建設業における安全対策とは?効果的な安全対策10選を紹介

建設業界は、高所作業や重機の使用機会が多い仕事の性質上、他の職業と比較して労働災害が発生しやすいといわれています。
労働災害は年々減少傾向にあるものの、依然として高い割合を占めています。万が一事故が発生した場合は重大な事故につながる恐れがあるため、建設現場では万全な安全管理のもとに作業を実施しています。
ですが、事故そのものを完全になくすことはできていないのが実情です。そのため、建設業界における安全管理の強化は特に重要となっています。
そこでこの記事では、建設現場で想定される事故のリスクや発生要因と、効果的な安全対策について紹介します。
目次
建設業における安全対策とは?
建設業における安全対策とは、作業員の生命を守り、労働災害を未然に防ぐために実施される総合的な取り組みを指します。

具体的には以下の取り組みがあります。
- 作業環境の整備
- 適切な保護具の着用
- 定期的な安全教育の実施
- 作業手順の標準化
- 日々の安全確認活動
これは一部の具体例です。建設現場では、墜落・転落災害や重機による事故、資材の落下などの危険が常に存在するため、これらのリスクに対する体系的な対策が不可欠となります。
安全管理を徹底することが安全対策につながる
安全管理とは?
安全管理とは、建設現場における施工管理業務の重要な柱のひとつです。
建設現場における施工管理業務の重要な柱の一つが安全管理です。この管理業務は、工程管理、原価管理、品質管理と同様に不可欠な要素として位置づけられています。
建設現場には常に危険が潜んでいます。大型機械の往来、重量物の運搬作業、高所での施工など、一歩間違えば重大な労働災害につながりかねない要素が数多く存在します。
そのため、作業員の安全を確保するための具体的な対策、例えば高所作業における転落防止用の手すり設置や、機械設備の定期的な点検などが欠かせません。
これらの安全管理を怠れば、単なる工期の遅延だけでなく、最悪の場合、人命に関わる重大事故を引き起こす可能性があります。そのため、建設現場では事前の危険予知と適切な安全対策の実施を通じて、徹底した安全管理を行うことが求められています。
効果的な安全対策の方法10選を紹介
ここからは、建設業における効果的な安全対策の方法を紹介していきます。
ヒヤリ・ハットの共有
ヒヤリとしたり、ハッとしたりした経験から名付けられた「ヒヤリ・ハット」は、大きな事故には至らなかったものの、一歩間違えれば重大な事故につながりかねない出来事のことです。
このような事例を現場で経験したり目撃したりした際には、すべての作業員間で情報を共有し、現場全体での意識向上を図ることで、重大な事故の予防につなげることができます。
リスクアセスメントの導入
リスクアセスメントの導入は、労働災害を防ぐための重要なプロセスです。建設現場では、高所作業や重機操作、化学物質の取り扱いなど、多くの潜在的な危険源が存在します。
リスクアセスメントを実施することで、これらの危険源を詳細に特定し、それぞれのリスクレベルを評価することが可能です。その結果、優先度の高いリスクに対して具体的な低減策を講じることができます。
例えば、
- 高所作業における転落リスクには、安全帯の着用や作業台の設置を義務付ける
- 重機操作では資格保有者に限定する
といった対策が考えられます。
これにより、従業員が安全に作業できる環境が整備され、事故やケガを未然に防ぐ効果が期待できます。
KY(危険予知)活動の実施
現場作業に潜む危険要因と、それらが引き起こし得る事故を事前に予測する危険予知(KY)活動は、作業の安全性を高める重要な取り組みです。
特に、作業開始前に全作業員が集まる機会を活用して実施すると効果的です。なぜなら、チーム全体で潜在的なリスクを共有し、その対策を議論することができるからです。
このような訓練を通じて作業員一人一人の危険に対する意識が高まり、現場全体の安全意識の向上と事故防止につながっていきます。
機器の定期的な点検
機械設備の不具合による事故を未然に防ぐためには、計画的な点検活動が不可欠です。始業前後の日常点検や自然災害発生後の臨時点検など、状況に応じた点検を実施することで、機器の故障や誤作動のリスクを最小限に抑えることができます。
また、点検対象となる機器をリスト化し、チェックシートを作成するのもオススメです。漏れのない効率的な点検作業が可能となり、より確実な安全管理をすることができます。
季節、天候の状況に応じた対策
天候や季節の変化に応じた適切な対策は極めて重要です。雨天時には足元が滑りやすくなり転倒リスクが高まります。立地条件によっては浸水被害の可能性も考慮する必要があります。
また、強風時には設置している資材や安全設備が飛散し、作業員や周辺住民に危害を及ぼす可能性があるため、気象状況を常に注視し早期対応を心がけることが重要です。
さらに、夏場の熱中症や台風シーズンの自然災害など、季節特有のリスクに対しても、状況に応じた適切な予防措置を講じることで、安全な作業環境を維持することができます。
安全衛生管理計画の策定
建設現場における元方事業者には、労働安全衛生法に基づく「安全衛生管理計画」の作成が義務付けられています。
この計画には、
- 安全衛生管理の基本方針や具体的な目標
- 労働災害防止のための対策
- 計画に対する労働者代表からの意見
などの重要事項を明確に記載する必要があります。また、計画の実効性を高めるために、具体的な実施期間を設定します。
さらに次年度に向けた検討事項も含めることで、継続的な安全衛生管理の改善を図ることができます。
高所作業時における安全対策
高所での作業は転落事故のリスクが特に高く、作業員の生命に関わる重大な事故につながる可能性があります。そのため、作業環境の特性を十分に考慮した適切な転落防止対策の実施が不可欠です。
具体的には、
- 足場には必ず手すりを設置する
- 開口部には防護柵や安全ネットを装備する
など、物理的な防護措置を講じる必要があります。
また、作業員には安全帯の正しい使用方法を徹底指導し、確実な着用を義務付けることも重要です。
作業員の体調管理の徹底
作業員の健康を守ることも安全対策には欠かせません。
日々の業務開始前に、体調やストレスレベルをチェックシートで確認するなど、体系的な健康管理の仕組みを導入することで、作業員の体調の変化を察知することができます。
また、体調不良を感じた際に躊躇なく報告できる職場環境を整備することで、ヒューマンエラーや予期せぬ事故を未然に防ぐことが可能です。
作業員の教育
現場における安全対策の中には、すべての作業員の危険予知能力の向上も不可欠です。
新規入場者や若手作業員への初期教育だけでなく、経験豊富な中堅の作業員に対しても継続的な教育訓練として実施することが重要です。
特に、日々の作業開始前のミーティングでは、その日特有の作業リスクや注意点を全員で共有・確認することが大切です。作業員一人一人の安全意識を高め、より確実な事故防止につなげましょう。
作業手順書による工法確認
適切な作業手順の遵守は事故防止の基本となります。そのため、作業開始前に詳細な作業手順書を作成し、全作業員に正しい工法とルールの徹底を図ることが重要です。さらに、元方事業者による定期的な現場巡視を通じて、これらの手順やルールが確実に実践されているかを監督することで、より高い安全性を確保することができます。
想定される労働災害と事故事例
ここからは、令和5年度死傷労働災害統計データで特に多い労働災害、『墜落・転落』『はさまれ・巻き込まれ』を含む型を抜粋し、想定される労働災害と事故事例について紹介していきます。
職場の安全サイト:労働災害統計

墜落・転落
建設現場では足場や屋根からの転落、はしごや脚立からの落下、開口部からの墜落などが想定される労働災害として挙げられます。特に高所作業時の安全帯未使用や、足場の組立・解体時の不安定な状態での作業が事故の原因となることが多く見られます。
また、雨天時の滑りやすい状況や、作業床の端部に手すりが設置されていないことによる転落など、作業環境に起因する事故も想定されます。
【事故事例】
- つり足場の解体作業中、墜落防止措置が不十分だった作業床の開口部から作業員が転落し、深さ3メートルの川に落下し溺水により死亡しました。作業員はライフジャケットを着用していませんでした。
- 鉄骨組立作業時に、高さ9mの梁上で材料を運搬していた作業員が足を踏み外し、そのまま転落、死亡しました。作業員は安全帯の着用をしていませんでした。
【墜落・転落の対策】
作業現場の基本的な安全管理
- 作業エリアは常に整理整頓を徹底し、安全な通路を確保する
- 積み上げられた資材の上での移動は厳禁とする
- 車両や機械への乗降時は専用の昇降設備を必ず使用する
安全作業のための事前準備
- 複数の作業が重なる上下作業は一切禁止する
- 危険区域を明確に表示し、関係者以外の立入を制限する
- 具体的な作業手順を文書化し、全作業員への周知を徹底する
高所作業における安全確保
- 1.5m以上の高低差がある作業位置では、必ず適切な昇降設備を設置する
- はしご・脚立使用時は両手を確保し、三点支持の原則を遵守する
落下物災害の防止対策
- 作業用具や資材の落下を防止するため、防護ネットや安全ロープによる確実な固定を実施する
はさまれ・巻き込まれ
クレーンやバックホウなどの建設機械と構造物の間にはさまれる事故や、コンクリートミキサー車の回転ドラムに巻き込まれる事故などが想定される労働災害です。
また、資材の搬入・搬出時に作業員が資材と固定物の間にはさまれるケースも考えられるでしょう。主に安全確認や操作ミスなどで、直接事故に繋がるケースが多いです。
【事故事例】
- トンネル工事現場において、シールド機の真円保持装置のスプレッダー交換作業中、装置下部で作業していた作業員が、セグメントと装置の間に頭部を挟まれ死亡しました。この現場では、重量物の間に人が入っているにもかかわらず、監視人を配置していませんでした。
- ドラグ・ショベルのバケットに、コンクリート打設用バケットをつるす作業を行っていた作業員が、ドラグ・ショベルのバケット背面と擁壁との間にはさまれ死亡しました。これは、運転手が運転席ドアを開けようと手を伸ばしたところ、腕がアーム操作レバーに触れてしまったために起こりました。
【はさまれ・巻き込まれの対策】
設備における安全の確保
- 機械の可動部には必ず防護カバーや安全柵を設置し、定期的な点検を実施する
- 危険エリアには光電センサーを配置し、人の接近を自動検知する
- 回転機器には適切なガイドロールを取り付け、巻き込まれ防止を徹底する
- 安全装置の不具合を発見した際は、直ちに作業を停止する
- 始動スイッチには施錠装置を設け、不用意な起動を防止する
- 機械の停止操作に関する明確な基準を策定する
安全意識の向上と教育体制
- 作業の安全手順について定期的な教育を実施し、理解度を確認する
- 実践的な危険予知活動を通じて、現場での危険感受性を高める
- 全作業員の安全意識向上のための継続的な取り組みを行う
作業規律の確立と実践
- 通常作業および異常時の対応手順を明文化し、全作業員への周知を徹底する
- 管理監督者による定期的な作業手順の遵守状況確認を実施する
- 作業時の服装管理を徹底し、巻き込まれ事故の防止を図る
- 規定の作業服・保護具の正しい着用を義務付ける
感電
仮設電気設備の不適切な設置や管理による感電事故、高圧電線への接触事故、水たまりや雨天時の漏電による感電事故などが想定される労働災害として挙げられます。
特に解体工事中の埋設配線の誤切断や、クレーン等の建設機械が架空電線に接触することによる感電事故も考えられます。また、電動工具の絶縁不良や、アース(接地)の未実施による二次災害も注意が必要です。
【事故事例】
積み込み作業中に、作業員が荷振れを防ぐため車両積載形ラッククレーンの荷台上で、つり荷の枕木を押さえるという作業を行っていました。
車両積載形ラッククレーンのジブが、作業場所の上に張られていた架線(22kV)に接触し、作業員が感電し死亡しました。この時、作業監視員は配置されていませんでした。
【感電の対策】
電気設備における基本的安全対策
- 通電部には確実な絶縁カバーを設置し、露出を防止する
- 防護システムとして漏電遮断器を必ず設置する
- アース工事による確実な接地を実施する
- 安全性の高い二重絶縁構造の電気機器を採用する
- 作業に応じた適切な絶縁保護具を使用する
- 定期的な電気安全教育を実施し、知識の向上を図る
- 電気設備の日常点検と保守管理を確実に実施する
作業者の遵守事項
- 電気作業用の適切な長袖作業服を着用する
- 電気工事専用の保護帽を必ず使用する
- 絶縁性能を有する安全靴と作業用手袋を使用する
- 金属製の装飾品や所持品は作業前に必ず外す
- 汗や水分による感電防止のため、通電部への接触を厳禁とする
夏季は発汗量が増加するため、より一層の注意を払い、適切な休憩と水分補給を行いながら作業を実施すること。
火災
溶接・溶断作業や引火性物質の取り扱い、特に解体工事や改修工事における溶接の火花が、既存の可燃物や建材に引火する事故などが、想定される労働災害として挙げられます。
また、塗装作業時の有機溶剤の揮発による引火や、配線工事時の電気火災、ガス工事における漏洩・引火事故なども考えられます。さらに、作業員の喫煙や休憩所での電気機器の不適切な使用による火災も注意が必要です。
【事故事例】
内装用の断熱材を床に接着する作業中に起きた火災事故です。作業開始からまもなくして、突然入り口から1mほどの所に置いた投光器付近から炎が上がりました。その直後、倉庫内一面に火が燃え広がり、その場で作業していた作業者9名が火傷を負いました。この時、換気等は行っていませんでした。
【火災の対策】
火災防止の基本対策
- 可燃物と熱源の隔離のため、不燃性シートによる断熱材の確実な保護を実施する
- 適切な消火設備を要所に配置し、定期的な点検を実施する
- 作業エリアの整理整頓を徹底し、不要な可燃物の撤去を日常的に行う
緊急事態への備え
- 火災等の発生時における通報体制と避難経路を明確化し、全作業関係者への周知を徹底する
- 定期的な避難訓練と消火訓練を実施し、緊急時の対応能力を向上させる
実際に労働災害が起こってしまったら?
労働災害の防止に努めることが大原則ですが、建設工事中に予期せぬ事態が発生することも想定されます。そのため、建設現場の管理者は、事故発生時にどのような対応をしなくてはならないのか、事前に把握しておく必要があります。
以下では、建設現場で実際に労働災害が起こってしまった場合に発生する労働基準監督署の調査と、調査に必要な書類の準備について解説します。
労働基準監督署の調査
死亡事故や重篤な災害(4日以上の休業を必要とする負傷や疾病)が発生した場合は、労働基準監督署が調査を行います。なぜなら、死亡事故や重篤な災害が起きた際に事業者が行う義務として、「労働者死傷病報告」の提出があるからです。
労働基準監督署はこの「労働者死傷病報告」の報告を受けて、調査を行います。また、労働者や関係者からの通報や申告によって、労働基準法や労働安全衛生法に違反している可能性が指摘された場合にも、調査が行われます。
調査に必要な書類の準備
労働基準監督署の調査時に準備すべき書類は、調査の内容や目的によりますが、以下のような書類が求められることが一般的です。
- 労働災害に関する書類
・労働者死傷病報告書
・災害発生時の記録や報告書
・労災補償関連書類 - 労働安全衛生関連書類
・安全衛生管理計画書
・リスクアセスメントや危険予知活動(KY活動)に関する記録
・作業手順書(施工計画書)
・設備点検記録 - 労働条件に関する書類
・雇用契約書
・労働時間管理記録
・給与明細・賃金台帳 - 教育・訓練関連書類
・安全教育の実施記録
・特別教育や資格証明書 - 災害現場の図面や資料
・現場配置図・施工図面
・現場の写真や映像
調査内容によって必要書類が異なるため、万が一の時のために事前に労働基準監督署へ問い合わせてみるとよいでしょう。
書類の不備があると調査が長引いたり指摘を受ける可能性があるため、日頃から書類を整理・保存する体制を整えておくことが重要です。
労働災害発生時に役立つ5大書類
労働災害発生時、主に裁判の時に役立つ5大書類が以下の書類です。
1. 打合せ簿(作業安全日誌)
2. KYリスクアセスメント
3. 作業手順書
4. 各種点検簿
5. 作業計画書
これら5大書類は、建設会社側が実施してきた安全対策の証拠となる重要な記録です。
労働災害が発生した場合、特に死亡労働災害は裁判に発展する可能性が高くなります。なぜなら、事件性がないと警察が判断した場合でも、労働安全衛生法違反などが認められれば検察庁へ書類送検されるためです。
書類送検後、起訴された場合は裁判となります。裁判では、『建設会社側の安全対策の実施状況』が主要な争点となります。
その際、5大書類の記載内容は、裁判所の判断に大きな影響を与える可能性があるといえるでしょう。
打合せ簿(作業安全日誌)
元請会社の安全管理における最重要書類です。打合せ簿には、予測される全てのリスクを具体的に記載し、それに対する安全指示事項を明確に示す必要があります。職長のサインは法的証拠となるため、必ず確認を行います。
KYリスクアセスメント
職長は、元請からの安全指示事項を作業員全員に詳細に説明する義務があります。さらに、現場での危険性・有害性を評価し、具体的な対策を立案します。この内容を作業員全員で共有し、確認のサインを取得します。
作業手順書
下請業者から提出された作業手順書を元請が精査し、安全上の問題点があれば関係者全員で改善策を検討します。現場の特性や状況に応じた具体的な手順を作成し、全作業員への周知徹底を図ります。
各種点検簿
各種点検簿の見本画像挿入
重機や足場、地山などの始業前定期点検を周到に行います。
作業計画書
重機、移動式クレーン、コンクリートポンプ車、フォークリフト、高所作業車の作業計画書を記載しておきましょう。監視員、誘導員の立ち位置等が重要となります。
現場全体で安全意識を高めることが安全対策になる
建設現場における安全対策として最も重要なのは、現場全体で安全意識を高めることが大切です。そして万が一労働災害が発生してしまった場合にも、迅速に対応できるよう前もって対策をしておくことが重要です。
この記事を参考に、現場全体で安全管理を徹底するとともに、現場ごとに想定される労働災害のリスクを洗い出し、安全対策に取り組むことで、労働災害が発生しない現場づくりを目指していきましょう。