労働災害対策の完全ガイド|原因分析から具体的防止策まで

「自社でヒヤリハットが発生してしまった…」「経営層から労働災害ゼロを指示されたが、何から手をつければいいかわからない」
企業の安全衛生担当者や管理職の皆様は、このような悩みを抱えていませんか?労働災害は、従業員の安全を脅かすだけでなく、企業の生産性低下や社会的信用の失墜にも繋がりかねない重大な問題です。
しかし、効果的な労働災害対策を講じることで、リスクを大幅に低減させることが可能です。
この記事では、労働災害の根本的な原因分析から、明日からすぐに実践できる具体的な防止策、さらには形骸化しがちな安全活動を活性化させる方法まで、網羅的に解説します。労働災害を防ぐための具体的な取り組みを探している方は、ぜひ最後までご覧ください。
目次
労働災害の主な原因と種類
労働災害を効果的に防止するためには、まず「なぜ災害が起こるのか」という原因を正しく理解することが不可欠です。労働災害の原因は、大きく分けて「人的要因」と「物的要因」の2つに分類されます。
不安全行動に起因する「人的要因」
労働災害の多くは、人の行動に起因すると言われています。これを「人的要因」と呼び、その代表が「不安全行動」です。
不安全行動とは、労働者自身が意図的に、あるいは無意識に危険な行動をとってしまうことを指します。
- 保護具の不使用・不適切な使用 ヘルメットや安全帯、保護メガネなどを正しく着用しない。
- 安全装置の無効化 作業効率を優先し、機械の安全装置を意図的に切ってしまう。
- 危険な場所への立ち入り 立ち入り禁止区域や、重機が作動している範囲に不用意に立ち入る。
- 誤った機械・道具の使い方 本来の用途とは異なる使い方をしたり、不適切な操作をしたりする。
- 近道・省略行動 慣れや油断から、定められた作業手順を省略してしまう。
これらの行動は、「自分は大丈夫だろう」という過信や、作業の慣れ、知識不足、疲労などが引き金となって発生します。労働災害を防ぐには、まずこの不安全行動をいかに減らすかが重要なポイントとなります。
不安全な状態に起因する「物的要因」
もう一つの原因は、機械設備や作業環境そのものに危険が潜んでいるケースです。これを「物的要因」と呼び、その代表が「不安全な状態」です。
不安全な状態とは、機械や設備、作業環境などに欠陥や不備があり、災害を引き起こす可能性のある状態を指します。
- 機械・設備の欠陥 安全カバーがない、定期的なメンテナンスがされていない、故障している。
- 作業環境の不備 床が濡れていたり油で滑りやすかったりする、通路に物が置かれていて狭い。
- 整理整頓(5S)の不徹底 工具や材料が乱雑に置かれ、つまずきや転倒の原因となっている。
- 不適切な照明・換気 作業場所が暗くて手元が見えにくい、有害なガスや粉じんが滞留している。
これらの不安全な状態は、作業者がどれだけ注意していても、事故につながるリスクを常に抱えています。不安全な状態を放置せず、一つひとつ改善していくことが労災防止の基本です。
代表的な労働災害の型式と発生状況
実際にどのような労働災害が多く発生しているのでしょうか。厚生労働省の統計によると、死亡災害を除いた休業4日以上の労働災害で最も多いのは「転倒」です。

1位:転倒 (36,058人)
2位:動作の反動・無理な動作 (22,053人)
3位:墜落・転落 (20,758人)
4位:はさまれ・巻き込まれ (13,928人)
(出典:厚生労働省「令和5年 労働災害発生状況」)
特に「転倒」は、通路の障害物や床の濡れといった「不安全な状態」が原因となることが多く、日々の整理整頓や清掃がいかに重要かを示しています。また、「はさまれ・巻き込まれ」は機械作業に多く、安全装置の設置や正しい操作手順の徹底が求められます。
労働災害を防ぐための4つの基本的対策
労働災害の原因である「人的要因」と「物的要因」を取り除くためには、体系的なアプローチが必要です。その基本となるのが、「4M」と呼ばれる4つの視点から対策を考える方法です。これは「労働災害 防止 対策 4つ」として知られる重要な考え方です。
Man(人)への対策と安全教育
これは「人的要因」に直接アプローチする対策です。従業員一人ひとりの安全意識と知識、技能を高めることを目的とします。
- 安全衛生教育の実施 雇い入れ時や作業内容変更時に、法律で定められた安全衛生教育を確実に実施します。
- 危険感受性を高める訓練 KY活動(危険予知訓練)などを通じて、作業に潜む危険を自ら発見し、回避する能力を養います。
- 資格取得の奨励 フォークリフトやクレーンなど、専門知識が必要な作業には有資格者を配置し、無資格者には作業させません。
- 健康管理と適正配置 過重労働を防ぎ、心身の健康状態に配慮した人員配置を行います。
Machine(機械・設備)の安全化
これは「物的要因」のうち、機械や設備に起因する危険を取り除く対策です。
- 安全装置の設置と維持管理 プレス機や回転体にカバーを設置するなど、物理的に危険源に接触できないようにします。
- フェールセーフの導入 万が一故障しても、必ず安全側に作動する設計(例:停電時にブレーキがかかる)を取り入れます。
- フールプルーフの導入 人間が誤った操作をしても、事故が起きない仕組み(例:カバーを閉めないと機械が動かない)を構築します。
- 定期的な点検とメンテナンス 機械や設備が常に安全な状態を保てるよう、定期的な保守点検計画を立てて実行します。
Media(作業環境)の整備
これは「物的要因」のうち、作業環境に起因する危険を取り除く対策です。快適で安全な職場環境を目指します。
- 5S活動の徹底 「整理・整頓・清掃・清潔・しつけ」を徹底し、つまずきや転倒の原因となるものをなくします。
- 作業スペースの確保 通路や作業場所に十分なスペースを確保し、人やモノの安全な動線を確保します。
- 照度・温湿度の管理 作業内容に応じた適切な明るさを確保し、熱中症などを防ぐために温湿度を管理します。
- 化学物質の管理 有害な化学物質を使用する場合は、適切な保管、表示、換気を行い、ばく露を防ぎます。
Management(管理)体制の強化
これは、上記の3つのMを組織として支え、継続的に運用していくための仕組みづくりです。
- 安全衛生方針の明確化 経営トップが「安全はすべてに優先する」という強いメッセージを発信し、全社的な方針を定めます。
- 責任体制の明確化 安全管理者や衛生管理者を選任し、各部署での安全に関する責任者を明確にします。
- 作業手順書の作成と遵守 安全な作業手順を標準化し、誰もが同じ手順で安全に作業できるようにします。
- ヒヤリハット報告や改善提案制度の運用 従業員が危険個所や改善案を気軽に報告できる仕組みを作り、ボトムアップで安全性を高めます。
これら4つのMは互いに関連しており、バランスよく対策を進めることが労働災害防止の鍵となります。
企業の労働災害防止の取り組み事例
理論だけでなく、他社がどのようにして労働災害を減らしているのか、具体的な「取り組み事例」を知ることは非常に参考になります。ここでは、多くの企業で導入され、成果を上げている代表的な活動を紹介します。
KY活動(危険予知訓練)の導入事例
KY活動(危険予知訓練)とは、作業に潜む危険を事前に予測し、対策を話し合う小集団活動です。
ある製造工場では、毎日の朝礼後にチームごとにKY活動を実施しています。イラストシートを使って「この作業にはどんな危険が潜んでいるか?」を話し合い、「私たちはこうする」という行動目標を指差呼称で確認します。
この活動を導入した結果、従業員一人ひとりの危険に対する感受性が高まり、以前は見過ごされていたような小さな危険にも気づけるようになりました。また、チームで話し合うことで、コミュニケーションが活性化し、職場の安全風土が向上したという声も上がっています。
ヒヤリハット報告制度の活性化事例
「危ない!」と思ったけれど幸い事故には至らなかった。これが「ヒヤリハット」です。このヒヤリハットの情報を集めて分析することは、重大な事故を未然に防ぐために極めて重要です。
しかし、「報告が面倒」「報告すると怒られるのでは」といった理由で形骸化しがちです。ある建設会社では、この制度を活性化させるために以下の工夫を行いました。
- 報告フォーマットの簡素化 スマートフォンアプリを導入し、写真と簡単なコメントだけで報告できるようにした。
- ポジティブなフィードバック 報告者に対して「貴重な情報をありがとう」と感謝を伝え、報奨制度を設けた。
- 改善事例の共有 報告されたヒヤリハットがどのように改善されたかを全社で共有し、報告の意義を実感できるようにした。
これにより報告件数が大幅に増加し、事故の芽を早期に摘み取ることができるようになりました。
安全パトロールと改善活動の事例
定期的に職場を巡視し、不安全行動や不安全な状態がないかチェックする「安全パトロール」。ある倉庫業の会社では、パトロールを「指摘する場」から「一緒に考える場」へと変えました。
パトロールで問題点を発見した場合、その場で担当者を責めるのではなく、「なぜこの状態になっているのか?」「どうすればもっと安全になるか?」を一緒に考え、改善策をその場で話し合います。
この方法により、従業員はパトロールを「監視」ではなく「改善の機会」と捉えるようになり、自主的に職場の問題点を探し、改善提案を行う文化が根付きました。
従業員の安全意識を高める方法
どれだけ優れた設備やルールを導入しても、それを使う従業員の「安全意識」が低ければ、労働災害をゼロにすることはできません。ここでは、従業員の安全意識を高めるための具体的な方法を紹介します。
安全教育サイト「Go-Anzeny」の活用
「Go-Anzeny」は、安全教育をサポートする動画コンテンツなどを提供するデジタル教材です。
Go-Anzenyでは、安全教育を効率的に行うことのできる動画やテキストなどが400種類以上活用できます。
- 時間や場所を選ばない教育 短時間動画教育で、従業員が隙間時間で学習できます。
- アニメーション動画の活用 視覚的にもわかりやすく学習できる構成となっており、理解しやすい内容が揃っています。
- 動画と連携したテキスト教材 映像で得た知識を文章で補完し、理解をより深めることが可能です。
このような教育ツールを活用することで、マンネリ化しがちな安全教育を刷新し、従業員の安全意識を高めることができます。
「Go-Anzeny」:https://www.goanzeny.net/anzenbu
朝礼で使える安全スピーチ・言葉
毎日の朝礼での短い声かけは、安全意識を継続させる上で非常に効果的です。安全意識を高める言葉を使い、日々の作業に潜む危険を再認識させましょう。
- 「慣れた作業こそ危険が潜んでいます。今日一日、初心に戻って安全確認を徹底しましょう。」
- 「『これくらい大丈夫』という油断が事故を招きます。少しでも不安に思ったら、必ず立ち止まって確認してください。」
- 「今日も一日、安全作業でお願いします。ゼロ災でいこう、ヨシ!」
安全ポスター・スローガンでの注意喚起
職場の目立つ場所に安全ポスターやスローガンを掲示することで、視覚的に安全意識に訴えかけることができます。
スローガンの例
- 「見逃すな 小さなヒヤリ 大きな後悔」
- 「急ぐ心にブレーキを かける勇気がプロの技」
- 「守るぞルール 高める意識 みんなで築くゼロ災職場」
定期的に内容を更新することで、マンネリ化を防ぎ、常に新鮮な気持ちで安全に取り組むことができます。
指差呼称の徹底とその効果
指差呼称とは、確認対象を指で差し、声に出して確認する安全行動です。
一見単純な動作ですが、鉄道総合技術研究所の研究によれば、指差呼称を行うことで操作ミスや判断ミスが約1/6に減少するというデータもあります。
これは、目(視覚)、腕(動作)、口(発声)、耳(聴覚)を同時に使うことで、意識レベルを格段に引き上げ、確認の精度を高めるためです。「信号、ヨシ!」「スイッチ、オフ、ヨシ!」といった指差呼称を日常の作業に組み込むことは、ヒューマンエラーを防ぐための非常に有効な手段です。
安全衛生活動の体系的な進め方
これまで紹介してきた個別の対策を効果的に機能させるためには、組織として体系的に安全衛生活動を進める必要があります。
安全教育ツールの導入
安全教育ツールの導入、中でも「Go-Anzeny」というデジタル教材の導入が効果的です。
400種類超えの豊富なコンテンツ数を有しており、カリキュラムのバリエーションが増え、毎月カリキュラムを探す手間も大幅に削減ができます。
さらに、労働安全コンサルタントの監修のもとで制作されているため、信頼性の高い内容で教育担当者も安心して活用できます。
教育の質を落とすことなく、無理のない形で安全意識の向上を図る有効な手段となるツールです。
「Go-Anzeny」:
安全衛生委員会の設置と運営
常時使用する労働者が50人以上の事業場では、安全委員会や衛生委員会(または両方を兼ねた安全衛生委員会)の設置が法律で義務付けられています。
この委員会を形骸化させず、労災防止の中核として機能させることが重要です。
- 具体的なテーマ設定 ヒヤリハット報告やパトロール結果を基に、毎月の討議テーマを具体的に設定する。
- 議事録の共有 決定事項や討議内容を全従業員に共有し、活動の透明性を高める。
- 決定事項のフォローアップ 委員会で決まった改善策がきちんと実行されているか、次回の委員会で必ず確認する。
リスクアセスメントの実施手順
リスクアセスメントとは、職場に潜む危険性や有害性を特定し、それによる負傷や疾病の重篤度と発生の可能性を評価し、リスクの大きさに応じて対策を講じる一連の手順のことです。
これは、労働災害を未然に防ぐための最も科学的で効果的な手法の一つです。
- 危険性・有害性の特定 作業手順書や過去の災害事例を参考に、職場にどのような危険が潜んでいるかを洗い出す。
- リスクの見積もり 特定した危険が、どのくらいの頻度で、どれだけ重大な事故につながる可能性があるかを評価する。
- リスク低減措置の検討と実施 評価したリスクの大きさに応じて、優先順位を付けて対策を検討し、実行する。
- 実施した内容を記録し、対策の効果を確認する。
安全衛生年間計画の策定と実行
場当たり的な活動ではなく、年間の安全衛生目標を定め、それに基づいた計画を策定・実行することが、継続的な安全レベルの向上につながります。
計画に盛り込む項目例
- 年間の安全衛生スローガンと目標(例:休業災害ゼロ、ヒヤリハット報告〇件)
- 重点的に取り組む対策(例:転倒災害防止強化月間)
- 安全衛生教育の年間スケジュール
- 安全パトロールや内部監査の計画
- 健康診断やストレスチェックの実施計画
すぐに使える安全管理テンプレート
「何から始めればいいかわからない」という方のために、今日から使えるテンプレートの項目例をご紹介します。ぜひ自社の状況に合わせてカスタマイズしてご活用ください。
安全パトロール用チェックリスト
整理・整頓・清掃(5S)
- 通路や作業場所に不要な物が置かれていないか?
- 床は滑りやすくないか?(水、油、粉など)
- 工具や部品は所定の場所に保管されているか?
機械・設備
- 安全カバーや安全装置は正常に機能しているか?
- 回転部分や危険箇所に適切な表示があるか?
- 定期点検は計画通りに実施されているか?
作業行動
- 作業者は正しい保護具を着用しているか?
- 定められた作業手順を守っているか?
- 指差呼称は実施されているか?
ヒヤリハット報告書
- 報告日
- 発生日時
- 発生場所
- どのような状況で(When, Where, Who, What) (例:〇〇の通路を歩行中、床にこぼれていた油で滑って転びそうになった)
- ヒヤリとした内容(How) (例:もう少しで頭を棚にぶつけるところだった)
- 原因はなんだと思うか?(Why) (例:機械からの油漏れが放置されていたため)
- どうすれば防げると思うか?(改善策案) (例:油漏れの定期点検と、発見時の即時清掃ルールを徹底する)
リスクアセスメント実施シート
- 作業名 (例:部品のプレス加工)
- 特定した危険性・有害性 (例:金型に身体の一部がはさまれる)
- リスクの見積もり
- 可能性:(高・中・小)
- 重篤度:(致命的・重大・中程度・軽微)
- リスクレベル (例:Ⅲ – 許容できないリスク)
- リスク低減措置の内容 (例:両手押し操作式スイッチを導入し、光線式安全装置を設置する)
- 措置後のリスクレベル (例:Ⅰ – 許容できるリスク)
まとめ
今回は、労働災害の原因分析から具体的な防止策、従業員の安全意識を高める方法までを網羅的に解説しました。
最後に、この記事の重要なポイントを振り返ります。
- 労働災害の主な原因は、人の「不安全行動」と、モノや環境の「不安全な状態」である。
- 対策の基本は「4M(Man, Machine, Media, Management)」の視点でバランスよく考えること。
- KY活動やヒヤリハット報告など、従業員が主体的に参加する活動が安全文化を醸成する。
- リスクアセスメントを実施し、科学的根拠に基づいて計画的に安全衛生活動を進めることが重要。
労働災害対策は、一朝一夕に成果が出るものではありません。しかし、地道な活動を継続することが、従業員と会社を守る最も確実な道です。
この記事を参考に、まずは自社でできることから一つずつ始めてみませんか?安全な職場づくりは、企業と従業員双方にとって最も価値のある投資です。







