ISO9001の必要性は?意味ない?ISOをやめた企業や理由も解説

ISO 2025.06.02

「ISO9001は本当に必要なのか?」そんな疑問を抱えている企業は少なくありません。ISO9001は、品質マネジメントシステムの国際規格として、多くの企業が取得を目指していますが、その運用にはコストや労力がかかります。

そのため、「取得後に思ったような効果が得られない」「維持が難しい」といった理由で、ISOをやめる選択をする企業も存在します。本記事では、ISOをやめた企業の理由や具体例について詳しく解説していきます。

企業にISO9001は必要?規格の目的とは

近年、ISOは必要ないという意見もあります。しかし、実際のところ以下のような目的がある企業にとっては、ISO9001の導入が必要といえるでしょう。

  • 取引先や顧客からの取引や評価の条件に入っている
  • 組織強化のために内部プロセスの見直しや最適化につなげたい
  • 外部への信頼性向上
  • 事業の拡大や新規市場への参入において有利性を獲得したい

その中でも最も強い動機のひとつが、「取引先や顧客からの取引や評価の条件に入っている」点です。例えば、建設業界は主な収入源が公共工事である企業が多いため、入札条件に含まれているISO9001認証を取得して、入札の有利性を確保しようという動きがあります。

ISO9001は、企業の品質マネジメントシステム(QMS)を構築・運用するための国際規格であり、その目的は製品やサービスの品質を一貫して向上させ、顧客満足度を高めることにあります。特に、顧客のニーズや法規制の要求を満たしつつ、継続的な改善を促す仕組みを提供する点が特徴です。

また、ISO9001は単なる品質保証だけでなく、リスク管理や効率性向上、組織全体の体制強化にも役立ちます。これにより、単なる規格への適合だけでなく、企業の戦略的な成長を支えるツールとしても機能します。

したがって、ISO9001は企業の目的や状況に応じて大きな価値をもたらす規格といえます。

ISO9001を返上した理由とは?返上企業の例も

1990年代に日本で審査登録制度が導入されたISO9001。ISO9001の認証件数は2000年代後半にピークを迎え、その後は減少傾向にあります。

ISO9001の更新をやめた企業の主な理由は以下の通りです。

  1. 審査費用が高い
  2. 継続していくための資料作成や実施に負担が大きい
  3. 期待していたほど効果が感じられなかった
  4. ISO導入の目的自体がなくなった
  5. 審査員への不信感

また、大企業においても認証を返上した事例が見られます。

  • トヨタ自動車(エンジン部門):1997年取得、1999年返上
  • 東京電力(柏崎刈羽原子力発電所)2006年取得、2021年返上
  • エバラ食品:2004年取得、2020年返上

それでは、ISO9001認証の返上理由の詳細を見ていきましょう。

01. 審査費用が高い

ISO9001認証維持にも毎年の維持審査や3年ごとの更新審査が必要であり、長期的な費用が発生します。審査費用などは多大なコストがかかるため、特に中小企業にとっては大きな経済的負担となる場合があります。

02.継続していくための資料作成や実施に負担が大きい

ISO9001の維持には、マニュアルや書類の作成、記録の保管、内部監査などの対応が必要です。ほとんどの企業では、特定の従業員がISO関連の業務を兼任する場合が多いため、通常業務を圧迫し、負担が増加します。

03.期待していたほど効果が感じられなかった

ISO認証は取得が目的ではなく、マネジメントシステムを運用し継続的に改善することが求められるため、効果が現れるまでに時間がかかります。また、運用プロセスの改善を目的とするものの、誤った構築や過剰なマニュアル化は業務効率を低下させるリスクもあります。

一方で、認証取得以前に自社で効果的な品質管理の仕組みができていた場合は、ISO9001が無意味に感じることもあり得るでしょう。

04.ISO導入の目的自体がなくなった

多くの企業が戦略的な目的でISO9001を取得しています。よって、「主要顧客からのISO取得の要望がなくなった」「入札条件や総合評価での加点対象から外れた」など、企業の売上に直接左右するようなメリットが無くなれば、同時に認証更新を辞める企業も増えます。

05.審査員への不信感

ISOの審査において、審査員から見当違いのことを指摘されたり、書類などを全く見ずに審査が終わったりなど、企業側が審査員への不信感を持つケースも存在します。その際、認証を継続する意味はあるのか?と疑問を持ち、認証更新を辞める企業も少なくありません。

トヨタ自動車(エンジン部門)のISO9001返上例

ISO9001の返上例として、有名な企業はトヨタ自動車です。トヨタ自動車は、1997年にエンジン部門でISO9001を取得しましたが、2年後に返上しました。これは、TQC/TQM(Total Quality Management)で十分と判断したためです。

つまり、ISO9001認証に頼らず、自社の品質管理システムを確立できており、そのシステムが十分機能している現状があるのです。

ISOが時代遅れや意味がないと言われる理由

ISOが「時代遅れ」や「意味がない」と言われる理由には、いくつかの背景があります。

ひとつはISO取得が目的化し、本来の品質向上や顧客満足のための仕組みではなく、形式的な運用に陥るケースが多いことが挙げられます。また、書類の作成や審査対応が優先され、実際の業務改善や現場への効果が薄いと感じられる企業も少なくありません。

ISOは企業の実態に即して、柔軟に規格要求事項を適用していくことが重要です。規格要求事項を満たすことに必死になり、企業の実態に合わないマネジメントシステムの運用はかえって非効率を生む場合があります。

特に中小企業では、ISOを維持するコストや労力が重荷となり、実際のメリットが見えにくいと指摘されます。

これらの課題は運用の見直しや、規格への柔軟な対応で解決可能です。ISOを実務に即して活用することで、効果を引き出すことができます。

ISOの知識に自信がなく、企業にどう組み込むべきか迷っている方は、コンサルタントや第三者認証機関に相談してみるのもおすすめです。

ISOは日本でのみ流行っている?海外での取得状況との比較

ISOが時代遅れと言われる点において、グローバル目線で確認していきましょう。日本のISO9001認証は、世界全体で見ると第5位の取得件数です。

この結果をみると、日本でのみ流行っているとは言えないでしょう。ただし、全世界の中でも日本は取得件数が多いため、ISO9001を評価している国だということは明らかです。

2015年度版改訂で企業の実態にあったISO9001の構築が可能

ISO9001(QMS)は2015年の改訂により、企業の実態に即した柔軟で実務重視の品質マネジメントシステムが構築可能となりました。改訂のポイントは、以下の通りです。

  • 品質リスクや機会の考慮
  • 文書化要求の緩和
  • プロセスアプローチの採用
  • 顧客重視へのシフト

これにより、書類中心から実務重視へと転換し、企業の視点や戦略を大胆に活用できるようになり、より効果的な運用が可能となっています。さらに、柔軟性を高めた構造により、業種や規模を問わず、多様な企業が自社のニーズに合ったシステムを構築できるようになりました。

2015年度版改訂は、認証取得にとどまらず、企業の競争力強化や持続的な成長を支援するツールとしての可能性を広げています。

会社組織にとって意味のあるISO9001にするために

会社組織にとってISO9001を意味のあるものにするためには、単なる認証取得を目的とせず、企業の実態や目標に沿った運用を行うことが重要です。まず、ISO9001の導入を通じて、組織が達成したい具体的な目的を明確にし、それに基づいてプロセスを構築・改善します。

また、ISO9001が有効に機能するためには、トップマネジメントの積極的な関与が欠かせません。経営層がISOを戦略的に活用する姿勢を示すことで、全社員がその意義を理解し、効果的な運用に向けた協力を得られます。

さらに、文書や審査にとらわれず、日々の業務プロセスと密接に関連づけることで、ISOが現場にとって有用なものとなります。

定期的に評価や改善を行い、変化する経営環境や顧客のニーズに柔軟に対応することが、実践的で価値のあるISO9001実現のカギとなります。

まとめ

ISO9001は、企業にとって品質管理の強化や信頼性向上の有効な手法である一方、コストや運用負担などが理由で返上する企業も存在します。

特に、期待した効果が得られなかったり、目的自体が薄れた場合には、認証維持の意味を再検討する企業が多くあります。また、ISOが時代遅れや形式的だと指摘される背景には、運用の実態が企業の実情に見合わない場合があることも要因です。

しかし、2015年度版改訂により、企業の実態に合わせた柔軟な構築が可能となっています。ISO9001を効果的に運用するためには、単なる取得にとどまらず、自社の戦略や業務改善に直結する形で活用することが望ましいでしょう。