ISO9001:2015の要求事項とは?運用のポイントも含め分かりやすく解説

ISO 2025.06.02

ISO9001認証を受けるときの審査の基準となるISO9001要求事項

ISO9001の要求事項はISO/TC 176(国際標準化機構)が策定しており、国内で使用されている日本語解釈されているものは、日本規格協会が発行しています。日本語で解釈されているといっても、初見で見ると内容が難しく、実務にどう組み込んだらいいか分からないといった方が多いでしょう。

そこでこの記事では、ISO9001:2015の要求事項の解説や実務と統合するためのポイントなど、必要な情報を初心者向けに説明していきます。

ISO9001(品質マネジメントシステム)とは?

ISO9001は『顧客満足の向上』を目的とした品質マネジメントに関する国際規格です。製品・サービスの品質を継続的に改善する仕組みを構築・管理するための基準を示しており、国内でも最も取得数が多い規格です。

ISO9001の規格要求事項を満たす組織運営を行うことで、顧客の要求事項や法令・規制順守事項を満たした製品・サービスを継続的に提供することを実現し、「顧客満足の向上」「組織の全体的なパフォーマンス向上」に効果があります。

品質マネジメントシステム7つの原則とは?

品質マネジメントの7原則とは、『JISQ9000:2015』により規定されている品質マネジメントの基本的な考え方です。ISO9001規格自体がこの7原則に基づいて策定されているため、無意味なISOにならないためにも十分に理解することが必要です。

内容は以下のとおりです。

原則1 顧客重視

原則2 リーダーシップ

原則3 人々の積極的参加

原則4 プロセスアプローチ

原則5 改善

原則6 客観的事実に基づく意思決定

原則7 関係性管理

『JISQ9000:2015』では、組織にとって「この原則がなぜ必要なのか」「どういった効果があるのか」「どう改善したら効果的なのか」といった内容が載っており、取り組みの例を交えながらガイドラインを示しています。

それでは、各原則について詳細を説明していきましょう。

①顧客重視

「品質マネジメントの主眼は,顧客の要求事項を満たすこと及び顧客の期待を超える努力をすることにある。」

引用:「JISQ9000:2015 品質マネジメントシステム-基本及び用語」

品質マネジメントの主な目的は、顧客満足につきます。

この規定で言う”顧客”とは、製品やサービスを購入・利用する人や組織のみを指しているわけではありません。組織や製品、サービスに直接・間接的に影響を与える、または影響を受ける人や組織といった”利害関係者”も含まれます。顧客(=利害関係者)をマネジメントシステムの一部として捉え、顧客(=利害関係者)の要求と期待に応える必要があります。

また、顧客(=利害関係者)の期待を超えるために、ニーズを把握し、製品やサービスを提供する上で発生するプロセスの継続的な改善を実施することで、顧客の信頼も継続することができるのです。

②リーダーシップ

「全ての階層のリーダーは,目的及び目指す方向を一致させ,人々が組織の品質目標の達成に積極的に参加している状況を作り出す。」

引用:「JISQ9000:2015 品質マネジメントシステム-基本及び用語」

組織におけるリーダー(トップマネジメント)は、品質マネジメントシステムの計画、実施、改善を継続する責任を負わなければなりません。また、組織の方向性やビジョンを明確にして、それを組織内外に伝えることが求められます。

リーダーは具体的な経営理念や方針を言語化・成文化し、従業員に理解してもらい、明確な目標へと導くことでリーダーシップを発揮します。

③人々の積極的参加

「組織内の全ての階層にいる,力量があり,権限を与えられ,積極的に参加する人々が,価値を創造し提供する組織の実現能力を強化するために必須である。」

引用:「JISQ9000:2015 品質マネジメントシステム-基本及び用語」

品質マネジメントシステムの成功には、リーダー(トップマネジメント)が方向性や目標を明確にし、それを組織内外に伝えるだけでなく、従業員全員が目標達成に向けて主体的に行動することが重要です。リーダーは組織全体が一体となって目標に向かい、従業員が自らの能力を発揮できる場を提供する必要があります。

マネジメントシステムは「全員参加」を原則とし、個々が自分の役割を理解し行動することで成り立ちます。

④プロセスアプローチ

「活動を,首尾一貫したシステムとして機能する相互に関連するプロセスであると理解し,マネジメントすることによって,矛盾のない予測可能な結果が,より効果的かつ効率的に達成できる。」

引用:「JISQ9000:2015 品質マネジメントシステム-基本及び用語」

プロセスアプローチとは、組織の仕事をプロセス(業務の流れ)単位で分解し、各プロセスの相互関係を明確にしたうえで、それらをシステムとして管理・運用する手法です。このアプローチでは、各プロセスの「インプット」と「アウトプット」を整理し、誰が何をどのように行うかをルール化して管理状態を維持します。

ISO9001などの規格で重視される考え方で、無駄を排除し、品質向上と継続的改善を図ることを目的としています。

⑤改善

「成功する組織は,改善に対して,継続して焦点を当てている。」

引用:「JISQ9000:2015 品質マネジメントシステム-基本及び用語」

継続的改善は、現状に問題がなくても「より良くする方法」を常に考え、マネジメントシステムを最適化し続けることを指します。不具合の対応だけでなく、現状や時代の変化に合わせて仕組みを見直し、アップデートすることが重要です。

ISO9001では、PDCAサイクルを用いてこの改善プロセスを推進し、組織の品質向上と適応力を強化することが求められています。

⑥客観的事実に基づく意思決定

「データ及び情報の分析及び評価に基づく意思決定によって,望む結果が得られる可能性が高まる。」

引用:「JISQ9000:2015 品質マネジメントシステム-基本及び用語」

組織の目標達成や改善活動には、経験や推測ではなく、データや記録に基づく客観的な事実をもとに意思決定を行うことが重要です。データの分析や評価に基づいて判断することで、望む結果を得られる可能性が高まり、具体的かつ明確な目標設定や改善策の実施が可能になります。

このアプローチにより、確かな根拠に基づいた効果的なマネジメントが実現します。

⑦関係性の管理

「持続的成功のために,組織は,例えば提供者のような,密接に関連する利害関係者との関係をマネジメントする。」

引用:「JISQ9000:2015 品質マネジメントシステム-基本及び用語」

組織と利害関係者は対等かつ平等な立場で協力することが重要です。顧客満足を達成するためには、利害関係者や供給者との良好な関係を管理し、適切なインプット(材料、資源等)を確保して品質の高い製品やサービスを提供する必要があります。

この互恵的な関係が、組織の成果と顧客満足の向上につながります。

2015年度版改訂で企業の実態にあったQMSの構築が可能に

ISO9001(QMS)は、2015年に企業の実態に合った無駄のない品質マネジメントシステムの構築が可能となるよう改訂されました。

改訂の主なポイントは以下の通りです。

  • 事業目的達成のため、業務とISO9001を統合し、その運用の効果の検証まで要求
  • 品質リスクや機会を考慮したマネジメントシステム運用の要求
  • 文書化要求の緩和
  • 実務に即した業務の流れ(プロセスアプローチ)を反映した構築
  • 品質保証重視から顧客重視の体制構築へのシフト

これにより、ISO9001は書類中心から実務重視へと転換し、より実践的で柔軟な規格となりました。

ISO9001の要求事項一覧と運用のポイント

ISO9001を取得したいならば、ISO9001の要求事項を満たすような仕組みを構築しなければなりません。

以下はISO9001の要求事項の一覧です。

条項
題目
1項. 適用範囲

2項. 引用規格

3項. 用語及び定義

4項. 組織の状況
4.1 組織及びその状況の理解
4.2 利害関係者のニーズ及び期待の理解
4.3 品質マネジメントシステムの適用範囲の決定
4.4 品質マネジメントシステム及びそのプロセス

5項. リーダーシップ
5.1 リーダーシップ及びコミットメント
5.2 方針
5.3 組織の役割,責任及び権限

6項. 計画
6.1 リスク及び機会への取組み
6.2 品質目標及びそれを達成するための計画策定
6.3 変更の計画

7項. 支援
7.1 資源
7.2 力量
7.3 認識
7.4 コミュニケーション
7.5 文書化した情報

8項. 運用
8.1 運用の計画及び管理
8.2 製品及びサービスに関する要求事項
8.3 製品及びサービスの設計・開発
8.4 外部から提供されるプロセス,製品及びサービスの管理
8.5 製造及びサービス提供
8.6 製品及びサービスのリリース
8.7 不適合なアウトプットの管理
9項. パフォーマンス評価
9.1 監視,測定,分析及び評価
9.2 内部監査
9.3 マネジメントレビュー

10項. 改善
10.1 一般
10.2 不適合及び是正処置
10.3 継続的改善

実施するのは4項~10項になりますので、各項目について運用のポイントを分かりやすく解説していきましょう。

4.組織の状況

自社の経営環境の状況を分析し、外部及び内部の課題、利害関係者の要求事項を明確にしなければなりません。

やるべきこととしては、SWOT分析を用いて自社の内部の強み・弱み、外的環境による機会・脅威の洗い出しを行います。また、自社の利害関係者は何になるかを検討し、各利害関係者に対するニーズ(法規制等必ず守るべきこと)及び期待(求められている事や努力目標)の洗い出しを行います。

外部及び内部の課題は特に利害関係者に対する期待に沿うような内容も追加することがベストです。(利害関係者に対するニーズは絶対実施できているという前提で、課題の方にわざわざ記載する必要性がないからです)

また、適用範囲は、自社の製品、活動、サービス及び上記の状況を考慮した内容にしましょう。

5.リーダーシップ

この要求事項で言うリーダーシップの意味は、「説明責任を持つ」ことです。

経営層は、顧客満足向上のために顧客要求事項及び適用される法令・規制順守事項を満たすようにしなければなりません。そのため、4項の内容である組織の内部外部の課題を踏まえて、自社で目指すもの(意図した結果)を明確にします。品質方針を作って、従業員に理解してもらい、取引先や協力会社から求められたら提示できるようにしましょう。

品質方針は「適用される要求事項を満たすこと」と「品質マネジメントシステムの継続的改善」についての内容を織り込む必要があります。また、組織図、各部門の役割や責任及び権限についても明確にしておくといいでしょう。

経営層は、現場の状況を理解し、それに対して積極的に支援し、リーダーが関与しているということを説明できるよう求められています。

6.計画

4.組織の状況で説明した外部及び内部の課題に対する取組計画、その取組の有効性評価方法を決定し、その実施結果を記録に残せるようにしましょう。

また、ここでは品質目標を文書化して策定するように要求されています。品質目標を立てる際は、品質方針に紐づけ、達成・未達が明確に判定できるよう設定しましょう。顧客満足につながるような内容に設定し、従業員が分かる状態にすることも重要です。

次に品質目標を達成するための計画(実施事項、必要な資源、責任者、実施事項の完了時期、結果の評価方法)を決定しなければなりません。

この項目のもう一つの内容として、組織がマネジメントシステムの変更の必要性を決定した時は、計画的な方法で行わなければならないとありますので、事前にルールを決めておきましょう。

7.支援

7.1.資源において要求されていることは、マネジメントシステム運用のためには、必要な資源とその量を明確にすべきだということです。資源は、外部から調達するものも含め、人材、物的資源、作業環境、検査や測定のための資源、プロセスの運用や製品・サービスを生み出すために必要な知識・ノウハウといったものが含まれます。

7.2.力量では、業務に必要な力量を決定し、力量が足りなければ教育を行い、所定の力量が持てたのか有効性の確認を行った証拠を記録として残すことを求められています。

7.3.認識では、従業員に対して、品質方針、品質目標の周知・理解と、各自の責任、行動が目標の達成にどのように寄与するかというのを理解させるよう求めています。

7.4.コミュニケーションでは、内部および外部のコミュニケーションにおいて、コミュニケーション方法、タイミング、対象者、内容などが明確に決められ、実施されていることが重要です。また、コミュニケーションの効果が評価されているか、必要な情報が適切に共有されているかも確認しておきましょう。

7.5.文書化した情報では、ISO9001の規格で要求している文書化した情報と組織が必要であると決定した文書化した情報について述べています。作成、更新の際は、名称や作成日、改訂日等での識別や変更箇所の明確化ができるようにしておくこと、文書の使いやすさ等によって形式や媒体(紙、電子等)を分けましょう。

また、文書化した情報が目的にかなったものになっているか、過不足ないかを評価し、承認をするようにしましょう。

文書化した情報の管理については、適切なタイミングで利用ができるよう手配すること、漏洩や紛失しないよう管理することを求められています。

8.運用

この項目では、マネジメントシステムが適用する製品やサービスの企画~製品やサービスのリリースに至るまでの全プロセスに関する要求事項が記載されています。

内容として、顧客要求の明確化・レビュー、設計開発のプロセス管理、外部提供者の管理方法、製品やサービスの提供に関する管理、製品やサービスが要求事項を満たすことの証明、(品質不合格など)不適合な製品の管理などについて記述されています。

各プロセスにおいてPDCAサイクルを繰り返すことにより、継続的な改善を促すことが重要とされています。

9.パフォーマンス評価

9.1.監視、測定、分析及び評価では、顧客満足度の把握、マネジメントシステムの適切性及び有効性の実証、及び、継続的に改善するためにデータを収集・分析し、パフォーマンス(実績)を評価することを求められています。

「監視及び測定が必要な対象」、「監視、測定、分析及び評価の方法」、「監視及び測定の実施時期」、「分析及び評価の時期」をあらかじめ決めるようにとなっています。

9.2.内部監査では、マネジメントシステムの有効性を実証するために、定期的に内部監査を実施するように求めています。

内部監査において【9.1.監視、測定、分析及び評価】での情報やその他必要な情報を収集し、ISO9001の規格要求事項を満たしているか、マネジメントシステムが有効に実施され、維持されているのかを確認します。内部監査の実施や結果については、文書化を求められていますので、必ず記録を残しておきましょう。

9.3.マネジメントレビューでは、経営層は定期的にマネジメントシステムが適切で過不足なく機能しているか、かつ有効性はあったか、目指す方向性は一致しているかの確認をしないといけません。(=これをマネジメントレビューと言います)

4項~10項にかけての結果を報告して、見直しを行おうということです。この結果については、文書化を求められていますので、必ず記録を残しておきましょう。

10.改善

目標達成状況、コミュニケーション、是正処置、マネジメントレビュー、内部・外部監査、データ分析、他社事例及びマネジメントシステムの更新を通して、マネジメントシステムの有効性を働く人と共に継続的に改善していきます。

また、不適合(品質不合格、事故、苦情等)が発生した場合は、修正・処置を行います。

次にその不適合が業務上のリスク及び機会の優先度、再発の可能性、過去の類似の問題が発生しているかを考慮していきます。
その結果、再発防止の必要性を判断した場合、是正処置を実施します。

不適合の内容やそれに対するあらゆる処置、是正処置の結果については、文書化を求められていますので必ず記録を残しておきましょう。

ISO9001 とISO14001の要求事項の違いとは?

ISO9001とISO14001はどちらも組織の効率化とパフォーマンス向上に寄与する規格ですが、目指す先の「顧客」か「環境」かという視点で異なります

PDCAサイクルに基づいたマネジメントシステムの構築は共通事項ですが、それぞれで目的や焦点が異なります。

各規格の目的、焦点、独自の要求事項については以下の通りです。

ISO9001

  • 目的: 顧客満足度の向上を目指し、製品やサービスの品質を継続的に改善すること。
  • 焦点: 不適合製品を防ぐための品質管理やプロセス改善に注力し、作業標準や手順書の明確化が求められる。顧客ニーズに応えることで利益向上とコスト削減を目指す。
  • 独自の要求事項: 【9.1.2 顧客満足】、【6.2 品質目標及びそれを達成するための計画策定】、【8 運用】などを抑えておくことが重要。

ISO14001

  • 目的: 環境負荷を軽減し、持続可能な経営を実現すること。
  • 焦点: 環境リスクを評価し、改善活動を通じて廃棄物削減やエネルギー効率向上を図る。環境への配慮が利益にもつながる活動を推進し、改善についてのアウトプットが重要となる。
  • 独自の要求事項: 【6.1.2 環境側面】、【6.1.3、9.1.2 順守義務及び評価】、【6.2 環境目標及びそれを達成するための計画策定】、【8.2 緊急事態への準備及び対応】、【9.3 マネジメントレビュー】などを抑えておくことが重要。

ISO9001:2015の要求事項をダウンロードする方法と注意事項

ISO9001の要求事項:2015年版は、日本規格協会のHPから購入・ダウンロードが可能です。また、無料で閲覧ができるサイトもあります

注意事項としては、2024年2月23日から要求事項【4.組織の状況】に補足する形で『気候変動』に関する文言が追加されており、その箇所が対応されていない恐れがあります。その場合は、『気候変動』に関する要求事項について情報収集も行いましょう。

ISO9001の自社運用でお困りの方

ISOを自社で運用する場合、通常業務をこなしながら審査までの準備や審査の対応を行うのは大きな負担になっているのではないでしょうか。

ISO9001運用で必要な業務として、以下が挙げられます。

ISO9001運用で必要な業務

・規格要求事項の解釈や文章化

・文書記録の管理

・規格要求事項の追補や改訂版への対応(2026年改訂予測あり)

・最新の法規制事項の確認

・内部監査、マネジメントレビューへの対応

・審査対応、審査指摘のフォロー など

ISO自体が自社運用の難易度が高く、現在ではISO9001認証取得・維持のため、多くの企業がコンサルタントを活用しています。ISO全般に広い知識を持つコンサルタントを活用することで、ISOの工数を大幅に減らすことができたり、書類の簡素化にも効果的です。

また、運用代行支援を行っているコンサルタントに依頼すれば、社内のISO担当者が変わっても引継ぎがかなり楽になります。
自社運用が負担になっている企業は、ISOコンサルタントの活用を社内で検討してみることをおすすめします。

まとめ

いかがでしたでしょうか。

本記事ではISO9001の要求事項にかかる重要なポイントを運用に役立つ目線で紹介いたしました。その中で、ISO9001の取得には品質マネジメントシステム7つの原則とISO9001要求事項の理解が必要不可欠だということもお分かりいただけたのではないでしょうか。

また、ISO9001に関連する他の記事もありますので、ぜひ参考にしてみてください。