工事成績評定とは?高得点を目指すためのポイントを紹介

建設会社が公共工事を受注する上で重要な工事成績評定。実施要領は公開されているものの、高得点をとるためにどうすればいいのかわからない人も多いでしょう。
そこでこの記事では、元国土交通省OBの長年の経験からみる平均点や、具体的な評価の仕組みをわかりやすく解説します。また、高得点を目指すためのポイントや、創意工夫での加点を目指すための事例なども紹介していきますので、ぜひ参考にしてみてください。
目次
工事成績評定とは?
工事成績評定とは、公共工事において国や地方自治体が工事を請け負った建設会社の施工品質や履行状況を評価する制度です。この制度は、工事の適正な実施と公共事業の品質向上を図る目的で行われています。工事成績評定は100点満点で評価されます。例えていうなら学生時代の『試験』を思い浮かべればいいでしょう。それを工事に当てはめ100点満点中65点が標準点(及第点)となります。

この点数は標準施工しただけで何の評価も得られなかったときのものになります。その標準施工から契約図書や特記仕様書・土木工事共通仕様書等に示されている契約事項を中心に、設定された規格・品質・形状等を工夫した施工とし、かつ、品質の良い構造物等を工期内に完成させた場合に、その施工状況や結果を評価度合によって「加点」されます。
創意工夫についての【加点項目】
- 施工に伴う器具、工具、装置類等に関する工夫
- コンクリート二次製品などの代替材の利用に関する工夫
- 土工、地盤改良、橋梁架設、舗装、コンクリート打設等の施工に関する工夫
- 部材・並びに機材等の運搬及び吊り方式などの施工方法に関する工夫
- 設備工事における加工や組立等、電気工事における配線や配管に関する工夫
- 給排水工事や衛生設備工事等における配管・ポンプ類の凍結防止、配管のつなぎ等に関する工夫
- 照明などの視界の確保に関する工夫 仮排水、仮道路、迂回路等の計画的な施工に関する工夫
- 運搬車両、施工機械等に関する工夫
- 支保工、型枠工、足場工、仮桟橋、覆工板、山留め等の仮設工に関する工夫
- 盛土の締固度、杭の施工高さ等の管理に関する工夫
- 施工計画書の作成、写真の管理等に関する工夫
- 出来形又は品質の計測、集計、管理図等に関する工夫
- 施工管理ソフト、土量管理システム等の活用に関する工夫
- 特殊な工法や材料を用いた工事
- 優れた技術力又は能力として評価する技術を用いた工事
- NETIS登録技術のうち事後評価未実施技術を活用し、活用効果調査表を提出
- NETIS登録技術のうち事後評価未実施技術を活用し、発注者による活用効果調査結果の総合評価点が120点以上
- NETIS登録技術のうち「有用とされる技術」を活用し、活用効果調査表を提出
- NETIS登録技術のうち事後評価未実施技術及び「有用とされる技術」以外の新技術を活用し、発注者により活用効果調査結果の総合評価点が120点以上
- 土工、設備、電気の品質向上に関する工夫
- コンクリートの材料、打設、養生に関する工夫
- 鉄筋、PCケーブル、コンクリート二次製品等の使用材料に関する工夫
- 配筋、溶接作業等に関する工夫
- 安全を確保するための仮設備等に関する工夫(落下物、墜落・転落、挟まれ、看板、立入禁止柵、手摺り、足場等)
- 安全教育、技術向上講習会、安全パトロール等に関する工夫
- 現場事務所、労務者宿舎等の空間及び設備等に関する工夫
- 有毒ガス並びに可燃ガスの処理及び粉塵防止、作業中の換気等に関する工夫
- 一般車両突入時の被害軽減方策又は一般交通安全確保に関する工夫
- 航行船舶への安全周知または事故防止等に関する工夫
- 厳しい作業環境の改善に関する工夫
- 環境保全に関する工夫
一方、粗雑品や事故や法律違反などの違反を行うと「減点」となります。それが工事成績評定です。そして高評価により高得点を取得すると、次の仕事を獲得する際に他社との競争に優位になるというものです。
実施要領の確認方法
工事成績評定の実施要領は発注機関にて定められ公表されています。ですが、発注機関によって基準や評価項目が異なる場合があります。国では国土交通省の基準、県や市では独自の基準や運用方法が採用されることが多く、評価基準や配点に多少の違いがあります。
そのため各発注機関が公開する実施要領や評価基準を事前に確認し、それぞれの要件に応じた対応が必要となります。
リンク:実施要領
採点項目
採点項目は、技術検査官・総括技術評価官(総括監督員)・主任技術評価官(主任監督員)の3名ごとに異なります。

主任技術評価官
「施工体制」「施工状況」「出来形及び出来ばえ」「創意工夫」の4項目9細別にわたって評価を行います。その結果は、「a」評定(40点)~「c」評定(26点)となります。「d」評定や「e」評定となれば「減点」です。
総括技術評価官
「施工状況」「工事特性」「社会性等」「法令遵守」4項目5つの細別にわたって評価を行います。結果は「a」評定(20点)~「c」評定(13点)となります。「d」評定や「e」評定となれば「減点」です。
技術検査官
「施工状況」「出来形及び出来ばえ」の2項目4つの細別において評価を行います。結果は「a」評定(40点)~「c」評定(26点)となります。「d」評定や「e」評定となれば「減点」です。
a評定 | b評定 | c評定 | d評定 | e評定 | |
主任技術評価官 ・施工体制 ・施工状況 ・出来形及び出来ばえ ・創意工夫 |
40点 | 31.6点 ※創意工夫を含まない |
26点 | 減点 | 減点 |
総括技術評価官 ・施工状況 ・工事特性 ・社会性等 ・法令遵守 |
20点 | 14.5点 ※工事特性を含まない |
13点 | 減点 | 減点 |
技術検査官 ・施工状況 ・出来形及び出来ばえ |
40点 | 33点 | 26点 | 減点 | 減点 |
評定を行う3人の評定者の考査項目(細別)の評価対象項目には、内容が似通う文言が多々あります。また、施工プロセスのチェックリストにおいても同様な評価内容があることを押さえておかなければなりません。
例えば、施工体制一般の項目「施工計画書の内容と現場施工方法が一致している」に主任技術評価官が評価(レ点チェック)をすれば、おのずと技術検査官の評価対象項目も評価(レ点チェック)を受けます。ただし、検査時に施工状況写真等で確認できなければアウトです。ここからは似通った評価対象項目をどのようにして「レ点」を付けてもらうかを解説していきます。
評価の仕組み
まず、工事成績評定は技術検査官、総括技術評価官(総括監督員)、主任技術評価官(主任監督員)の3人によって行われます。
100点満点のうち、主任技術評価官40点、総括技術評価官20点、技術検査官40点の配分となっています。
評価者 | 点数配分 |
主任技術評価官 | 40点 |
総括技術評価官 | 20点 |
技術検査官 | 40点 |
合計 | 1000点 |

3名の評定者の考査項目ごとに示された評価対象項目の評価割合によって「a」~「e」の5段階(または7段階)に評価され、評定点が付けられます。つまり、標準点(全てが「c」評価で65点)に考査項目ごとの評価に応じた「加点」が加えられます。例えば、主任技術評価官が全てに「c」評価では加点なしの「26点」、全てに「a」評価をすれば14点が加点されて「40点」となります。
そして、考査項目の中で似通った評価対象項目の判定を最初に行うのは主任技術評価官です。主任技術評価官は、現場監督の責任者でもある主任監督員(出張所長や建設監督官)と同一人物になります。施工プロセスのチェックリストの作成は主任監督員の部下である現場技術員や監督員が行いますが、主任監督員も書面や現場把握をしているため全体的な評価をします。
総括技術評価官(総括監督員)が行う考査項目において「施工状況」「社会性等」(工事特性は除く)の評価対象項目内容は主任監督員が説明して評価判断する内容です。評価をした後では訂正が難しくなったり報告漏れになる可能性があるため、評価を得るためには受注者が活動内容の資料を前もって準備した方がいいでしょう。
技術検査官は、主任監督員から工事概要説明を受け、評定内容などを事前確認した上で、実地検査に望みます。そして、契約履行に沿った目的物を引き取る重要な役割として「出来形及び出来ばえ」に主眼をおいて評価します。
このように、最初に評定作業を行う主任技術評価官(主任監督員)の評価内容が全体の工事成績評定点に及ぼす影響は非常に大きいと言えます。ただし、評価が極端に歪められたり3名の評定者が異なる判断にならないよう種々に調整も行われています。
工事成績評定の平均点は?80点90点は可能?
工事成績評定の平均点は地域や工事の種類、規模などによって異なりますが国土交通省の各地方整備局のホームページに平均点が公開されているケースもあります。
平均点は80点
地方整備局 | 平均点 | 最高点 | 最低点 |
東北地方整備局 | 79.6 | 84 | 68 |
中部地方整備局 | 79.5 | ||
近畿地方整備局 | 79.8 | ||
中国地方整備局 | 80.4 | ||
四国地方整備局 | 79.4 | ||
九州地方整備局 | 80.48 | 84 | 71 |
※令和5年度完成工事平均点
点数は工事種別によって評定点に多少の差があります。これは、考査項目の「出来形及び出来ばえ」「工事特性」の評価対象項目内容(考査項目別運用表から)が影響しています。
まずは80点を目指す
工事成績評定の目標評定点の最低ライン80点。そこを目指すのは、「優秀企業」の認定を得たいためでもあります。なぜなら「優秀企業」の認定を得ることで「優遇措置」が与えられるからです。
「優遇措置」とは例えば、入札参加時の加点対象となるだけでなく受注工事の中間技術検査が減免されます。受検する担当者(現場代理人・監理技術者等)の工事関係書類確認整理を始めとする施工管理等への負担軽減や工事施工途中における現場管理に集中できるのも有利な点です。
そのためには、考査項目の全てにおいて「b」評価を勝ち取る必要があります。しかし「工事特性」では発注内容の難易度で決定するため、加点することは厳しいでしょう。また、「社会性等」で「b」評定以上を得るためは「複数以上」の評価対象項目の内容を積極的に実施して評価されるため、高得点は厳しいものと推測されます。1~2項目では少ないため「c」評定となる可能性が高いでしょう。
この「工事特性」、「社会性等」の2項目を補完するためには、「創意工夫」において高得点を獲得する必要があります。可能であれば満点の7点を目指すことがいいでしょう。ただし、令和6年度より最大10項目までとなっているため、偏らずに【施工】【新技術】【品質】【安全衛生】【その他】の各項目を選定して提出する必要があります。10項目以上提出をすると逆に「働き方改革」への理解がされていないと受け取られて評価も下がってしまうので注意しましょう。
90点の難易度は?
工事成績評定で90点を取るということは、非常に難易度が高いと言えるでしょう。しかし、発注者が求めてきている公共工事の品質確保から「出来形及び出来ばえ」の「品質」において「a」評価を取得すれば可能であると言えます。
リンク:工事成績評定 90点
高得点を目指すための3つのポイント
ここからは、工事成績評定で高得点を目指すためのポイントを解説していきます。
事故による減点を防ぐ
どの考査項目も必要ですが、まずは万全の安全対策をして事故による減点を受けないことが最も重要です。建設現場ではどこに危険が潜んでいるか分かりません。見落として事故が発生すれば高得点どころではありません。早めの対策や会社の支援(第三者の目)を欠かさないことが大切です。
また、事故の一歩手前のヒヤリハットした意見等を吸い上げることもいいでしょう。もらい事故の可能性も考慮し、常に現場で不安全な事項がないか確認することが無事故へとつながります。
過去の事例で、交差点改良工事で架空線切断する事故がありました。現場の事前調査をしていたにもかかわらず、その後に移動した架空線に重機が接触して切断したものです。この事故は『日々の現場管理の不備』にあたるため、「文書注意」(8点の減点)となりました。
このように、一度の事故や法令違反でも評定合計点から減点されてしまうのです。
高品質を目指した創意工夫等
発注時の工事内容は標準施工であり、様々なところに創意工夫の余地があります。発注時期や気象条件、施工箇所等にも創意工夫にすべきポイントがあるかもしれません。そして、発注者が加点評価を公表している内容には積極的に取組んだほうがいいでしょう。
例えば「ICT活用工事」への加点や「働き方改革」への取組・休日確保に「新技術活用」などがあります。積極的な姿勢を見せることで他の考査項目においても高評価へと繋がります。創意工夫に取り組んだ結果も含めて報告を忘れないようにしましょう。
工事施工前の工事連絡協議会や設計変更審査会等開催を活用し、課題の取り組み内容の提案や説明をして、発注者へのアピールの機会を逃さないようにしましょう。
会社を挙げての支援体制
高得点を目指すうえでは、一部の技術者だけでなく会社全体で支援できる体制を作ることが望ましいです。具体的な支援体制としては、本社と現場間で定期的な会議を行い、現場の課題の共有・解決を図ることや、安全パトロールでのPDCAを実施して現場をサポートすること、他の工事現場での取り組みを情報共有することなどが挙げられます。
会社全体で支援することにより「施工体制」の評定も評価を受け、「施工管理」「安全管理」「品質」の評定へ繋がっていきます。
創意工夫での加点を目指すためには
創意工夫での加点を目指すためには「施工」「新技術」「品質」「安全衛生」「その他」の各事項から満遍なく取り組むことを推奨します。例えば、「新技術活用」のみで最大7点を取ることはあり得ません。ましてや点を取るためにだけ実施した事項は得点になり得ないでしょう。発注工事内容は標準施工なので、創意工夫で加点をする余地は十分残っています。
創意工夫で加点を目指すうえで、他の建設会社がおこなっていない新しい取り組みを探している技術者も多いでしょう。そこでおすすめしたいのが『エイジフレンドリー』の取り組みです。エイジフレンドリーとは高齢者を含むあらゆる年齢層の人々が安心して働くことができる環境を整える取り組みです。
担い手不足が深刻化し高齢化が進む建設現場において、高齢の作業員が安全に現場で作業するうえで必要不可欠となる取り組みでもあります。
(国交省厚労省連盟資料添付)
さらに、エイジフレンドリーは『健康経営』とも密接な関係性にあります。最近では県や市の取り組みで健康経営に関わる内容のものも多く、健康経営の取り組みをすることで競争入札参加資格の審査項目で加点になるケースも見られます。
例えば、朝のラジオ体操を腰痛予防ストレッチに変えることで作業員の腰痛を軽減し労働生産性をあげたり、休憩時間に隙間時間で行える転倒予防エクササイズをして転倒リスクを軽減するなどがあります。現場の安全だけでなく身体の安全を考慮した現場づくりをおこなっていると発注者にアピールすることができます。
まとめ
工事成績評定で高得点を取るうえでは、発注者(監督職員)とのコミュニケーションも大切です。円滑な工事進捗を行うとともに、発注者側からの定期的な伝達事項から現場への取り組む内容も得られることが多々あります。建設業界の動き等への「気づき」も重要となってきます。
最後に、当該工事の評価対象項目の評価(レ点が付く)は、受注者が自主的に実施した場合のみ「評価」(レ点)されるものです。受注者が監督職員の指導や助言をもとに実施し、結果良好だったとしても評価されることはありません。つまり、考査項目の評価値は下がるということでもあるので積極的な提案が必要です。