの教育を効果的に行うためのオーダーメイド型コンテンツです。各現場の特性や状況に合わせて完全カスタマイズが可能で、現場固有のルールや安全対策を動画形式で分かりやすく伝えることができます。

現場の実際の写真や点群データを活用し、矢印や図解を用いた視覚的な解説により、複雑な情報も直感的に理解できる内容となっています。また、多言語対応が可能なため、外国人労働者が働く現場でも言語の壁を超えた効果的な安全教育を実現できます。

動画形式のため、必要に応じて繰り返し視聴でき、一貫性のある教育内容を全ての作業員に提供できる点も大きな特長です。現場の安全性向上と労働災害防止に貢献する実用的なソリューションとして、多くの建設現場で活用されています。

まとめ

今回の記事では、建設業のICT化が必要な背景やメリットを具体例を交えながら解説しました。 ICTを取り入れることは、建設業界が抱える課題を解消し、生産性の向上が期待できます。また、将来の建設業の職場環境改善や業界イメージの刷新につながるため非常に重要となります。 建設ICTをうまく活用し、働き方や職場環境の改善を目指していきましょう。