ISO9001とは? 認証取得の主な理由、メリット、要求事項、費用、審査までの流れを解説

ISO9001は「品質マネジメントシステム(Quality Management System = QMS)」に関する国際規格です。2023年時点、世界各国のISO9001取得状況において、日本の取得件数は39584件で世界第5位という結果が出ています。
ISO9001は世界全体でも、日本国内においても、他のマネジメントシステム規格と比べて取得件数が最も多く、最もポピュラーな規格と言えるでしょう。


参考資料:国際標準化機構WEBページ ISO調査2023の結果
この記事では、ISO9001の取得を検討している方のために、弊社のお客様の例も交えながら、認証取得の主な理由、メリット、要求事項、費用、審査までの流れを詳しく解説します。
目次
ISO9001とは?認証取得の目的
ISO9001は、顧客の要求事項や法令・規制順守事項を満たした製品・サービスを一貫して提供することにより、「顧客満足の向上」「組織の全体的なパフォーマンス向上」につなげる仕組みです。
まずは、ISOの基礎知識や企業が ISO9001認証を取得する理由などを説明していきましょう。
ISO規格とは
ISOはスイスのジュネーブに本拠地を置く【国際標準化機構(International Organization for Standardization)】の略称であり、ISO規格を定めている団体です。
ISO規格とは、電気分野を除く工業分野において国際的な基準(=世界共通のものさし)を設けることにより、製品のサイズや品質、安全性、機能性等の国際標準化を目的としています。
『ISO規格を導入することにより、自社の製品は安心して国際的な取引ができるよ』という対外的な信用につながります。その証明として、第三者認証機関からのISO認証が必要になります。
ISO規格の種類
ISO規格は大枠として、「モノ規格」と「マネジメントシステム規格」に分かれます。

「モノ規格」…製品やサービスそのものを対象としており、品質や安全性・機能性の基準となります。規格は5万種類以上あります。
「マネジメントシステム規格」…組織の事業活動において製品やサービスの品質を管理するための仕組み(=プロセス)を対象としています。取得することで、自社の事業体制が国際基準に達していることをアピールできます。
ISO 9001は「マネジメントシステム規格」に該当します。ISO 9001と同じ「マネジメントシステム規格」のうち、弊社のお客様の取得件数が多い2つの規格について簡単にご説明します。
ISO14001 (環境マネジメントシステム)
ISO 14001は「環境マネジメントシステム(EMS)」に関する国際規格です。環境に関する社会経済的ニーズとバランスを取りながら、企業活動を継続していくための枠組みを組織に提供することがこの規格の目的となります。
企業活動、製品・サービス等について、環境に及ぼす影響を明確にし、有害な影響を及ぼす環境側面は防止又は緩和を行い、好影響な環境側面は促進していきます。
環境コンプライアンスに沿った組織作りや、廃棄物の削減、清掃活動等の環境への貢献を目指し、結果として対外的なイメージアップやコスト削減にもつながる仕組みです。
ISO45001 (労働安全衛生マネジメントシステム)
ISO45001 は「労働安全衛生マネジメントシステム(OSHMS)」に関する国際規格です。働く人の労働に関係するケガや病気の防止や、心身共に健康的な職場を提供するために、従業員や利害関係者を取り巻く労働安全衛生リスクを管理するための枠組みを組織に提供することがこの規格の目的となります。
企業活動において、従業員や利害関係者を取り巻く労働安全衛生に関わるリスクを予測し、事故につながらないための対策を実施します。また、働く人の心身の健康の促進や保護に関しても考慮した規格となります。
労働安全衛生コンプライアンスに沿った組織作りや、現場環境の安全確保、従業員の安全意識向上に効果があり、結果として対外的なイメージアップや労働災害リスクの低減にもつながる仕組みです。
企業が ISO9001認証を取得する理由
企業が ISO9001認証を取得する理由は、主に「戦略的な視点」と「社内マネジメントの視点」の2つです。
●「戦略的な視点」の目的例
- 官公庁発注案件参加のための入札条件を満たし、競合他社との差別化を図って受注強化につなげる。
- 顧客・取引先からの ISO9001認証取得の要求に応え、継続取引につなげる。
- 顧客の満足度向上につなげる。
●「社内マネジメントの視点」の目的例
- 業務フローの統一や標準化を行い、製品やサービスの品質向上や安定的な生産が図られる。
- 業務コストの削減と生産性向上などによって収益改善が図られる。
- 各部門の役割・責任権限が明確化され、部門間及び部門内の業務効率の改善が図られる。
- 管理層のマネジメント能力が強化され、組織全体が同じ目的意識を持ち、主体的な活動を実施するための意識向上が図られる。
- コンプライアンスに沿った組織作りが図られる。
- 業務力量の明確化により、従業員教育の効率化が図られる。
多くの企業が「戦略的な視点」を目的に導入しています。弊社のお客様の9割以上は、受注強化にメリットがあるためISO認証を取得しています。
逆に「社内マネジメントの視点」の目的でISO認証取得を行う企業は少ないです。しかし、ISOに取組む中で、相乗効果として「社内マネジメントの視点」の目的に挙げられる例が達成できる可能性も大いにあります。
ISO9001におけるPDCAサイクルとは?
ISO9001(品質マネジメントシステム)では、PDCAサイクルに基づく考え方を組み込んだプロセスアプローチを用いています。
『Plan(計画)⇒Do(実行)⇒Check(測定・評価)⇒Act(改善)』を繰り返すことによって、業務を継続的に改善し、各段階においてISO9001の規格要求事項(4項~10項)を満たすような活動を求められています。

【インプット】顧客及び利害関係者の要求事項の抽出
~
【活動】それに基づいた製品・サービスを生み出す工程
~
【アウトプット】顧客および利害関係者に製品・サービスの引き渡し
といったプロセスにおいて、PDCAサイクルを根付かせていくことで「継続的に改善」を行います。その結果、「顧客満足の向上」「組織の全体的なパフォーマンス向上」が達成できるという考え方です
ISO9001の要求事項とは?
ISO9001は製品の実現プロセスをはじめ、文書管理、経営者の責任、個人の力量など経営全般について企業がするべきことを規格の中で要求しており、「顧客満足の向上」「組織の全体的なパフォーマンス向上」につなげることを目的としています。
ISO9001認証を取得したいならば、ISO9001の要求事項を満たすような仕組みを構築しなければなりません。
ISO9001の要求事項は10項目で構成されています。
- 適用範囲
- 引用規格
- 用語及び定義
- 組織の状況
- リーダーシップ
- 計画
- 支援
- 運用
- パフォーマンス評価
- 改善
実際に実施しないといけない要求事項は、4章~10章の内容です。
特に「8章 運用」は、製品、サービス提供におけるプロセスを具体的に実施するための方法を定めることが要求されており、ISO 9001独自の内容となっています。
規格要求事項の詳細な解説については、次の記事”ISO9001:2015の要求事項とは?運用のポイントも含め分かりやすく解説”をご覧ください。
ISO9001取得によるメリット
ISO9001を取得すると以下のようなメリットがあります。

それでは、各メリットについて具体的に説明します。
01)顧客及び利害関係者からの信頼を得る事が出来る
利害関係のない認証機関からの認証を受けることで、顧客及び利害関係者からの社会的信頼を得ることができます。また、 ISO9001取得をしていると、入札の機会や取引先との取引が有利になることがあります。
02)顧客からの要求条件を満たした製品及びサービスの提供が出来る
顧客の要求事項や法令・規制順守事項を満たした製品及びサービスを一貫して提供することにより、顧客満足の向上につながります。また、クレームや不具合が起きた時の対応フローも標準化することにより、適切な顧客対応や安定した品質の提供が可能となり、リスク対策にもつながります。
03)組織内の仕組み構築、改善、パフォーマンス向上に繋がる
ISO9001を取り入れることにより、管理層のマネジメント能力強化や各部門の役割・責任権限の明確化ができます。その結果、部門間及び部門内の業務効率の改善、従業員の意識向上が図られるのです。また、業務フローの統一や標準化を行い、業務コストの削減と生産性向上にもつながります。
ISO審査とは
ISO審査とは、組織の事業活動や製品・サービスにおいて、各規格で定められている規格要求事項に適合しているかを、公平な立場である第三者機関が確認する目的で行われます。ISO審査で規格要求事項の適合に問題ないと判断された場合、ISO認証を取得できます。
それでは、ISO審査の流れや審査時のスケジュール、審査会社を選ぶポイントなどを確認していきましょう。
ISO審査のながれ
ISO審査の種別は継続年数によって変わってきます。
初年度は初回審査⇒1年後、2年後は維持審査⇒3年後は再認証審査があります。
初回審査は初年度のみであり、それ以降は維持審査と更新審査の繰り返しです。

○初回審査(第一段階・第二段階)では、マネジメントシステムが規格要求事項に適合して構築されているかの文書審査と、規格要求事項に適合して運用されているかの確認を行います。その証拠として各部門へのヒアリング、記録やサイトの確認をされます。
○維持審査(サーベイランス審査)では、初回審査後の1年間のマネジメントシステム運用状況の確認や前回審査指摘の改善状況の確認を行います。各部門へのヒアリング、記録やサイトの確認をされます。
○更新審査(再認証審査)では、審査の流れは維持審査と変わらないのですが、初回審査同様にマネジメントシステムの適用範囲全体が対象となるため、確認事項は多くなる可能性があります。また、3年間の目標の達成状況や指摘事項における改善状況等の確認もされますので、準備が必要になります。
ISO審査会社(認証機関)を選ぶポイント
ISO審査機関にも種類があり、取得目的に応じて気を付けなければならないポイントがあります。
それは、『ISO認定機関から認定を得ている審査機関かどうか』です。
対外的によく言われているISO認証とは、認定機関から認定された審査機関で認証を受けることを指します。この審査機関のことを『認証機関』と言います。
しかし、審査機関が認定機関から認定を受けずに独自の認証を行う『プライベート認証』というものが存在します。プライベート認証の場合は、対外的には国際的な基準に則ったものとは判断されず、名刺や看板などにISO認証取得と記載することはできません。
対外的アピールのためにISO認証取得を顧客や取引先に伝えたい目的がある場合には、『認証機関』からの認証を受けるようにしましょう。

2024年10月現在、日本国内でのISO認証機関は約50社ほどあります。
ISO審査会社(認証機関)を選ぶポイントは以下の通りです。
- 業種コードを持っているか(認証機関かどうかの判別)
- 取得したいISO規格の審査が受けられるか
- ISO審査費用
- その業界に理解が深いISO審査員がいるか
- ISO審査員の人柄やISO審査会社の対応
審査は毎年受け続ける必要があるため、「その業界に理解が深い審査員がいるか」や「審査員の人柄」といったところも重要なポイントとして入ります。
審査時のスケジュールについて
とある建設会社さまの維持審査(サーベイランス審査)における当日スケジュールを見ていきましょう。
1日目スケジュール 審査員2名体制 | |
9:00〜9:20 | 初回会議(審査要領の説明) 参加者:経営者、管理責任者、部門責任者他 |
9:20〜10:00 | トップインタビュー(業界の動向、会社状況の把握、課題・機会の認識、方針・目標 等) 参加者:経営者 |
10:00〜11:00 | サイト確認(資材倉庫、事務所、事務所周辺) 参加者:各部門責任者 |
11:00〜12:00 | 審査員2手に分かれて部門別ヒアリング:「管理責任者」と「工事部」 参加者:各部門責任者 ※工事部では施工現場も訪問 |
12:00〜13:00 | 昼食 | 13:00〜15:30 | 【続き】審査員2手に分かれて部門別ヒアリング:「管理責任者」と「工事部」 | 16:30〜17:00 | 当日審査の整理、審査員打合せ | 17:00 | 終了 |
2日目スケジュール 審査員1名体制 | |
9:00〜10:00 | 部門別ヒアリング:「総務部」 参加者:総務部門責任者 |
10:00〜11:00 | 部門別ヒアリング:「営業部」 参加者:営業部門責任者 |
11:00〜12:00 | 審査結果のまとめ | 12:00〜13:00 | 最終会議 参加者:経営者、管理責任者、部門責任者他 |
13:00 | 終了 |
終日審査という日もありますので、お昼を過ぎる場合は、審査員の昼食を用意する必要がある審査会社もあります。また施工中の現場を訪問される際は、ヘルメットの準備や、足場が悪ければ長靴の準備などの対応も必要です。
ISO9001取得に必要な費用はいくらぐらい?
ISO9001取得に必要な費用は、審査費用と、ISOコンサルタントを活用する場合は、コンサル費用を想定しないといけません。各費用の相場を含めた結果は以下の通りです。
取得経過年数 | 年間想定額 |
【0年目】認証取得時 | 75~300万円程度 |
【1年目】認証維持 | 60~270万円程度 | 【2年目】認証維持 | 60~270万円程度 | 【3年目】認証更新 | 125~280万円程度 |
かなり金額の振り幅が大きいですが、会社の規模、業種、ISOコンサルの支援内容といったところで、値段が大きく変動してきます。
それでは、審査費用とコンサルタント費用の相場について、詳細を見ていきましょう。
ISO審査費用の相場
ISO9001取得に必要な審査費用の相場は以下となります。(従業員数30名以下を想定)
審査の種類 | 年間想定額 |
初回審査 | 30万~100万程度 |
維持審査 | 15万~70万程度 | 更新審査 | 80万程度 |
審査費用は審査会社によって異なります。従業員の人数、支店や営業所の数、設計・開発の有無、規格の種類、審査の種類などにより、審査にかかる工数(審査員の人数、実施日数)を基に算出されています。別途、お昼を過ぎる場合は審査員の昼食代や、審査対象の場所によっては、審査員の交通費や宿泊費がかかる場合があります。
ISOコンサルタント費用の相場
ISOコンサルタントといっても、お客様をどのような形で支援するのかによって、形態が異なります。おおよそ、以下の2パターンに分かれるでしょう。
- 指導型コンサルタント…ISOに関する教育指導を行い、実務は担当者にさせる
※費用の相場は、年間で45~150万円程度 - 代行型コンサルタント…ISOに関するアドバイスかつほとんどの書類作業を請け負う
※費用の相場は、年間で45~200万円程度
ISOコンサルタント費用は会社の規模や業種、規格の種類、審査の種類、コンサル方法などにより変動します。相場では、指導型より代行型の方が振り幅が大きく、高値のように思えますが、実際は代行型の方が安価なコンサルタント会社が多いです。
その理由は、指導型コンサルタントは企業の従業員に対して、ISO教育指導を行うことが前提であり、定期的な訪問や、監査を行うため、1社に費やす時間が多くなります。それに伴い、費用も高額になりがちです。
代行型コンサルタントは企業側から必要な情報をもらい、ISO審査に向けた資料の作成やアドバイスをしてくれます。打ち合わせ回数が1~3回ほどで済むコンサルタント会社もあるため、費用が安価な会社が多いです。認証取得までの時間に余裕が無かったり、自社での工数を最低限にしたいという企業におすすめです。