【最新】労働災害の事例10選|種別ごとの死亡事例や防止策も解説

労働災害にはどのような事例があるのでしょうか。
建設現場では高所作業や建設機械の使用など、危険を伴う作業が多いことから、労働災害対策が極めて重要となります。労働災害対策を行ううえで、他の事例を参考にすることで、自分が担当する現場でも実践できる労働災害防止対策が見つかるでしょう。
そこでこの記事では、転落・墜落、建設機械、土砂崩壊などによる労働災害の事例を紹介しています。そして事例だけではなく、労働災害の防止対策についても分かりやすく解説しています。
さまざまな労働災害の事例を知ることで、危険への認識を高め、労働災害を起こさない会社と現場を作っていきましょう。
目次
転落、墜落、飛来、落下による労働災害の事例
建設業の中でも特に多い、転落、墜落、飛来、落下による労働災害の事例を紹介していきます。
【死亡事故】誰も見ていないところで、指示以外の作業 肺の損傷により死亡

歩道橋の維持補修の事故。
足場の解体作業時に、現場代理人が他の作業員に行先を告げずに作業箇所以外の足場に入って確認作業を行っていました。その時に高さ4.5mの足場の端部から墜落し、肺の損傷により死亡しました。
他の作業員は足場解体作業中で、現場代理人がいたことに気付いていませんでした。
- 足場端部が開口部となっており、手すりなどの墜落防止措置がされていなかった。
- 被災者は安全帯を着用していたが、使用していなかった。
対策としては、以下の点が挙げられます。
- 主任技術者や作業主任者等協議の上、足場解体の作業手順書を作成する
- 安全帯の使用の徹底を行う
- 開口部の転落防止措置を実施する
- 作業員の役割分担を明文化し、作業ごとにミーティングで確認する
- 作業箇所以外で作業を行う場合、声掛けを徹底する
足場上で下からの部材受け取り時に手すりを外して墜落 重症

法面工事における調査ボーリング足場の組立作業中の事故。
中断作業ステージ(高さ13m)より上段に単管パイプを送り出す作業を行っていた作業員が、バランスを崩して手すりを外した開口部から13m下に転落し重症を負いました。
- 中断作業ステージ幅が4mであるのに対し、単管が5mであったため、中断作業ステージの手すりの一部を撤去して作業を行った
- 中段作業ステージ上に単管が多く置かれており、足場が悪かった
- 安全帯を使用していなかった
- 親綱を設置していなかった
- 足場組立等作業主任者が安全帯の使用状況を監視していなかった
対策としては、以下の点が挙げられます。
- 開口部を設ける場合は、親綱を設置し安全帯を使用した状態で手すりを撤去する
- 作業床に必要以上の資材を置かず、作業スペースを1m以上確保する
- 作業主任者は、作業全体を見渡せる場所で作業状況の監視を行う
安全帯を着用せず流路に背を向けて作業中に墜落 第二腰椎椎体等骨折・全治3か月

砂防施設(床固工)の右岸側壁部で発生した事故。
監理技術者が、転石積用の丁張設置をするため、流路に背を向けてしゃがんで作業していました。作業員が注意喚起を行いましたが、監理技術者は無視して作業を続行しました。
立ち上がる際に足を踏み外し、後ろ向きに約6m墜落し全治3ヶ月の重症を負いました。
- 手すりの設置、安全帯の着用等による墜落防止措置を行っていなかった
- 安全を統括すべき元請会社の監理技術者の安全意識の欠如
対策としては、以下の点が挙げられます。
- 鋼管を用いてセーフティーブロックを設置し、安全帯ワイヤーを取り付ける
- 施工手順書へ高所作業時の安全対策を明記する
- 墜落注意看板による注意喚起を実施する
- 現場代理人や監理技術者自らもKY活動を実施し、安全意識の高揚を図る
- 労働安全コンサル等による安全パトロールの強化を行う
クローラクレーンがオペレータとともに15m落下 左上腕切断、肩甲骨、頸椎、肋骨等骨折8か所等

地上15mにある仮桟橋での事故。
ダウンザホールハンマを引き抜いて仮置きするため、クローラクレーンのブームを旋回させました。左旋回させる最中にバランスを崩し、オペレータとともに仮桟橋から15m下に墜落し左上腕切断・多数骨折などの重症を負いました。
- ダウンザホールハンマの重量超過
- 施工時のクレーン位置が水平でなかった
- クローラクレーンのクローラを規定位置まで張り出していなかった
対策としては、以下の点が挙げられます。
- 施工計画書や作業手順書に、クレーンの定格荷重と作業可能半径、及びダウンザホールハンマの重量を明記する
- クローラの張り出しの確認方法を施工計画書や作業手順書に明記する
- 始業前点検時と安全巡視時に、クローラの張り出し状況を確認・記録する
- クレーン設置の水平状況の確認・記録と、鋼製架台等による水平の確保(傾斜部)を行う
建設機械(重機等接触、重機転倒等)による労働災害の事例
ここからは建設機械(重機等接触、重機転倒等)による労働災害の事例を紹介していきます。
【死亡事故】トンネル内で後退したバックホウに接触 骨盤開放骨折・出血性ショック 死亡

トンネル内での重機作業中に発生した事故。
ズリ出し完了後、バックホウにて切羽左側の素掘り側溝を整備していました。バックホウが1mほど後退した際、被災者と接触し下半身がバックホウの下敷きになり、骨盤開放骨折・出血性ショックにより死亡しました。
- 被災者がバックホウの背後に移動していた
- バックホウオペレータが『背後に作業員がいないだろう』という思い込みをした
対策としては、以下の点が挙げられます。
- 重機稼働時の立入禁止措置を実施し、見張り員を配置する
- 接触防止センサー、バックモニター付きの重機を使用する
- ステッカーによる安全教育の啓発を実施する
- 一人KYカードの携帯と実施内容の記録を行う
【死亡事故】ダンプトラックの荷台でバックホウのバケットに押しつぶされた 大動脈損傷・出血性ショック 死亡

勾配が16°ある傾斜地での事故。
渡河部に設置した大型土のうを、バックホウ(0.7㎥)で4tダンプトラックに積み込む作業を行っていました。突然、ダンプトラックが後進し、荷台で玉掛作業を行っていたダンプ運転手が、バックホウのバケットとダンプトラックの荷台に挟まれ死亡しました。
- 斜面で積込作業を行ったこと
- ダンプトラックに逸走防止措置がとられていなかった
- ダンプトラックのパーキングブレーキが不十分だった
- ダンプトラックの輪止めをしていなかった
- ダンプトラック運転手が玉掛資格をもっていなかった
- バックホウオペレータがクレーン作業の資格を持っていなかった
- 合図者を配置していなかった
対策としては、以下の点が挙げられます。
- 車両毎に輪止めの常備と実施の徹底、運転席に注意書きを貼り付ける
- 傾斜地のクレーン作業とならないよう、足場を造成して平地化する
- 現場条件に適した作業手順書の作成・活用の徹底を行う
- 資格が必要な作業は、KY時にチェックリストを用いて確実に実施する
【死亡事故】ユニック車が吊り荷作業中に転倒し1名死亡、1名骨折・重症


ユニック車での吊り荷作業中の事故。
ユニック車(搭載型トラッククレーン(3t))でセメント袋の荷卸し作業をしていました。吊り荷が荷台前方の鋼板に接触した為、玉掛者は対応しようと鋼板に上り、クレーン操作者はブームを延ばして外そうとした結果、バランスを崩してユニック車が転倒しました。
クレーン操作者は転倒したユニック車の下敷きとなり死亡、合図者兼玉掛者は荷台前方鋼板上から飛降り、足首等を骨折し重症を負いました。
- 作業前の指示を無視してセメント袋を2段積みした(定格荷重を超えるクレーン作業)
- クレーン操作者が、合図者(玉掛者兼任)からの指示に従わず、無理なブーム延伸を行った
- アウトリガーを片側だけ張り出していた
対策としては、以下の点が挙げられます。
- 作業前にユニック車による作業指示、作業手順を末端作業員まで再周知、徹底する
- クレーン操作者や玉掛者とは別に、監視人を配置する
- トラブル等が発生した場合(積荷の引っ掛かり等)、作業を一時中止し現場責任者の指示を受ける
バックホウで吊った振動ローラーが落下し作業中の作業員が被災 右耳介裂創

土砂埋め戻し作業の準備中での事故。
元請の職員が、作業の邪魔になった振動ローラー(ハンドガイド式)をバックホウで吊り上げました。このバックホウは移動式クレーン仕様ではありませんでした。
バケットとアームの隙間にワイヤーを通して杭木に掛けて吊り上げ、杭木が折れて振動ローラが落下しました。下にいた作業員のヘルメットに接触し、顎ひもで右耳を負傷しました。
- 移動式クレーン機能付きでないバックホウの用途外使用
- 監理技術者や現場代理人と協議せずに元請職員が自己判断で作業を実施した
- 誘導合図者の未配置
- 立ち入り禁止区域の未設定
対策としては、以下の点が挙げられます。
- 元請職員、下請作業員全員参加による再発防止協議会を開催する
- 現場内のバックホウを全て移動式クレーン機能付きに変更する
- 専属の合図者を配置する
掘削土砂崩壊による労働災害事例
【死亡事故】翌日作業の事前確認のため掘削底部に入り掘削面が崩壊し生き埋め

既設水路との接続作業の確認中の事故。
新設のボックス水路を設置完了した後、元請技術者が翌日に予定している既設水路との接続作業の確認を行っていました。
床掘底盤部の作業ヤードを部分的に広げて状況を確認していたところ、土砂が崩落して生き埋めとなり死亡しました。
- ほぼ垂直に掘削して不安定な床掘内に、被災者が独断で立ち入った
垂直掘削作業は、被災者が近傍にいたバックホウのオペレータに指示して行いました。当初、バックホウオペレーターは、被災者が床掘内に入らないか様子を伺っていましたが、入る様子がなかったため、別の作業に専念しました。
しかし被災者は、作業手順、及び作業予定にない翌日の作業段取り確認を独断で行ったことが原因と考えられます。
対策としては、以下の点が挙げられます。
- 規定の掘削法面勾配で、掘削完了した後に現地に立ち入ることを徹底する
- 単独で危険な場所等に立ち入らないことを徹底する
その他の労働災害事例
ここからは転落・建設機械以外の労働災害の事例を紹介していきます。
【死亡事故】作業員が吊り荷の水道管と掘削断面に挟まれ死亡
水道管の敷設工事の事故。
バックホウの0.45m3級(移動式クレーン)を用いて、水道管を吊り配管作業を行っていました。バックホウ運転手の服が左側操作レバーに引っかかり、急旋回しました。
接続部分のボルト締めを行っていた作業員が、吊り荷の水道管と掘削断面に挟まれ死亡しました。
- 水道管の吊り下ろし時に吊り荷と掘削断面の間に入って作業した
- 作業時に合図者がいなかった
- バックホウの運転手が動きにくい服装であった
対策としては、以下の点が挙げられます。
- バックホウ運転手は操作レバーから手を放すときや運転席シートから着脱するときは、安全レバーをロックする
- 配管の接続方法の確認等はバックホウ運転手に任せず、作業開始前に合図者を決め指示を行う
- 配管材料の吊り下ろし時は、管が掘削底に置かれるまで吊り荷と掘削断面との間に入らない
- 朝礼時(KY活動)に全作業員が正しい服装になっているかの確認を徹底して行う
- 冬季における作業でも厚着で動きにくい服装にならないようにする
労働災害が多い業種や事例は?
厚生労働省が発表している、令和5年の労働災害発生状況によると、労働災害による死亡者数は全産業で755人、休業4日以上の死傷者数は135,371人です。
これを、業種別にランキングすると以下のとおりです。
- 建設業 223人
- 製造業 138人
- 陸上貨物運送事業(運輸業) 110人
- 林業 29人
- 製造業 27,194人
- 陸上貨物運送事業(運輸業) 16,215人
- 小売業 16,174人
- 建設業 14,414人
労働災害で多い事例は転倒事故

〇労働災害事例ランキング | ||
1位 | 転倒 | 36,058人 |
2位 | 動作の反動・無理な動作 | 22,053人 |
3位 | 墜落・転落 | 20,758人 |
4位 | はさまれ・巻き込まれ | 13,928人 |
労働災害で多い事例は、転倒事故です。床が濡れていたり、油で滑りやすくなっている場所や、段差のある場所では特に多くなっています。「転倒」の死傷者数は36,058人です。
その次に多いのが、動作の反動・無理な動作による腰痛などです。重い荷物を持ち上げる時に無理な姿勢で力んで腰痛になったり、急な動作による反動で怪我することも多くなっています。「動作の反動・無理な動作」の死傷者数は22,053人です。
また、高所からの墜落・転落事故も増えています。階段で踏み外したり、足場や屋根の上での作業中に転落したりするケースが多く見られます。「墜落・転落」の死傷者数は20,758人です。
機械を扱う作業では、はさまれ・巻き込まれ事故が多く発生しています。手や指をはさまれたり、回転部分に巻き込まれたりするものです。「はさまれ・巻き込まれ」の死傷者数は13,928人です。
事故の種類を問わず必要な防止対策
・安全衛生教育
・リスクアセスメントの実施
・危険予知活動
・5S活動
・特別教育の実施
・メンタルヘルス対策
労働災害を防止するには、事業者と労働者が一体となって取り組まなければなりません。
以下の対策を実施することで労働災害防止につながります。
安全衛生教育
安全に作業を行うための安全衛生に関する教育を、労働者に実施します。例えば、作業手順の理解を深めるための教育、危険物の扱い方、緊急時の対応方法などがあります。
リスクアセスメントの実施
作業に伴う危険性を洗い出し、低減するためにはリスクアセスメントが効果的です。リスクアセスメントを行うことで、事故の可能性を事前に評価し、適切な安全対策を講じることができます。
具体的には、
- 労働災害につながる危険性を洗い出し特定する
- 特定したリスクの重篤度、発生の可能性を分析する
- 分析した内容からリスクの優先度を決定する
- 優先度が高いリスクから災害防止対策を行う
などがあります。
危険予知活動
危険予知活動(KY活動)は、現場の作業前に危険性のあるものを事前に把握し、発生させないように未然に防ぐ活動です。
例えば、作業開始前に作業者全員で「どんな危険が潜んでいるか」を話し合い、「ここが危ないのではないか?」と危険のポイントについて共有します。そして、危険のポイントについての対策を全員で意見を出し合い、対策を実施します。
5S活動
5S活動の『5S』とは、整理・整頓・清掃・清潔・しつけのことです。職場の環境を整え、事故の発生を防ぐための基本的な活動のことです。
例えば、
- 整理:必要な物と不必要な物を分け、不必要な物を捨てること
- 整頓:必要な物を規則正しく配置し、誰でも分かるようにすること
- 清掃:ゴミや汚れを掃除してきれいにすること
- 清潔:整理・整頓・清掃が維持できていること
- しつけ:決められたルールを守る習慣を身につけること
などの活動を実施します。
特別教育の実施
特定の危険性がある作業を行う労働者には、その作業に特化した教育を実施します。
例えば、重機操作・高所作業・化学物質の取り扱いなど、特別な知識や技術が必要な作業については、専門的な教育を行います。
特別教育で危険性を十分に理解してから作業を行うことで災害防止につながります。
メンタルヘルス対策
メンタルヘルスとは、心の健康のことです。
職場における人間関係やハラスメント、過度な長時間労働など、様々な要因で労働者のメンタルヘルス不調が起こります。よって、労働者の心の健康を保つ取り組みが重要になります。
例えば、労働者が自分で行うストレス緩和ケア、ストレスチェックの実施、業務環境の改善、相談窓口の設置、産業医によるカウンセリングなどの取り組みを行います。
毎月の安全訓練で安全意識を高めよう
現場における安全訓練の内容は、労働災害の参考図書による安全教育に偏り、マンネリ化している傾向が見られます。実際の実地訓練を行った方が、安全意識の向上は格段に上がります。
- AEDのメーカーに講師を依頼し、AEDの使用方法の訓練を行う
- 消防署から救急救命士を招き、応急手当の訓練を行う
- 安全帯(フルハーネス)を訓練台に装着し、体への負担を経験する訓練を行う
- カラーコーンを使用した重機の死角確認(運転席から見た死角)
- 油流出を想定し、吸着マットの作成や設置、中和剤の噴霧器の取り扱いの訓練を行う
- VRを使用して事故などの疑似体験をする訓練
ひとりひとりが事故や災害を自分ごとと捉えてもらうよう、会社全体で継続的かつ積極的に取り組んでいき、安全意識を高めていきましょう。