土木業界のAI活用事例|実際の導入事例と注意点

AI 2026.01.22
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「AIを導入すれば、土木業界の課題が解決するらしい…」 「でも、AIなんて難しそうだし、何から手をつければいいか分からない…」
建設業や土木業界で働くあなたは、人手不足や働き方改革への対応に追われる中で、AI(人工知能)という言葉に可能性と同時に難しさを感じているのではないでしょうか。

この記事では、土木・建設業界でAIの導入を検討している技術者やDX担当者のあなたに向けて、以下の内容を分かりやすく解説します。

  • なぜ今、土木業界でAI活用が重要なのか
  • 明日からでも試せる、身近なAI活用事例
  • 大手ゼネコンはAIをどう使っているのか(具体的な事例)
  • AI導入のメリットと、現場目線での注意点
  • 失敗しないためのAI導入の進め方

この記事を読めば、AIが「遠い未来の難しい技術」ではなく、「明日の現場を楽にする身近な道具」であることが分かります。自社のどの業務にAIを活かせるか、具体的なヒントがきっと見つかるはずです。

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目次

なぜ今「土木×AI」が注目されているのか

近年、土木・建設業界で急速にAI活用への関心が高まっています。その背景には、業界が抱える深刻な課題と、AI技術そのものの進化があります。

人手不足・高齢化が進む土木業界の現状

土木・建設業界は、長年にわたり深刻な人手不足と就業者の高齢化に直面しています。

高齢化を表すグラフ

国土交通省のデータによると、建設業就業者は1997年のピーク時(685万人)から減少し、2022年には約3割減479万人となりました。さらに、就業者のうち約36%が55歳以上である一方、29歳以下は約12%にとどまっており、技術やノウハウの継承が大きな課題となっています。
(参考:国土交通省 建設業・不動産業:最近の建設業を巡る状況について【報告】)

このような状況下で、限られた人員でいかに生産性を維持・向上させるかが、企業の存続にとって死活問題となっているのです。

働き方改革・週休2日対応で求められる業務効率化

2024年4月から建設業にも時間外労働の上限規制が適用され、「新・担い手3法」の施行と合わせて、週休2日の確保が急務となりました。

しかし、現場では依然として書類作成や写真整理、各種調整業務などに多くの時間が割かれているのが実情です。従来の働き方のままでは、工期を守りながら労働時間を短縮することは困難であり、抜本的な業務効率化が求められています。

「AI=難しい技術」から「実務を助ける道具」への変化

これまでのAIは、専門的な知識や高価な専用システムが必要な「難しい技術」というイメージでした。しかし、ChatGPTに代表される生成AIの登場により、その状況は一変しました。

生成AIは、まるで人間と会話するように、文章の作成や要約、アイデア出しなどをこなします。これにより、特別なシステムを導入しなくても、日々の書類作成や情報整理といった業務にAIを活用できるようになりました。AIは専門家だけのものではなく、現場の誰もが使える「実務を助ける道具」へと変化したのです。

現場で導入しやすいAI活用事例

「AIが便利そうなのは分かったけど、具体的に何ができるの?」と感じる方も多いでしょう。ここでは、高価な専用システムを導入しなくても、明日からでも試せる身近なAI活用事例を紹介します。

施工管理業務:日報・報告書作成を楽にするAI

毎日の日報や定例報告書の作成は、時間がかかる業務の代表格です。生成AI(ChatGPTなど)を使えば、この負担を大幅に軽減できます。

箇条書きで入力したその日の作業内容や出来事を、AIが自動で体裁の整った文章に清書してくれます。

【プロンプト例】

以下の情報をもとに、建設工事の日報を作成してください。

・日付:2024年X月X日

・天気:晴れ

・作業内容:A工区の掘削作業(進捗80%)、B工区の鉄筋組立(進捗50%)

・人員:作業員10名、重機オペレーター2名

・特記事項:午後、資材搬入遅延によりB工区の作業が1時間中断

このように指示するだけで、数秒で報告書のたたき台が完成します。

工事写真管理:写真整理・コメント作成の省力化

膨大な量の工事写真の整理や黒板情報の入力、コメント作成もAIで効率化できます。

AI搭載の工事写真管理アプリやソフトを使えば、写真に写っている内容(工種、場所、部材など)をAIが自動で判別し、仕分けやタグ付けを行ってくれます。また、黒板の文字を読み取ってデータ化したり、写真の内容に応じたコメント案を生成したりする機能も登場しています。

書類作成:施工計画書・安全書類のたたき台作成

ゼロから作成するのが大変な施工計画書や安全管理書類も、生成AIが得意とする分野です。

「〇〇工事におけるコンクリート打設の施工計画書の構成案を作成して」と指示すれば、一般的な記載項目を網羅した目次や構成案を提案してくれます。さらに、各項目について「留意点を5つ挙げて」と深掘りすることも可能です。これにより、書類作成の時間を大幅に短縮し、検討漏れを防ぐことにも繋がります。

安全管理:KY活動・ヒヤリハット整理への活用

安全管理においてもAIは有効です。例えば、その日の作業内容をAIに伝えて、「クレーン作業と高所作業が混在する場合の危険予知活動(KY活動)のテーマを5つ提案して」と指示すれば、潜在的なリスクを洗い出す手助けをしてくれます。

また、現場から集まったヒヤリハット報告をAIに読み込ませ、傾向の分析や類似事例の検索をさせることで、より効果的な再発防止策の立案に繋がります。

専用システム不要で始められるAI活用の考え方

ここで紹介した事例の多くは、ChatGPTのような汎用的な生成AIツールや、比較的安価なクラウドサービスで実現できます。

重要なのは、「まず無料で使えるツールで試してみる」という考え方です。いきなり大規模なシステム導入を目指すのではなく、日々のちょっとした業務でAIを使い、その便利さを体感することから始めましょう。

建設業向けAIツール:Avete

より建設業務に特化したAIツールとして、「Avete」のようなサービスも登場しています。

Aveteは、建設業に特化した生成AIプラットフォームで、若手の教育支援や工事写真からの配筋検査帳票の自動生成など、現場のニーズに合わせた機能を提供しています。専門用語や業界の慣習を学習しているため、汎用AIよりも精度の高いアウトプットが期待できるのが特徴です。
(参考:株式会社Arent Avete公式サイト

大手ゼネコンにおけるAI活用事例

大手ゼネコン各社は、より専門的な分野でAI技術の研究開発と実用化を進めています。ここでは、具体的なAI活用事例と、それによって業務がどう変わったのかを見ていきましょう。

大成建設:施工計画書生成AI(技術探索システム応用)施工計画書などの文書生成支援

AI技術: 社内の技術報告書など約1万件のデータを学習させたAIを活用。

業務の変化: 作成したい施工計画のキーワードを入力すると、関連する社内文書をAIが瞬時に探し出し、要約して提示します。これにより、担当者が過去の資料を探し回る手間が省け、高品質な施工計画書を効率的に作成できるようになりました。書類作成時間が最大で半分に短縮される効果が期待されています。
(参考:大成建設)

鹿島建設:BMStarⓇ_A 橋梁の損傷診断支援(インフラ点検AI)

AI技術: ドローンで撮影した橋梁の画像から、AIがひび割れなどの損傷を自動で検出・評価するシステム。

業務の変化: 従来は技術者が近接目視で行っていた点検作業を、AIが代替・支援します。これにより、点検作業の安全性が向上し、診断にかかる時間が大幅に短縮されました。技術者は最終的な判断に集中でき、点検業務全体の生産性が向上しています。
(参考:鹿島建設株式会社 プレスリリース)

清水建設:Construction GPT 技術文書生成・ナレッジ検索

AI技術: 自社が保有する膨大な技術データやノウハウを学習させた、建設業務特化型の生成AI。

業務の変化: 専門的な技術に関する質問をすると、社内データベースから最適な情報を探し出し、対話形式で回答してくれます。若手技術者がベテランに質問するような感覚で、必要な知識をいつでも引き出せるようになりました。これにより、技術継承の促進と問題解決の迅速化が図られています。
(参考:清水建設株式会社 ニュースリリース

大林組:AiCorb® 建築初期設計案の自動生成

AI技術: 設計条件(敷地形状、法規制、要望など)を入力すると、AIが複数の建築初期設計案を自動で生成するシステム。

業務の変化: 設計者が多くの時間を費やしていたボリューム検討や基本計画案の作成をAIが支援します。多様なパターンを短時間で比較検討できるため、より創造的な設計活動に時間を割けるようになり、顧客への提案の質とスピードが向上しました。
(参考:株式会社大林組 プレスリリース)

西松建設:AI構造物点検(ひび割れ検査AI)橋梁等構造物の損傷検出

AI技術: コンクリート構造物の表面画像をAIが解析し、0.05mm幅の微細なひび割れまで自動で検出する技術。

業務の変化: 熟練技術者の経験と勘に頼っていた微細なひび割れの発見を、AIが定量的に、かつ見逃しなく行えるようになりました。点検精度のばらつきがなくなり、構造物の健全性をより客観的に評価できるため、維持管理計画の精度向上に貢献しています。
(参考:西松建設株式会社 ニュース)

竹中工務店:生成AI議事録作成システム AIによる議事録自動生成

AI技術: 会議の音声をAIがリアルタイムでテキスト化し、発言の要約や決定事項の整理まで行うシステム。

業務の変化: 会議後に担当者が行っていた議事録作成の作業がほぼ不要になりました。会議参加者は議論に集中でき、会議終了後すぐに内容を確認できるため、情報共有のスピードと正確性が格段に向上しています。
(参考:株式会社竹中工務店 プレスリリース

西尾レントオール:KAKERU(安全帯検知AI) 安全帯不使用者の自動検知

AI技術: 現場に設置したカメラ映像をAIがリアルタイムで解析し、安全帯を正しく使用していない作業員を自動で検知して警告するシステム。

業務の変化: 監視員を常時配置することなく、24時間体制で安全巡視が可能になりました。ヒューマンエラーによる見逃しを防ぎ、不安全行動を即座に是正することで、墜落・転落災害のリスクを大幅に低減します。
(参考:西尾レントオール株式会社)

安藤ハザマ:AKARI Construction LLM 長年蓄積してきたノウハウを踏まえた上で、質問に対して関係性の高い情報を抽出して的確な回答文を生成

AI技術: 社内に蓄積された技術資料や施工要領書、過去のトラブル事例などを学習した大規模言語モデル(LLM)。

業務の変化: 過去の類似工事の注意点や、特定の工法に関する社内基準などを質問すると、膨大な資料の中からAIが関連情報を探し出し、的確な回答を生成します。これにより、ベテランの知見を誰もが活用できるようになり、属人化していたノウハウの共有が進んでいます。
(参考:株式会社 安藤・間 ニュースリリース)

矢作建設工業:AIあんぜん指示ボット 過去災害事例を元にした安全指示の自動化

AI技術: 過去の労働災害事例データベースと連携し、その日の作業内容に応じて関連性の高い災害事例と安全指示を自動で生成するチャットボット。

業務の変化: 朝礼やKY活動の際に、マンネリ化しがちな安全指示を、実際の災害事例に基づいた具体的な内容にできます。作業員一人ひとりの危険感受性を高め、安全意識の向上に繋がっています。
(参考:矢作建設工業株式会社 ニュースリリース)

東洋建設:AI Loading Navi(AIローディングナビ) 浚渫工事の現場で、オペレーターが経験に頼って判断していた部分を AIが数値化して支援

AI技術: 浚渫(しゅんせつ)船のグラブ(土砂を掴む装置)の動きや掴んだ土砂の量をセンサーで計測し、AIが最適な操作方法をナビゲーションするシステム。

業務の変化: 熟練オペレーターの感覚的な操作をAIが数値化・可視化することで、若手オペレーターでも効率的な作業が可能になりました。経験年数による生産性の差が少なくなり、全体の作業効率が向上。技術継承もスムーズに進みます。
(参考:東洋建設株式会社ニュース)

土木でAIを導入することで得られるメリット

AIの導入は、現場担当者から経営層まで、さまざまな立場の人にメリットをもたらします。

現場担当者のメリット:残業削減・心理的負担の軽減

  • 書類作成の自動化
    日報や報告書、各種申請書類の作成時間が短縮され、面倒な事務作業から解放されます。
  • 情報検索の効率化
    過去の図面や仕様書を探す手間が省け、必要な情報にすぐにアクセスできます。
  • 単純作業の削減
    工事写真の整理など、これまで時間を取られていた単純作業をAIに任せることで、本来注力すべきコア業務に集中できます。

これらの効果により、残業時間が削減され、心身の負担が軽減されます。

管理職のメリット:進捗把握・判断材料の充実

  • リアルタイムな状況把握
    現場の進捗状況や安全状況がデータとして可視化され、事務所にいながら現場の「今」を正確に把握できます。
  • データに基づく意思決定
    AIによる分析結果をもとに、客観的なデータに基づいた的確な指示や判断が可能になります。
  • リスクの早期発見
    AIが危険の予兆や工期の遅延リスクを検知し、問題が大きくなる前に対策を打つことができます。

会社全体のメリット:属人化防止・生産性向上

  • 技術・ノウハウの継承
    ベテラン技術者の知識や判断基準をAIに学習させることで、暗黙知を形式知に変え、組織全体の財産として蓄積・共有できます。
  • 生産性の向上
    各業務の効率化が積み重なることで、会社全体の生産性が向上し、利益率の改善に繋がります。
  • 企業競争力の強化
    AIを積極的に活用する企業として、技術力や先進性をアピールでき、人材採用や受注競争において有利になります。

現場目線で押さえておきたい注意点・デメリット

AIは万能の魔法の杖ではありません。導入を成功させるためには、現場目線での注意点やデメリットも理解しておく必要があります。

「AIに任せきり」による品質低下リスク

AIが生成した文章や設計案は、あくまで「たたき台」です。内容が常に正しいとは限りません。最終的な確認と判断は、必ず経験豊富な人間の目で行う必要があります。AIの出力を鵜呑みにすると、思わぬミスや品質低下を招く危険があります。

現場に合わないツール導入で失敗するケース

経営層やDX推進部が主導し、現場の意見を聞かずに高機能なAIツールを導入した結果、「使い方が難しい」「実際の業務フローに合わない」といった理由で全く使われずに終わってしまうケースは少なくありません。ツール選定は、実際に使う現場の担当者の意見を十分に聞くことが不可欠です。

職人・現場から反発が出やすいポイント

「AIに仕事を奪われるのではないか」「新しいことを覚えるのが面倒だ」といった不安や抵抗感から、現場の職人や作業員がAI導入に反発することがあります。AIは人間の仕事を補助し、楽にするための道具であることを丁寧に説明し、導入メリットを共有するプロセスが重要です。

セキュリティ・情報管理で注意すべき点

クラウド型のAIサービスを利用する場合、工事に関する機密情報や個人情報を入力しないように注意が必要です。社外のサーバーにデータが送信・保存される可能性があるため、会社のセキュリティポリシーを必ず確認し、ルールを遵守しましょう。

AI導入で失敗しないための進め方

では、どうすればAI導入を成功させられるのでしょうか。失敗しないための3つのステップを紹介します。

いきなり全社導入しない「小さく始める」考え方

最初から全社的な大規模導入を目指すのは失敗のもとです。まずは特定の部署や特定の業務に絞って、「小さく試してみる(スモールスタート)」ことが成功の鍵です。小さな成功体験を積み重ねることで、AIへの理解と協力が得られやすくなります。

まずは事務作業・書類業務から試す

AI導入の第一歩として最もおすすめなのが、日報作成や議事録作成といった事務作業・書類業務です
理由としては以下が挙げられます。

  • 効果を実感しやすい
    これまで数時間かかっていた作業が数分で終わるなど、時間短縮効果をすぐに体感できます。
  • 失敗してもリスクが低い
    現場の安全や品質に直接影響する業務ではないため、トライ&エラーを繰り返しやすいです。
  • 無料で始められる
    ChatGPTなど、無料で利用できるツールで十分に試すことができます。

実際に現場で使った結果を共有し、徐々に広げる

一部の部署で試して「便利だった」「〇〇の作業が楽になった」という成功事例が出たら、それを社内勉強会などで積極的に共有しましょう。具体的な成功体験は、他の部署の担当者にとって何よりの説得材料になります。「自分の業務でも使えるかも」という意識が広がり、自発的な活用に繋がっていきます。

最初に「AIに何をさせたいか」を明確化することが重要

AI導入を検討する際、最も重要なのが「AIを使って、どの業務の、どんな課題を解決したいのか?」を明確にすることです。目的が曖昧なままツールを探し始めると、「多機能だけど自社には不要なツール」を選んでしまいがちです。「書類作成の時間を半分にしたい」「ヒヤリハットの分析を自動化したい」など、具体的なゴールを設定しましょう。

まとめ

この記事では、土木・建設業界におけるAI活用について、具体的な事例から導入の進め方までを解説しました。最後に、重要なポイントを3つにまとめます。

AI導入の目的はDXではなく、現場の負担軽減

AIを導入すること自体が目的ではありません。AIは、現場で働く人たちの負担を減らし、仕事を楽にするための「道具」です。DXや生産性向上といった言葉の裏にある、この本質を忘れないことが重要です。

土木業界こそ、実務ベースでAIを使いこなせる

土木業界には、膨大なデータや過去のノウハウ、そして繰り返される定型業務が数多く存在します。これらはAIが最も得意とする領域です。業界特有の課題が多いからこそ、AIを実務ベースで使いこなせる大きなポテンシャルを秘めています。

自社に合った形で、無理なくAIを取り入れよう

AI活用の形は一つではありません。大手ゼネコンのような大規模な開発もあれば、ChatGPTで日報を作成するような手軽な活用法もあります。

まずはこの記事で紹介した身近な事例を参考に、自社の課題に合わせて、無理なく始められるところからAIを取り入れてみてはいかがでしょうか。その小さな一歩が、あなたの会社の未来を大きく変えるきっかけになるかもしれません。