建設業の2024年問題とは?働き方改革対策6選

生産性向上・働き方改革 2025.06.02

2024年の企業倒産ランキングで建設業は第2位となっています。その要因には資材高騰や後継者不足等の影響もありますが、建設業の将来を担う企業として、今は従来の働き方を変えていく転換期でもあります。そこで重要となってくるのが建設業の2024年問題です。

この記事では、建設業の2024年問題の解説と、それに伴う働き方改革対策6選を紹介していきます。ぜひ参考にしてください。

建設業の2024年問題とは

建設業の2024年問題とは、2024年4月から適用される「働き方改革関連法」に対する課題のことです。

2019年4月1日に「働き方改革関連法」(正式名称「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」)が施行されました。この法律は、長時間労働等の慣行をなくすためのものです。

具体的には、

  • 時間外労働の上限規制の導入
  • 長時間労働の抑制
  • 年次有給休暇取得の義務化
  • 待遇の確保

などが規定され、違反をすると罰則を受けることになりました。

しかし建設業界は、高齢化や労働人口の減少に伴う「人材不足」や「長時間労働の常態化」等の労働環境課題を抱えていたため、解決に向けて5年間の猶予期間が設けられていました。そして、2024年4月から建設業界にも「働き方改革関連法」が適用されることになりました。

【建設業は2024年4月に適用】働き方改革関連法のポイント

今回の改正の大きな点は、「時間外労働の上限規制」と「違反の罰則」が適用されたということです。詳しく解説していきます。

時間外労働の上限が規制

2024年4月1日から、建設業の時間外労働時間の上限は、原則として月45時間以内、年間360時間以内と定められ、これを超えて働かせた場合は罰則(6か月以下の懲役または30万円以下の罰金)が科せられることになりました。
労働基準法(労基法)第36条(36協定)

また、労使合意により、やむを得ない臨時的な特別な事情(災害復旧等の緊急工事は適用外)でも、時間外労働が年720時間以内、また、時間外労働(休日労働を含む)が月100時間未満など、上回ることのできない上限が設けられました。(特別条項)

「1日」「1か月」「1年」のそれぞれの時間外労働が、労働基準法第36条(通称「36協定」)で定めた時間を超えることはできません。これでは、旧態依然の働き方を継続していくことは難しいでしょう。

例えば、始業時間が9時、休憩時間が12時~13時、終業時間が17時30分であれば、所定労働時間は7時間30分となります。仮に9時~18時に就業した場合「残業」は30分、法律上の「時間外労働」は「なし」となります。※労働基準法では1日8時間、週40時間です。

割増賃金の引き上げ

月60時間を超える法定時間外労働に対する割増賃金(25%から50%以上)が2023年4月より中小企業にも適用され、支払いが義務付けられました。

また、法定休日労働は時間外労働時間に含まれず、休日労働時間として割増賃金率が適用されます。なお、時間外労働は労働者との合意においては、振替休暇にすることも可能です。

有給休暇取得促進に向けて、使用者は、労働者に対して年5日の有給休暇を取得できるように義務付けられました。そして、未取得に対して罰則(6か月以下の懲役または30万円以下の罰金)が科せられることにも留意すべきです。
労働基準法119条1号

違反した場合の罰則は?抜け道はある?

「働き方改革関連法」に違反した場合にはもちろん罰則が科されます。一時的に違反が見つからなかったとしても、いずれは見つかる可能性が高いでしょう。

なぜなら、国は「働き方改革」を強力に推進するために建設Gメンを倍増して、実態調査を予定しているからです。これは違反行為に断固とした措置で臨む姿勢の現れといえます。

建設Gメン体制が倍増しても調査には限界があるかもしれませんが、もし見つかった場合には、より厳しい罰則が科せられる可能性も考えなくてはなりません。

違反すると懲役または罰金

違反をした場合、6か月の懲役または30万円以下の罰金となりますが、それだけではありません。発覚時点の内容状況で罰則は異なりますが、法令遵守等違反として指名停止措置や受注工事での工事成績評定の減点となりかねません。そして、今後の入札参加や受注にも影響を及ぼしかねません。そうなると、経営状態も厳しくなるでしょう。

「偽装一人親方」が問題に

「一人親方(個人事業主)」を抜け道と見なす取り扱いについて議論が進んでいます。偽装一人親方問題とは、本来は労働者として扱われるべき技能者を一人親方として偽装して働かせる問題です。

例えば、請負契約を結んでいても、その内容が実質的に労働力の対価である場合は、建設業法が適用されないことに注意が必要です。

国土交通省の「適正一人親方の目安」

国土交通省は偽装一人親方の対策として、「適正一人親方の目安」を示しています。

具体的な目安は以下です。

  • 実務経験年数や建設キャリアアップシステムのレベルに応じた対応
  • 社会保険加入に関する下請ガイドラインの改訂
  • 一人親方の働き方の確認
  • 適正な請負契約締結と適切な代金支払いなどの処遇改善策

また、技能者の経験年数に応じた対応は以下の内容です。

  • 実務経験年数10年未満またはCCUSレベル3相当未満の技能者には、雇用契約の締結・社会保険への加入促進を求めること。
  • 実務経験年数10年以上またはCCUSレベル3相当以上の技能者には、建設業法に基づく適正取引をすること。

これらは元請企業としての役割と責任に関わる重要事項です。対策への理解を深めておきましょう。

建設業法改正に伴う元請企業の責務

偽装一人親方への対策強化の一環として、建設業法も改正され、元請企業に新たな責務が求められています。

2020年(令和2年)10月施行の建設業法改正により、建設業許可・更新の要件化されたことを踏まえ、元請企業は技能者の処遇改善や現場管理向上のため、具体的に次の対応が義務付けられました。

  1. 建設業法を遵守すること
  2. 雇用契約の締結と社会保険への加入を行うこと
  3. 建設業法の適用を受けない「一人親方(個人事業主)」にも建設キャリアアップシステム(CCUS)への加入を促すこと

この実現のためには、下請契約の履行過程において、見積書内訳に労務費と法定福利費相当額等が含まれていることが必要不可欠です。これにより、適正な「労務費の基準」の実施評価にもつながるでしょう。

ガイドラインにおける関係者の役割と責任

2022年4月に改訂された「社会保険加入に関する下請指導ガイドライン」では、以下のように関係者の役割と責任が明確化されています。建設企業関係者全てが取り組むべき指針として確認しておきましょう。

  • 元請企業の役割と責任
  • 下請企業の役割と責任
  • 一人親方についての対応

建設業の課題|2024年問題が無理と言われる理由

建設業界に限らず、少子化に伴う人手不足や長時間労働等の課題を解決していく必要があります。従来の働き方では経営状況は厳しさを増すばかりで、業績不振や人件費増加により企業経営が圧迫され、立ち行かなくなるかもしれません。

建設業において2024年問題が「無理」と言われる主な理由は以下の通りです。

・深刻な人手不足
・長時間労働
・管理の難しさ

詳しく解説していきます。

深刻な人手不足

建設業界の高齢化は他業種より進行しており、若手入職者の減少と相まって、時間外労働規制に対応できる人員確保が困難な状況です。

https://jsite.mhlw.go.jp/kumamoto-roudoukyoku/content/contents/001203893.pdf

人手不足倒産の動向調査(2024年)|株式会社 帝国データバンク[TDB]
グラフを作成して挿入する

長時間労働

天候や突発的事象に対応するため、不規則・長時間の労働が当たり前となってきた歴史があり、急な体制変更は現実的ではありません。

管理の難しさ

公共工事を中心に適正な工期設定や労務単価の見直しが追いついておらず、法令遵守と採算確保の両立が難しい状況です。また、元請から多段階の下請構造において、末端の現場労働者まで一律の労働環境改善を徹底させることは極めて困難といえるでしょう。

国土交通省が推進する建設業働き方改革|5つの重点施策

国土交通省は2024年4月からの時間外労働規制の適用を、労働時間短縮等のチャンスと捉えています。持続可能な建設業に向けた働き方改革を強力に推進するため、以下のような関連施策を2024年度内に取りまとめる予定です。

  1. 時間外労働規制の理解促進のための法令解釈・運用の明確化する枠組み
    ・受発注者は、請負契約締結の基本原則を守るために、法令を順守し、双方対等な立場に立って契約を締結することが重要です。

    ・長時間労働是正として工期設定の考え方等を適切に理解・共有することが必要です。

    ・発注者の役割としては、施工条件等の明確化を図り、適切な工期での契約締結をすることです。

    ・受注者の役割としては、長時間労働を前提とした不当に短い工期とならないよう、適切な工期で契約をすることです(現行建設業法第19条の5)

    ・施工上のリスクに関する情報共有と役割分担を工事実施前に明確化することが求められます。

  2. 労働時間の縮減(休日の拡大)の取組みとしての週休2日工事や一斉閉所の拡大
    ・来年度の都道府県工事の週休2日100%実施に向けた取組みを進めています。

    ・週休2日の取得に要する必要経費の計上等による休日の拡大、全建設工事における夏期の一斉閉所を計画する等、労働時間の縮減を進めようとしています。

  3. 適正な工期設定を図るべく、「工期に関する基準」の徹底や建設Gメン体制等による調査の拡充
    「工期に関する基準」は発注者と受注者が適正な工期確保のために検討すべきものであり、契約当初だけでなく施工途中の変更時にも適用されます。工期設定では契約当事者が対等な立場でそれぞれの責務を果たす必要があります。
    (品確法第7条第1項第6号)

    ・適正な工期設定は、歩掛ごとの標準的な作業日数や標準的な作業手順を自動で算出できる「工期設定支援システム」(令和6年版)を利用して、最新版のデータをもとに工期算定が可能となっています。

    ・直轄土木工事においては適正な工期設定のために工期設定指針が策定されています(令和6年3月)。

    ・主たる工種毎に工事規模や地域状況に応じた準備・跡片付け期間の最低必要日数が設定されています。

    以上のように「適正な工期」確保が長時間労働是正となり、このために、「著しく短い工期の疑義がある場合」は、建設Gメン調査による「本基準」への照合、また、過去の実績を踏まえて判断され、結果によっては建設業法の規定による勧告や指示等が行われます。

  4. 生産性向上と超過勤務縮減のための主な施策
    ・工事関係書類の簡素化・電子化の強化 生産性向上は工期短縮や省人化等のメリットが受発注者双方にあるため、さらなる工事書類の簡素化・電子化に向けた取組みが強化されています。

    ・新たな施工方法の導入支援 建設業全体の働き方改革の一つとしてICT活用化が進められており、特定建設業者等には努力義務化と共に下請業者へのICT活用指導・養成の努力義務化が規定されています。時間外労働規制における生産性向上にはICT活用が欠かせません。令和7年度(2025年度)予算では、2040年度までに建設現場の省人化3割減と生産性1.5倍向上を目指し、「施工」「データ連携」「施工管理」の各オートメーション化を柱としたDX推進が計画されています。

    ・業務の分担化と平準化の促進 技術者業務の社内外との分担化等、一つ一つの施策の取組みに発注者及び受注者の十分な理解と迅速な対応が求められていくでしょう。

  5. 賃上げの実効性向上に向けた取組み
    ・業界との賃上げ目標設定 官民一体となった春闘を通じ、物価高騰に対応する賃上げ効果の実感や、大手企業との格差是正に向けた中小企業の賃金引上げが協議されています。

    ・建設業界における賃金確保の仕組み 建設Gメン調査により、公共工事設計労務単価の引上げが賃金に反映されているか確認します。入札時の賃上げ表明の実施状況やCCUSを通じた適正賃金の労働者への確実な支払いを監視し、必要に応じて是正勧告を行うことで、実効性の高い賃上げを推進していきます。

2024年問題を解決!建設業の働き方改革対策6選

建設業の2024年問題を解決するためには働き方改革への対策が不可欠です。具体的な対策として以下の対策があります。

・人材不足への対応

・労働時間の見直し

・給与・社会保険の見直し

・適正な労務管理

・ITツール導入/建設DXによる生産性向上

詳しく解説していきます。

人材不足への対応

深刻な人手不足は早急に解消することができませんが、対策としては以下が重要です。

  1. 現在の人材を効果的に活用すること

  2. 業務の仕分け(分担化)を行うこと
    ・建設技術者(技能者)が必ず担当すべき業務(施工)
    ・異業種人材やIT・システム化で対応できる業務(作業)

まずは、上記のような取り組みで生産性向上を促進しましょう。

また、これまでの慣例とも決別する必要があります。

  • 無理な仕事は請け負わない
  • 無理な仕事を請け負わせない
  • 適正な工期と賃金(労務費・法定福利費を含む)を確保できる契約を結ぶ

発注者から下請企業に至るまで、良好な関係を築き、契約を適正に履行していくことが不可欠です。

労働時間の見直し

現在は週休2日制の工事も増えてきましたが、まだすべての工事において実現はしていません。労働時間を適切に管理するため、以下の取り組みを行いましょう。

  1. 始業・終業時刻を客観的に確認・記録する
    ・上司による現認
    ・ PC使用時間の記録
    ・ ITツールやシステムの導入

  2. 業務内容を見直し(仕分け)し、労働時間の短縮を図る

これらの対策を徹底することで、時間外労働を含む総労働時間を適正に管理し、働きやすい環境を実現できるはずです。

給与・社会保険の見直し

働き方改革に対応するためには、給与体系と社会保険の総合的な見直しが重要です。

給与面の見直し
  • 適正な賃金水準の設定(建設キャリアアップシステムのレベルに応じた給与体系)
  • 時間外労働の適正な割増賃金の支払い(深夜・休日含む)
  • 法定福利費の明確な計上と支払い
  • 賃金台帳の適正な調製と管理
社会保険面の見直し
  • 全ての労働者に対する社会保険加入の徹底
  • 一人親方に対する適切な保険加入指導
  • 下請企業の社会保険加入状況の確認体制構築
  • 「社会保険加入に関する下請指導ガイドライン」への準拠

賃金台帳については、労働者ごとに労働日数、労働時間数、休日労働時間数、時間外労働時間数、深夜労働時間数や適正な時間外労働の割増率適用といった事項を適正に記入・記録し管理することが求められます。

これらの管理のためのITやシステム導入も必要でしょう。また、虚偽や未記入が発見された場合は罰則の対象となります。

適正な労務管理

適正な労務管理を実施することは、労働環境の改善だけでなく、企業の生産性向上にもつながります。特に建設業では、長時間労働が課題となっているため、以下の取り組みを意識することが重要です。

  1. 勤怠管理の徹底
    労働時間の適正な管理は、過重労働を防ぐだけでなく、法令遵守の観点からも必要不可欠です。企業は以下の方法を活用し、客観的な労働時間の把握に努める必要があります。

    ・始業・終業時刻の客観的な確認・記録
     (手書きの勤怠管理ではなく、デジタル化を推奨)

    ・上司による現認(現場管理者が労働時間を確認し、適切に記録)

    ・PC使用時間の記録(業務時間の可視化)

    ・ICカードや生体認証などのシステム活用(不正打刻防止)

    ・ITツールやシステムを導入した労働時間の適切な管理
     (クラウド型勤怠管理システムの活用)

    ・時間外労働・休日労働の正確な把握(違法な長時間労働を防ぐための措置)

  2. 業務効率化と負担軽減
    適正な労務管理は、単に労働時間を削減するだけでなく、業務の見直しを通じて生産性を向上させることも重要です。無駄な業務を減らし、労働者の負担を軽減するために、以下の取り組みを行いましょう。

    ・業務内容の見直しと効率的な仕分け(不要な業務を削減し、本来の業務に集中)

    ・不要な業務の削減・外注化の検討(アウトソーシングの活用で負担軽減)

    ・多能工化による業務分担の最適化(1人の負担を減らし、柔軟な働き方を実現)

  3. 法令遵守と健康管理
    労働基準法や建設業特有の規制を遵守しながら、労働者の健康を守ることが、企業の責務として求められています。特に、過労による健康被害を防ぐためには、以下の対策が不可欠です。

    ・国土交通省「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」の理解と実践

    ・36協定の適正な締結と運用(残業時間の上限を明確化)

    ・労働者の健康状態のモニタリングと過重労働防止
     (健康診断やストレスチェックの実施)

ITツール導入/建設DXによる生産性向上

ITツール導入とDX(デジタルトランスフォーメーション)による主な取り組みは以下の通りです。

書類業務の効率化
  • 工事関係書類の簡素化
  • 電子化の強化 ・ペーパーレス化による事務作業の削減
  • 電子承認システムによる承認プロセスの迅速化
現場のデジタル化
  • BIM/CIMの活用による3次元モデルでの情報共有
  • ドローンやAI技術を活用した測量・検査の自動化
  • 遠隔施工管理システムの導入

これらのデジタル技術の活用により、超過勤務の縮減に期待できるでしょう。

まとめ

建設業に2024年4月から働き方改革関連法が適用された現在(イマ)。多くの建設会社が、法令遵守と企業経営継続の両立に向けて、「人手不足」「週休2日の確保」「長時間労働の是正」などの課題解決に取り組んでいます。そして、さらなる経営安定化に向けた働き方改革・生産性向上への取り組みを検討しているでしょう。

建設業の2024年問題に対応するため、国も「地域の守り手」として建設企業継続を支援する様々な補助金制度を用意しています。

今からでも課題解決の第一歩として、日々の仕事や現場で生じている無駄を徹底的に洗い出し、業務効率化を推進することから始めていきましょう。