建設業の安全大会とは?内容やメリットを解説

建設業界における労働災害防止の要となるのが、毎年7月の全国安全週間に合わせて各企業で開催される安全大会です。建設業は他産業と比較して労働災害の発生率が著しく高く、作業員の安全意識の向上と安全衛生知識の習得が常に求められています。
この記事では、建設業における安全大会の主な内容や開催するメリットなどを紹介していきます。ぜひ参考にしてください。

目次
建設業における労働災害の現状
建設業における労働災害の現状は、近年の安全対策の強化により死亡者数は減少傾向を示しているものの、依然として深刻な課題を抱えています。
厚生労働省の労働災害統計(職場の安全サイト)によると、建設業における死亡災害件数や、事故の型別の死傷災害件数の詳細なデータを確認することができます。これらの統計データは、今後の安全対策を検討する上で重要な指標となっています。

このグラフは、令和5年と令和4年における死亡災害発生状況です。令和4年と比較し、死亡者数は減少していますが、全産業の中で建設業の死亡者数が最多という結果となっています。

このグラフは令和5年における業種、事故の型別死傷災害発生状況です。建設業において最も多いのが墜落・転落、次にはさまれ・巻き込まれ、次いで転倒が多いことがわかります。
この高い死亡災害率の背景には、建設現場特有の危険要因が存在します。
主な死亡事故の原因として、高所からの墜落・転落、重機などによるはさまれ・巻き込まれ、作業車両等による激突され、そして交通事故が挙げられます。これらは、建設工事に不可避な高所作業や、大型建設機械の使用、不安定な足場での作業などに起因しています。
建設業の安全大会とは
建設業における安全大会とは、労働災害防止の核となる取り組みです。この取り組みは、毎年7月の全国安全週間期間中に、厚生労働省と中央労働災害防止協会の主導のもと実施されています。建設業は、機械や工具を使用する危険作業が多く、全産業の中でも特に労働災害の発生率が高い業種であることから、安全意識の向上と安全衛生知識の深化が不可欠とされています。
安全大会の特徴は、元請企業の社員だけでなく、協力会社や取引先を含む工事に関わる全ての関係者が参加することです。安全大会では、経営トップによる安全方針の表明を始め、講師による講演や、具体的な安全対策の共有、事故事例の検証、優良事例の表彰などが行われ、参加者全員で安全意識の統一を図ります。
このように安全大会は、建設業における労働災害防止の要として、作業に携わる全ての人々の安全意識を高め、実効性のある安全対策を推進する重要な機会となっています。
建設業における安全大会に関する法的根拠・規定
建設業における安全大会は法的に直接的な義務化はされていませんが、労働安全衛生法に基づく安全衛生教育の一環として位置づけられており、現場の安全意識向上を図るために開催が強く推奨されています。ここでは、安全大会の法的背景について解説します。
労働安全衛生法による教育義務
労働安全衛生法第59条では建設業を含む危険有害業務での労働者の安全・健康を確保する義務や安全衛生教育実施の義務があります。
主な内容は以下の通りです。
- 雇入れ時の安全衛生教育
- 作業内容変更時の教育
- 危険・有害業務の特別教育
安全大会は、この法定教育を効率的に実施する手段として活用されています。建設現場では季節ごとの安全指導や新規入場者教育を安全大会で行うことが一般的です。
労働安全衛生法第59条
建設業特有の安全衛生規定
建設業における安全衛生に関しては、一般的な労働安全衛生法に加え、建設業特有の安全衛生規定が定められています。
例えば、建設現場の統括安全衛生責任者は、現場全体の安全衛生教育を実施する責任があります。安全大会を実施することで、この法的責任を果たすことが可能です。
また、元方事業者は関係請負人およびその労働者に対する安全衛生指導の責任があるため、安全大会を開催することでこの法的責任も果たすことができます。
建設現場では複数の業者が作業を行うため、全体での安全意識の統一と情報共有が不可欠です。
厚生労働省指針と業界での位置づけ
厚生労働省では、「元方事業者による建設現場安全管理指針」において、元請け事業者が安全大会を主催し、関係者が参加することを労働災害防止策の一つとして推奨しています。
多くの企業は、毎年7月に行われる全国安全週間に合わせて自主的に安全大会を開催し、安全文化の醸成を目指しています。新型コロナウイルス感染症の影響により、オンライン開催も導入され、参加者の負担を軽減しながら継続的な教育を実現しています。
安全大会の主な内容・項目
安全大会では、経営トップによる安全方針の表明を始め、講師による講演や、具体的な安全対策の共有、事故事例の検証、優良事例の表彰などが行われ、参加者全員で安全意識の統一を図ります。
具体的な内容としては、安全講話や健康講話といった座学形式の教育、避難訓練や消火器訓練、救命講習などの実技訓練、季節ごとの対策訓練、そして表彰式などが実施されます。
安全講話
建設業における安全大会の講話では、以下のような内容が多く見られます。
安全講話の目的やメリット
- 現場の事故防止・安全対策
現場で実際に発生した労働災害のケーススタディを通じて、事故が起きた原因を詳細に分析し、具体的な再発防止策を検討します。また、直近の事故発生傾向を統計データとともに解説し、現場特有のリスクに対する認識を深めます。
- ヒヤリハット体験談の共有
専門講師や現場のベテラン作業員が実際に体験したヒヤリハット事例を詳しく紹介し、参加者全員で労働災害の未然防止方法やリスクの早期発見技術について活発に議論します。体験談を通じて、危険感受性の向上を図ります。
- 最新の労働災害事例や安全方針の周知
他現場で発生した最新の労働災害事例を分析するとともに、新しい安全規則の制定や法改正の内容、厚生労働省からの通達事項などの重要な情報を分かりやすく説明し、現場での実践方法を具体的に指導します。
健康講話
建設業における健康講話では、以下のような内容が多く見られます。
- 熱中症・メンタルヘルス
建設現場特有の健康リスクである熱中症や長期にわたる体調管理、メンタルヘルス課題に焦点を当てた最新情報を医療従事者や専門家が解説します。
- 栄養管理・体力づくり
健康診断の重要性や適切な水分補給・塩分補給、睡眠の質向上や食生活改善の実践的アドバイスを行います。
避難訓練
実際に警報を鳴らして現場からの避難を実施し、集合場所での安否確認や避難経路の確認をロールプレイ形式で行います。地震、火災、ガス漏れなど複数のシナリオを想定した総合的な避難訓練を実施します。
消火器訓練
消火器や消火栓の正しい使用方法を実際に体験し、火災発生時の初動対応を実践的に習得します。消火器の種類と用途の違い、安全な消火活動の限界についても併せて指導します。
救命講習
AED(自動体外式除細動器)の操作方法や心肺蘇生法(胸骨圧迫・人工呼吸)の正しい手順を、専用マネキンを使用して実技中心で繰り返し練習します。一次救命処置の重要性と適切な救急通報のタイミングについても学習します。
季節ごとの対策訓練
季節ごとの対策訓練は、以下のような内容が多く見られます。
- 夏:熱中症対策(こまめな水分補給、熱中症発生時の対応訓練)
- 冬:転倒・凍結対策(滑りやすい場所での歩き方や防寒対策)
- 梅雨・台風期:大雨・強風・雷対策(資材飛散防止や安全な避難手順)
- その他:感染症や虫刺されなど季節特有の注意ポイントの指導
季節ごとのリスクに合わせて、現場で役立つ対応方法や安全対策を全員で確認・練習します。
表彰式
優秀な安全パトロール記録の作成、長期間の無事故無違反の達成、創意工夫による安全改善提案を行い、顕著な功績を挙げた個人や作業班を賞状や記念品で表彰します。これにより企業全体の安全に対する士気向上を図るとともに、他の従業員の模範となるロールモデルの創出につなげます。
安全大会の開催時期や頻度
建設業界では、毎年7月1日から7日まで実施される「全国安全週間」に合わせて安全大会を開催する企業が最も多くなっています。この期間の前月である6月を準備期間として位置づけ、7月に集中的に安全大会を実施する企業が一般的です。
開催時期
安全大会は、以下のようなタイミングで開催されることが多く、企業や現場の状況に応じて年1回から複数回実施されます。
- 年度初め(4月):新年度のスタート時期に合わせた安全意識の徹底
- 年末年始労働災害防止強調期間前(11月~12月):建設業の労働災害防止強調期間に向けた準備
- 工事着工手前:新規工事開始時の安全管理体制の確立
- 大型工事開始時:特に規模の大きな工事における安全対策の徹底
企業によっては年度初めに全社的な安全大会を開催し、個別の工事着工時には現場単位で小規模な安全会議を行うなど、組み合わせて実施するケースもあります。
開催頻度
開催頻度は年1回~2回だったり四半期ごとだったりと企業によって様々ですが、最も標準的な開催頻度は年1回であり、全国安全週間に合わせて開催されることが多くなっています。しかし、安全意識の向上を図るためには、年に複数回実施したほうがより効果的です。可能な限り定期的に実施することで、従業員の安全に対する意識を継続的に高く保つことができます。
安全大会の開催は義務?
安全大会の開催は、法的には直接的な義務はありません。ただし、労働安全衛生法に基づく安全衛生教育の一環として位置づけられており、現場の安全意識向上を図るために開催が強く推奨されています。
多くの建設現場や工事現場では、労働災害防止と安全文化の醸成を目的として、定期的に安全大会を実施しているのが実情です。
安全大会を開催するメリット
次に建設業における安全大会を開催するメリットについて解説します。
- 現場の安全意識の向上
- 企業の信頼度アップ
現場の安全意識の向上
安全大会を開催する大きなメリットの一つが、現場の安全意識の向上です。
安全大会では、参加者全員が同じ場所で労働災害や事故のリスク、安全対策について学び、共通理解を深めることができます。これにより、現場全体で統一された安全行動を徹底できるため、安全意識が高まります。
例えば、実際に発生した労働災害や事故事例を共有することで、作業員は「自分にも事故が起こる可能性がある」と身近に危険を感じ、危険感受性が向上します。また、全作業員が同じ情報を得ることで、安全に対する認識の温度差がなくなり、現場全体で安全レベルの底上げが図れます。さらに、質疑応答の時間を設けることで、作業員が日頃感じている安全上の不安や疑問を共有でき、現場の実情に即した安全対策の改善につながります。
定期的に安全大会を開催することで「安全は最優先事項である」という企業姿勢が作業員に伝わり、油断や慣れによる事故を防ぐこともできます。加えて、安全はチーム全体の責任であるという意識が醸成され、お互いに気遣い、危険を察知したときに声を掛け合う文化が形成されます。
このように、安全大会の開催は、共通認識の形成、危険感受性の向上、継続的な動機付け、双方向コミュニケーション、チーム意識の醸成といった多面的な効果により、現場全体の安全意識を大きく向上させることができます。
企業の信頼度アップ
安全大会を開催する大きなメリットの一つが、企業の信頼度アップです。
安全大会を定期的に実施することで、「安全管理に真摯に取り組む企業」として内外から評価されます。これにより、発注者や取引先、地域社会、求職者など、さまざまなステークホルダーからの信頼を獲得できます。
例えば、発注者や元請企業からは、安全管理体制が整った信頼できる協力会社として評価され、工事受注や入札参加資格において有利になります。建設業界では安全管理の取り組みが口コミで広がるため、「安全に配慮する会社」という評判が定着し、新たなビジネス機会の創出につながります。また、建設現場と密接な関係にある地域住民からも理解と信頼を得られ、自治体や労働基準監督署からも安全管理に真摯に取り組む企業として認識されます。
さらに、採用面でも優位性があり、経験豊富な技能者は安全管理を徹底している会社を選ぶ傾向があるため、質の高い人材を獲得できます。従業員が安心して働ける環境は離職率の低下にもつながり、企業の安定性と信頼性をさらに高めます。
このように、安全大会の開催は、取引先・地域社会・行政・求職者といった多方面からの信頼を獲得し、企業の評判向上とビジネスチャンスの拡大に大きく貢献します。
まとめ
今回の記事では、建設業における安全大会について詳しく解説しました。
安全大会は法的に直接的な義務はありませんが、労働安全衛生法に基づく安全衛生教育の一環として位置づけられており、現場の安全意識向上を図るために開催が強く推奨されています。
安全大会を実施することで、作業員の労働災害や事故を未然に防ぐことにつながり、発注者・元請け企業からの評価向上、自治体や地域住民からの信頼獲得、採用面での質の高い人材確保など、企業にとって多面的なメリットがあります。これらの効果を最大限に活用するため、確実に実施しましょう。







