建設業の経営事項審査(経審)とは?初心者向けに分かりやすく解説!

公共工事を請け負う建設業者には必ず必要な経営事項審査。
ですが、経営事項審査と聞くと
「内容が難しく何から取り組んで良いか分からない…」
「行政書士に依頼しているから詳しい内容を把握していない…」
このように思う建設業者も多いのではないでしょうか?
そこでこの記事では、経営事項審査の評価項目、申請の流れ、点数をアップする方法などを初心者向けに説明していきます。
「公共工事入札に参加したい」
「経営事項審査の点数をあげたい」
という方は、ぜひ参考にしてください。
目次
経営審査事項(経審)とは?
「経営事項審査」とは、国、県、市町村などが発注する公共工事を請け負う建設業者が必ず受けなければならない審査です。審査を受けることで、会社の経営規模や経営状況などが数値化されます。そのことから、経営事項審査は会社の『通信簿』ともいえます。
経営事項審査の点数が高いと公共工事の入札に有利に働くため、点数アップに努める企業が多いです。

経営事項審査が必要な場合とは?
公共工事を請け負う建設業者は経営事項審査が必要です。法律でも定められています。
(経営事項審査に関する法律 建設業法第27条の23)
「公共性のある施設又は工作物に関する建設工事で政令で定めるものを発注者から直接請け負おうとする建設業者は、国土交通省令で定めるところにより、その経営に関する客観的事項について審査を受けなければならない。」
https://laws.e-gov.go.jp/law/324AC0000000100#Mp-Ch_4_2-At_27_23
また、必ずしも全建設業者が経審事項審査を受ける必要はありません。民間企業が発注する工事を請け負う場合や下請の場合は、経営事項審査は必要ありません。
経営事項審査を受けるには建設業許可が必要
建設業許可を取得していなければ、経営事項審査を受けることはできません。
建設業許可とは、建設業を営む事業者が取得しなければならない許可です。建設業許可を取得していなければ、500万円以上の工事を請け負うことはできません。
しかしながら、軽微な工事のみを行う建設業者は、建設業許可の必要はありません。建設業許可は建設業法の第3条によって定められています。
https://laws.e-gov.go.jp/law/324AC0000000100#Mp-Ch_1

経営事項審査と建設会社のランク付けの関連
経営事項審査の点数は建設業者のランク付けと深く関係しています。
建設業者のランク付けは、「客観点」(経営事項審査の点数)と「主観点」(発注機関が独自に定めた評価点数)をもとに決まります。
主観点:表彰(優良工事表彰、優良業者表彰)、・CPDSのユニット取得数、ISO取得の有無

そして、定められたランクに応じて入札に参加できる工事が決まります。工事の発注金額が高いほど、高いランクの建設業者が入札に参加することができます。発注機関に応じて入札に参加できる工事の発注金額やランクが異なりますので注意しましょう。
(例)国土交通省発注工事の入札参加ランクは下記のようになります。
一般土木・建築 | |
Aランク | 7億2,000万円以上 |
Bランク | 3億円以上~7億2,000万円未満 |
Cランク | 6,000万円以上~3億円未満 |
Dランク | 6,000万円未満 |
福岡県発注工事の入札参加ランクは下記のようになります。
土木一式工事 | ||
業者等級区分及び基準数値 | 請負工事標準額 | |
A | 940点以上 | 5,000万円以上 |
B | 720点以上~940点未満 | 2,000万円以上~5,000万円未満 |
C | 550点以上~720点未満 | 500万円以上~2,000万円未満 |
D | 550点未満 | 500万円未満 |
経営事項審査(経審)の評点項目について
経営事項審査の点数は下記評点項目から構成されています。
- 経営規模(X)
- 経営状況(Y)
- 技術力(Z)
- その他の審査項目(W)
そして、この4つの評価項目から総合評価値が算出されます。
総合評価値の算出式は下記の通りです。
総合評価点(P)=0.25(X₁)+0.15(X₂)+0.20(Y)+0.25(Z)+0.15(W)
各評価項目について解説していきます。
経営規模(X)
経営規模(X)はX₁とX₂の2つに分かれています。
経営規模(X)
審査項目
経営事項審査全体の割合 40%
X₁
完成工事高(許可業種別)
25%
X₂
・自己資本額
・利払前税引前償却前利益15%
X₁の審査項目は完成工事高(許可業種別)です。X₂の審査項目は自己資本額と利払前税引前償却前利益です。
経営規模(X)は、経営事項審査全体の40%(X₁25%、X₂15%)を占めており、評価項目の中で最もウエイトが大きいです。
経営状況(Y)
経営状況(Y)は4つの審査項目から算出されます。
経営状況(Y) | 審査項目 | 経営事項審査全体の20% |
①負債抵抗力 | 純支払利息比率・負債回転期間 | |
②収益性・効率性 | 総資本売上総利益率・売上高経常利益率 | |
③財務健全性 | 自己資本対固定資産比率・自己資本比率 | |
④絶対的力量 | 営業キャッシュフロー・利益剰余金 |
①負債抵抗力は、純支払利息比率・負債回転期間から算出
②収益性・効率性は、総資本売上総利益率・売上高経常利益率から算出
③財務健全性は、自己資本対固定資産比率・自己資本比率から算出
④絶対的力量は、営業キャッシュフロー・利益剰余金から算出
経営状況(Y)は、経営事項審査全体の20%を占めております。
技術力(Z)
技術力(Z)は2つの審査項目から算出されます。
技術力(Z) | 審査項目 | 経営事項審査全体の25% |
①技術職員数 (許可業種別) |
専任技術者や現場の主任技術者で 管理技術者になり得る職員等の人数 |
|
②元請完成工事高 (許可業種別) |
直前2年又は直前3年の 年間平均元請完成工事高 |
①技術職員数(許可業種別)は、専任技術者や現場の主任技術者で管理技術者になり得る職員等の人数から算出されます。
②元請完成工事高(許可業種別)は、直前2年又は直前3年の年間平均元請完成工事高から算出されます。
技術力(Z)は、経営事項審査全体の25%を占めております。
その他の審査項目(W)
その他の審査項目(W)は8つの審査項目から算出されます。
W1 建設工事の担い手の育成及び確保に関する取組の状況
①雇用保険の加入状況
②健康保険の加入状況
③厚生年金保険の加入状況
④建退共の加入状況
⑤退職一時金もしくは企業年金制度の導入
⑥法廷外労災制度の加入状況
⑦若齢技術者及び技能者の育成及び確保の状況
若年技術者(35歳未満)の継続雇用と新規雇用が加点対象になります。
⑧知識及び技術又は技能の向上に関する取組の状況
建設系技術者の能力の維持・向上を図るため継続教育(CPD)の受講や技能レベル 向上者数が加点対象になります。
⑨ワーク・ライフ・バランスに関する取組の状況
「女性活躍推進法に基づく認定」、「次世代法に基づく認定」及び「若年雇用促進法 に基づく認定」を受けているが加点対象になります。
⑩建設工事に従事する者の就業履歴を蓄積するために必要な措置の実施状況
CCUS(建設キャリアアップシステム)の活用状況が加点対象になります。
W2 建設業の営業年数
W3 防災活動への貢献の状況
W4 法令順守の状況
W5 建設業の経理の状況
W6 研究開発の状況
W7 建設機械の保有状況
W8国又は国際標準化機構が定めた規格による登録状況
①品質管理に関する取組(ISO9001)
②環境配慮に関する取組 (ISO14001、エコアクション21)
その他の審査項目(W)は、経営事項審査全体の15%を占めております。

経営事項審査申請の流れ
経営事項審査の結果を受け取るまでの流れは下記の通りです。

- 決算報告書の作成
- 事業年度終了届の提出
- 経営状況分析の申請手続き
- 経営規模等評価申請の手続き
- 総合評定値通知書の取得
経営状況分析を受け、その結果通知書がなければ経営規模等評価申請はできませんのでご注意ください。経審事項審査の手続きは半年近くかかるため、余裕を持って書類の作成・申請をしましょう。
01.決算報告書の作成
決算報告書は、企業の経営成績やキャッシュフローなどを説明する書類です。事業年度が終了してから2か月以内に作成しましょう。
02.事業年度終了届の提出
事業年度終了届は事業年度が終了してから4か月以内に許可行政庁に提出しましょう。
03.経営状況分析の申請手続き
経営状況分析機関に経営状況分析申請書を提出しましょう。
申請の際には下記書類等が必要です。
- 審査基準日直前1年分の財務諸表等
- 「減価償却実施額」を確認できる書類
- 建設業許可通知書の写し又は建設業許可証明書の写し
04.経営規模等評価申請の手続き
許可行政庁に経営規模等評価申請をしましょう。併せて総合評定値請求も行いましょう。
申請の際には下記書類等が必要です。
- 工事種類別完成工事高・工事種類別元請完成工事高
- 技術職員名簿
- その他審査項目
05.総合評定値通知書の取得
経営状況分析や経営規模等評価を踏まえ、総合評定値の結果が分かります。
経営状況分析+経営規模等評価=総合評定値
経営規模等評価:経営規模(X)
経営規模等評価:技術力(Z)
経営規模等評価:その他の審査項目(W)
経営状況分析:経営状況(Y)
経営事項審査の結果通知書はどこを確認したらいい?
総合評定値(P)は
総合評定値(P)=0.25(X₁)+0.15(X₂)+0.20(Y)+0.25(Z)+0.15(W)
から成り立っています。
そのことから、下記5つの箇所を確認したら良いでしょう。
- 総合評定値(P)
- 経営規模(X₁、X₂)
- 経営状況(Y)
- 技術力(Z)
- その他の審査項目(W)
また、他社の経営事項審査と比較することができ自社の強み・弱みなども見つけやすいです。他社の経営事項審査は下記サイトから確認することができます。
http://www7.ciic.or.jp/
経営事項審査(経審)には有効期限がある
経営事項審査の有効期限は、審査基準日から1年7か月です。結果通知書を受け取ってから1年7か月ではないので注意しましょう。
公共工事を直接請け負う建設業者は、毎年経営事項審査を受けなければなりません。ですので有効期限には気を付けましょう。
例えば、令和7年3月31日が基準日の場合、経営事項審査の有効期限は令和8年の10月31日になります。
短期間で経営事項審査(経審)の点数をアップする方法を紹介!
総合評価点(P)は
総合評価点(P)=0.25(X₁)+0.15(X₂)+0.20(Y)+0.25(Z)+0.15(W)
から成り立っています。
(X₁)(X₂)、(Y)、(Z)、(W)のいずれかの点数をあげることで総合評価点(P)もアップします。
短期間で経営事項審査の点数をアップするには、「その他の審査項目(W)」の評点をあげることが良いでしょう。なぜなら、(X₁)(X₂)、(Y)、(Z)の点数をアップするには、時間がかかるからです。
理由は下記の通りです。
- 経営規模(X₁、X₂)は完成工事高や自己資本の金額から算出されるから
- 経営状況(Y)は借入金の返済や利益率等から算出されるから
- 技術力(Z)は技術職員数と元請完成工事高から算出されるから
その他の審査項目(W)の中でも下記2項目について取り組むと、短期間で経営事項審査の点数がアップします。
⑧知識及び技術又は技能の向上に関する取組の状況
この評価項目の点数をアップするには、CPDのユニットを取得が必要です。CPDとは、建設系技術者の能力の維持・向上を図るための継続教育制度のことです。
CPD認定団体が認定するセミナーや講習会を受講すると、受講時間数に応じてユニットを取得することができます。
各建設業者に所属する技術者は、1年毎に目標となるユニット数を取得することをお勧めします。また、CPDのユニットを取得することで経営事項審査の加点の他、総合評価落札方式や主観点(建設業者のランク付け)で加点される場合があります。
①品質管理に関する取組(ISO9001)
②環境配慮に関する取組 (ISO14001、エコアクション21)
この評価項目の点数をアップするには、ISO9001、ISO14001またはエコアクション21を認証取得が必要です。
CPDと同様にISOを認証取得すると、CPDと同様に、経営事項審査の加点の他、総合評価落札方式や主観点(建設業者のランク付け)で加点される場合があります。
まとめ
経営事項審査は、公共工事を直接請け負う建設業者が必ず受けなければならない審査です。
経営事項審査は、会社の経営規模や経営状況などが数値化されることから、会社の通信簿とも言われています。他社の経営事項審査を閲覧することができ、自社の強みや弱みを客観的に把握することができます。
各建設業者が入札に参加したい工事のランクを考え、目指すべき経営事項審査の点数を狙っていきましょう。