ISO9001を取得するメリット・デメリットとは?

企業の信頼性を高め、製品やサービス、業務の質を向上させることを目的に、多くの企業が取得を目指すISO9001認証。しかし、その取得にはメリットだけでなく、デメリットも存在します。
ISO9001を取得することで、顧客満足度の向上や市場での競争力強化が期待できる一方で、初期費用や維持費用がかかり、運用面での負担も少なくありません。特に、中小企業にとっては、ISOに対するコストや人員配置、業務量の問題が大きな壁となることもあります。
この記事では、ISO9001を取得することで得られる具体的なメリットと、それに伴うデメリットについて詳しく解説します。「取得するべきか」「取得は自社の費用対効果に見合っているか」など迷っている方は、ぜひ参考にしてください。
目次
ISO9001認証取得のメリットとは
ISO9001認証取得のメリットは主に『戦略的な視点』と『社内マネジメントの視点』の2つのケースに分かれるでしょう。

ISO9001取得を検討している企業において、取得目的以外にどのようなメリットがあるのかを確認しておくことは重要です。
その理由は、ISO9001認証取得の方法に影響してくるためです。自社運用をするのか、コンサルタントに教育してもらうのか、運用自体をコンサルに任せるのか等、取得の方法には様々な選択肢があります。
自社に合った取得方法を決めるためにも、『戦略的な視点』と『社内マネジメントの視点』のメリットを考慮していきましょう。
「戦略的な視点」におけるメリット
ISO9001取得により、企業が享受できる『戦略的な視点』におけるメリットは、主に以下のものが挙げられます。
- 官公庁が発注する案件への参加要件を満たし、競合他社との差別化を実現して受注拡大を目指す
- 顧客や取引先からのISO9001認証取得の要望に応え、長期的な取引関係の維持を続ける
- 顧客満足度の向上を促進する
- 国際基準であるため、海外取引に関して信頼を得やすくなる
多くの企業が「戦略的な視点」を目的に導入しています。弊社のお客様の9割以上は、受注強化にメリットがあるためISO認証を取得しています。
「社内マネジメントの視点」におけるメリット
ISO9001取得により、企業が享受できる『社内マネジメントの視点』におけるメリットは、主に以下のものが挙げられます。
- 業務フローを統一・標準化することで、製品やサービスの品質向上と安定を図れる
- 業務コストの削減
- 各部門の役割や責任範囲を明確にすることで、部門間および部門内の業務効率を向上させる
- 管理層のマネジメントスキルを強化し、組織全体が共通の目的意識を持ち、自発的に活動できる体制作りができる
- 法令遵守を徹底した組織運営の実現
- 業務力量の明確化を行い、従業員教育の効率化につながる
「社内マネジメントの視点」の目的でISO認証取得を行う企業は少ないです。しかし、ISOに取組む中で、相乗効果として「社内マネジメントの視点」の目的に挙げられる例が達成できる可能性も大いにあります。
ISO9001認証取得で発生するデメリットとは
企業がISO9001を取得するうえで、発生するデメリットは主に以下の3つが挙げられます。
- 管理責任者への負担が大きい
- 運用や維持審査のコストや手間がかかる
- 規格要求事項や法令の情報収集が負担になる
それでは、それぞれのデメリットについて詳しく解説していきましょう。
管理責任者への負担が大きい
ISO9001の取得・維持には、マニュアルや書類の作成、記録の保管、内部監査などの対応が必要です。ほとんどの企業では、ISOの担当者『管理責任者』を立てています。大企業であれば、ISO関連の部門を立てるなどISO業務を専任しているケースや品質に関連している部門にISO業務を配置しているケースがほとんどです。
しかし、中小企業の管理責任者は通常業務とISO関連の業務を兼任する場合が多いため、通常業務を圧迫し、負担が増加します。
運用や維持審査のコストや手間がかかる
ISO9001認証の取得と維持には、審査にかかるコストと審査前の準備が必要になります。取得時には審査費用として50~100万円程度が必要です。さらにISOコンサル会社を利用する場合は50~200万円の依頼料が発生することがあります。取得後も毎年の維持審査や更新審査を受けなければならないため、年間数十万~百万円程度の費用が継続的に発生します。
このように、ISO9001認証の取得・維持には初期費用だけでなく長期的なコスト負担が伴い、特に中小企業にとって大きな経済的負担となるでしょう。
審査前準備においても、マネジメントシステムの運用の記録や保管、文書類の更新、法令の改訂、内部監査・マネジメントレビューの実施など対応しなければならない事が毎年発生します。このような準備は管理責任者や部門長にとっては、かなり負担となり得ます。
規格要求事項や法令の情報収集が負担になる
ISO9001認証を取得するためには、規格で定められた要求事項に基づいたマネジメントシステムを構築し、運用する必要があります。
この規格には10項目の要求事項が含まれており、初心者が独学で理解するには相当な時間がかかるでしょう。さらに、企業の実態に合った効率的なマネジメントシステムを構築するためには、要求事項を深く理解し、継続的な改善を行うことが不可欠です。
また、ISO9001では法令順守が求められており、改訂された法令を情報収集し、内容を把握する作業は企業にとって大きな負担となります。
ISO9001とISO14001の統合におけるメリット・デメリットとは
ISO9001とISO14001を統合することで、企業には多くのメリットがあります。一方で、いくつかのデメリットも考慮する必要があります。統合の判断には、自社の業務内容やリスク、管理体制の適合性を十分に検討することが重要です。
・審査が一回で済むため、審査費用や審査対応にかかる負担が削減される
・内部監査やマネジメントレビューなどの重複作業が解消され、運用コストが大幅に低減できる
・マネジメントシステムの一元化によって、各部門の役割や目標管理が統一され、多角的な経営判断が可能となる
・内部経費の削減や管理体制の最適化に寄与し、業務効率化につながる
・異なる部門間で業務内容やルールが大きく異なる場合、統合によって必要なプロセスや文書化の程度が不足するリスクがある
・品質と環境の管理責任者や事務局を分けていた場合には、統合後の責任権限の調整が必要となり、部門間の調整負担が増える可能性がある
・審査のボリュームが増大するため、一度に対応しなければならない負荷が大きくなり、審査期間中に企業全体が対応に追われることもある
内部監査やマネジメントレビューの手間を少しでも省きたい場合や、審査のコストカットを考えている企業は、規格統合を検討した方が良いでしょう。
また、その場合は統合する規格において共通の要求事項があるか、共通する帳票類、記録類が多いかも確認しておくと、マネジメントシステムの更なる簡略化につながります。
まとめ
ISO9001認証の取得は、戦略的な競争力の向上や社内マネジメントの改善といった多くのメリットをもたらしますが、一方で管理責任者への負担増や運用コストの増加といったデメリットも伴います。
そのため、導入時には十分な準備と計画が求められます。また、ISO14001との統合を検討することで、審査業務の効率化や環境への配慮を強化できる一方、新たな課題や部門間の調整が必要となる場合もあります。これらの要素を総合的に評価し、自社の戦略や目的に適した運用方法を選ぶことが、認証取得の成功と持続的な効果を得るカギとなるでしょう。