建設業でISO9001は必須?取得する目的や、書類作成のポイントを紹介!

建設業者は、顧客のニーズを満たした品質の高い建築・構造物やインフラを提供することを求められています。
ISO9001は品質確保に効果的なマネジメントシステムを構築できる規格です。
建設業者にとってISO9001を導入することで、工事の計画から引き渡しまでの全工程で徹底した品質管理が期待できます。国土交通省の方針でもISO9001の活用を推奨しており、発注先の自治体によってはISO9001取得により建設業者が受ける恩恵は大きくなります。
では、建設業がISO9001を取得するメリットとは具体的にどういったものがあるのでしょうか。また、発生するデメリットやマニュアル・書類作成のポイントについても解説していきます。
目次
建設業でISO9001が普及した理由とは
建設業でISO9001が普及した理由は、国土交通省が2000年からISO9001を公共工事の入札参加の必須条件とする方針を打ち出したことがきっかけです。さらに、建設業では公共事業や大規模プロジェクトの入札が主要な受注手段であり、それが要因でISO9001取得の更なる普及につながりました。
建設業でのISO9001を促した要因である入札条件とはいったい何を指しているのでしょうか。また、入札以外にもISO9001を取得する目的はどのようなものがあるかを見ていきましょう。
入札条件での加点
建設業における入札条件での加点とは、入札参加者の総合評価や参加資格などに加算される点のことです。ISO9001認証の取得が評価されるタイミングは主に3つあります。
- 【経営事項審査】…経営事項審査(経審)を受けることは公共工事の入札に参加する業者の『義務』であり、ISO9001は経審点(P点)に関係するW点の中の一つ。
- 【競争参加資格審査の主観点】…格付(等級別登録)は、主観点と経審点(P点)の総合点数により振り分けられる。自治体によりISOの評価基準は様々。
例)鹿児島県では、主観点においてISO9001を取得していると10点の加点がもらえる - 【一般競争契約での総合評価落札方式】…ほとんどの自治体で採用されている落札方式。入札価格が予定価格の制限の範囲内にあるもののうち、価格と品質を数値化した「評価値」の最も高いものを落札者とする。自治体によりISOの評価基準は様々。
例)福岡県では、5000万円以上の工事において、ISO9001の取得が評価される

その他の理由
入札ではなくても、例えば、大手ゼネコンや大手ハウスメーカーにおいて、ISO9001の取得が取引の条件となっているケースがあります。
建設業は工事ごとに異なる環境条件で作業を進める必要があるため、品質管理の仕組みが特に重要です。
ISO9001は品質管理における様々な要求事項を規定しており、施工品質の安定と向上や業務の効率化が期待できます。そのため、ISO9001を取得していると、顧客や取引先に対して信頼性が認められ、受注の際に有利に働く場合があります。
建設業においてISO9001取得で発生するメリット・デメリット
建設業においてISO9001取得で享受できるメリットや発生するデメリットは以下の通りです。
メリット | デメリット |
1. 入札での加点 2. 顧客の信頼が得られる 3. 企業体質の強化 |
1. コストの増加 2. 即効性がなく、過剰なマネジメントシステムになる恐れがある 3. 人員と時間の確保が必要 |
メリット
建設業がISO9001認証を取得するメリットは大きく3つあります。
- 入札での加点
建設業の入札では、自治体が評価する「主観点」と、価格だけでなく技術力や品質を評価する「総合評価」が重要です。ISO9001認証により、これらの評価項目で加点されることがあり、競争上有利になります。 - 顧客の信頼が得られる
ISO9001認証は品質やプロセス管理などの高い基準を満たしている証明となります。発注者から見て、協力会社も含めた適切な施工管理や品質の確保が行われていることが期待でき、信頼向上につながります。 - 企業体質の強化
ISO9001認証を取得する過程で、組織内の役割の明確化や各業務プロセスの標準化を行う必要があります。従業員にとっては、企業の方針や目標、自分の役割の重要性等を理解して業務に取り組むことができ、企業体質の強化につながります。
デメリット
建設業がISO9001認証を取得するデメリットは大きく3つあります。
- コストの増加
ISO9001認証の取得や維持には審査コストがかかり、特に中小企業にとっては大きな経済的負担となる場合があります。取得後も維持審査や更新審査が発生するため、継続的に費用が発生します。 - 即効性がなく、過剰なマネジメントシステムになる恐れがある
ISO9001マネジメントシステムの運用は、継続的に改善することが求められるため、効果が現れるまでに時間がかかります。また、運用プロセスの改善を目的とするものの、誤った構築や過剰な文書化は業務効率を低下させる原因となりかねません。 - 人員と時間の確保が必要
ISO9001取得には文書化や運用記録の作成、内部監査などの対応が必要となり、最低でも6カ月ほどの期間がかかります。通常業務と並行して行う場合は、業務過多が深刻化する場合もあります。そのため、事前に十分な準備と人員確保が必要です。
【ISO9001】建設業の実情に合ったマニュアルや書類作成のポイント
建設業は現場に基づくマネジメントと、自社組織に基づくマネジメントの2パターンが存在します。
それぞれのパターンで、マニュアル(または手順書)や書類作成のポイントを説明します。
現場に基づくマネジメントのポイント
現場にマッチするISO9001構築のポイントは、前提として、「施工計画書」「工程表」など工事完成図書に含まれるもので、ISO9001の要求事項をほぼ満たしているということです。例えば、現場の発注者(顧客)からの要求事項を明確化したものが、インプットの段階では「仕様書」「図面」「打合せ記録」等にあたり、アウトプットは「施工計画書」「工程表」にあたります。
他にも、各プロセスの流れや作業ごとの手順、リスク管理(安全管理)、使用する資源(機械、資材)、現場関係者の力量(資格保有状況)など、ほとんどのISO9001要求事項がすでに文書化できているのです。
しかし、計画に関する要求事項は問題ない一方で、その計画通りに進んでいるのか、問題なかったのかを監視し、結果を記録するといった運用面での証拠が不足している恐れがあります。
以下が不足しがちな記録の一部例です。
- 利害関係者とのコミュニケーションの記録
- 労働災害以外の不適合があった際の記録
- 計測器の管理(使用前点検含む)に関する記録
- 社内検査の結果に関する記録
利害関係者とは、官公庁が主な顧客の場合の建設業で言うと、発注者、官公庁、地域住民、協力会社、従業員などが該当します。
利害関係者とのコミュニケーションの記録は、利害関係者とのすべての事柄において記録が必要というわけではありません。現場に関わる大きな意思決定を行った場合や、何かを変更した場合、クレームなどの不適合があった場合に証拠を残すように要求されているのです。
該当する場合は、5W1Hを意識して記録に残すようにしましょう。
労働災害があった場合は、発注者や労働基準監督署へ報告するために事故報告書を作成し、再発防止の処置まで記録に残す企業が多いため、証拠としては問題ありません。
しかし、軽微な事故やクレーム、機械の不具合、施工品質の不良等に関して記録を残す企業は少ないのではないでしょうか。軽微な事でも後に大きな問題へと発展するリスクがあります。そのような時に、自社としては適正な対処をしているのに、証拠がないため、自社が責任を被る可能性もあります。
そういった事態にならないためにも、ISO9001の要求事項【10.2 不適合及び是正処置】に沿って、記録を作成すると良いでしょう。
測量を行う時に計測機器(レベル、光波など)を使用しますが、測定する数値結果について、信頼性と適正性を確保するようにISO9001の要求事項で求められています。その担保として、定期的に国際的な計量標準に沿った校正を行い、「校正証明書」「トレーサビリティ体系図」等を取得します。
また、測量中に機器の精度に問題があることが判明した場合には、ただちにその問題の程度や影響範囲などを調査して、必要な措置を講じないといけません。
いつから機器に不具合があったのか、今までの測定結果は妥当なのか等の影響確認を正当に行うためにも、計測器の始業前点検について記録を残しておいた方が良いでしょう。
顧客に施工物を引き渡す前の最終社内検査について、実施はしているが記録には残していないという企業も少なくありません。
ISO9001の要求事項では、【8.6 製品及びサービスのリリース】にあたり、『合否判定基準への適合の証拠』と『リリースを正式に許可した人に対するトレーサビリティ』を含んだ内容で文書化を求められています。
つまり、最終社内検査で顧客に引き渡(リリース)していい状態なのかを確認するため、社内での管理基準や顧客要求事項を満たしているという判定、誰が引き渡しを承認したのかを記録に残すようにしましょう。

自社組織に基づくマネジメントのポイント
マネジメントシステムを構築する場合、社内の組織全体(適用範囲内の)でISOを取り入れる必要があります。業務とISO要求事項の関連性を明確化して、従業員に共有するためにも、まずマニュアルを構築することをおすすめします。
方針、組織図を作成
↓
各部門におけるプロセス(工程)は何があるのか、どの部門とどのプロセスで相互関係が生まれるのかなどの大枠の流れを確認
↓
各プロセスの中で、どういった業務があるのかを確認
↓
各業務での責任者、ルール、作業手順書の必要性、管理方法、必要な資源、コミュニケーション方法、教育・力量管理、不適合の管理、変更の基準などを明確化
↓
プロセスごとにISO9001の要求事項で足りない箇所をルール化して明記
↓
ISO9001の要求事項の【4.組織の状況】【6.計画】【9.パフォーマンス評価】に関する手順を明記
この流れに沿って、マニュアル作成を行うと実務に沿ったマネジメントシステムを構築することができるでしょう。ただ、営業などの各個人で業務の進め方が異なる場合や、顧客によってルールが変わってくる場合は、営業手法のフロー図や顧客による違い、注意事項等を個別に文書化することをお勧めします。
会社にとっても知的財産となり、効果的なマネジメントシステムが組まれていると評価してもらえるかもしれません。
ISO9001 とISO14001を統合する場合の書類作成のポイント
ISO9001とISO14001は、経営事項審査の加点にもつながるため、セットで取得している建設業者が多く見られます。また、工事現場では品質管理や工程管理、環境対策などのプロセスが密接にかかわっているため、ISO9001とISO14001を統合した方が管理がし易くなります。
統合というのは、マニュアルを一元化したり、審査を一緒に受けたりすることを指します。規格ごとで二重管理をして書類が多くなるという事態を避けるためにも、規格の統合を検討してみましょう。
ISO9001 とISO14001の統合とは?
ISO9001とISO14001の統合には2種類あり、審査を統合する方法と、マネジメントシステムを統合する方法があります。
【審査の統合】
ISO9001とISO14001の審査を同時に受ける方法。審査費用は審査員に係る工数も関係しているため、審査日数を減らすことで審査対応の負担と審査費用を低減することができる。
【マネジメントシステムの統合】
ISO9001とISO14001の仕組みを一つに統合する方法。各規格のマネジメントシステムのプロセスを統合することで、マネジメントシステムが一元化され、重複する作業を削減し、効率化を図ることができる。
例えば、内部監査やマネジメントレビューなども一度で実施できるため、運用に関する負担が削減される。
マニュアル構築や書類作成でのポイント
ISO9001規格とISO14001規格どちらにも、マニュアルを必ず作るようにとの要求はありません。
しかし、審査の時に、どのような業務プロセスがあるのか、ISO要求事項を満たす文書や記録類はどれかなどを一元管理できるようなマニュアルがあると非常に便利です。
統合マニュアルや書類を作成する際に注意したいのは、一元管理が望ましい要求事項と、別々の管理が望ましい要求事項を区分けすることです。ISO9001とISO14001では共通の要求事項もあれば、各規格で独自の要求事項もあります。
→ISO9001とISO14001の要求事項の違いについては次の記事を参照:ISO9001:2015の要求事項とは?運用のポイントも含め分かりやすく解説
しかし、マネジメントシステム規格の統合を進めるには、規格要求事項について深い理解がないと難しいため、認証審査機関やISOコンサルなどにアドバイスを求めることを推奨します。
建設業のISO9001取得・運用を成功させるポイント
ISO9001の目的は、『顧客満足の向上』ではありますが、審査で求められていることは『規格要求事項に適合しているか』です。つまり、品質そのものについては問われていません。あくまで仕組みづくりが重要なので、組織全体の業務を細分化し、ISO9001規格の要求事項を満たしているかどうかを確認していくことがポイントです。
ISOに合わせるのではなく、会社の実情に合わせた資料を作ろう
ISO9001は、2015年に企業の実態に合った無駄のない品質マネジメントシステムの構築が可能となるよう改訂されました。ISOのための書類作成や運用を行ってしまうと意味のないISOになってしまう恐れがあるため、全体的に業務の見直しを行う上で、ISO9001の要求事項を当てはめていくという形が望ましいでしょう。
しかし、独学でISO規格要求事項をかみ砕いて理解することは難しいため、無駄がなく効果的な書類作成や運用方法については、ISOの専門家であるコンサルタントに支援してもらうとスムーズに対応できるでしょう。
会社の方向性を明確にし、従業員に周知しよう
リーダー(トップマネジメント)は組織のビジョンや方向性を明確にし、それを経営理念や方針などにして言語化・成文化して従業員に周知する必要があります。
方針には「適用される要求事項を満たすこと」と「品質マネジメントシステムの継続的改善」を組み込むように求められており、取引先から求められた際に提示できるよう準備が必要です。
また、リーダーは現場の状況を理解し、それに対して積極的に支援し、リーダーが関与しているということを説明できるようにしましょう。
あいまいだった役割や作業を明確化しよう
ISO9001規格ではプロセスアプローチの考え方を重視しています。また、各プロセスにおいて責任や役割を明確化し、「意図したアウトプットになっているか」や「パフォーマンスは問題ないか」等について、監視しなければなりません。
業務プロセス(工程)ごとに「インプット」と「アウトプット」を整理し、誰が何をどのように行うかをルール化しましょう。ルールを明確にすることにより、無駄を排除し、品質向上と組織全体の効率化が実現できます。
まとめ
本記事では、建設業者向けにISO9001の構築の参考になるよう現場の場合、自社組織の場合との考え方を解説しました。
建設業界では、ISO9001単独での取得より、ISO14001とセットで取得をしている企業が多い傾向にあります。その場合、建設業であれば規格を統合した方が、メリットが大きいということを理解できたのではないでしょうか。
ただし、規格の統合には、各規格要求事項の理解が必要不可欠なため、外部コンサル等を利用して効率的にISO認証取得することも視野に入れると良いでしょう。