建設業でISO14001を取得する目的とは?書類作成のコツも解説!

ISO 2025.06.02

建設現場が事業活動の中心となる建設業は、地域住民への配慮や環境汚染の防止などさまざまな環境への影響が伴います。ISO14001は環境リスクの低減や回避、環境保護への貢献などを目的としています。ISO14001の取得により、こうした社会的責任を果たしている企業として、国際的に認められることになるのです。

しかし、ISO初心者にとっては、ISO14001の仕組みを構築するまでに大きな労力と時間を要します。ましてや人手不足が深刻な建設業においては、通常業務と並行してISOの業務を行う時間を確保することは難しいのではないでしょうか。

よってこの記事では、建設業者向けの環境マネジメントシステムの構築方法や、書類作成に役立つ情報を紹介していきます。

ISO14001とは?建設業の業務とのつながりについても解説

ISO14001は「環境マネジメントシステム(EMS)」に関する国際規格です。

建設業においてISO14001の取得は、環境負荷の低減及び環境改善、コストダウン、法規制順守による環境リスクの回避、環境保全活動に熱心な発注者への協力などを目的としています。

建設現場でも騒音・振動・粉塵対策や産業廃棄物の適正処理など環境に配慮した対応を求められているため、ISO14001の仕組みは環境影響に対する管理・対策に効果的でしょう。

また、建設業界においてISO14001は、ISO9001の次に取得件数が多いマネジメントシステム規格でもあります。公共工事の入札の加点条件に入っており、そのことが普及を促した最も大きな要因と言えるでしょう。

入札の加点条件とは、経営事項審査で言えばW点の項目のひとつです。自治体によっては、ISO14001が格付主観点や総合評価落札方式の評価基準に入っている場合もあります。

建設業でISO14001を取得する目的とは

認証取得の目的は企業によって異なり、環境負荷の削減や企業イメージの向上、顧客からの要求に対応するため等が考えられます。建設業では、戦略的な目的でISO14001を取得する企業が多く、主要な業種によって取得目的の傾向が異なります。

例えば…

  • 土木工事業⇒『官公庁の入札における有利性の向上』を目的とする企業が多い
  • 建築工事業⇒官公庁の受注が主体であれば『官公庁の入札における有利性の向上』、民間企業の受注が主体であれば『大手民間企業の受注における必須条件として提示できる』を目的とする企業が多い
  • 解体工事業⇒『顧客や取引先からの信頼の向上』を目的とする企業が多い

などです。

ISO14001は、企業が環境保護に取り組むための枠組みを提供しています。ISO14001の要求事項に従ってマネジメントシステムを構築することで、経営者がリーダーシップを発揮し、組織全体でPDCAサイクルを回し、環境保全活動を継続的に改善することができるのです。

建設業においてISO14001取得で発生するメリット・デメリット

建設業においてISO14001取得で享受できるメリットや発生するデメリットは以下の通りです。

メリット デメリット
1. 環境リスクの低減や回避
2. 省エネによるコスト削減
3. 顧客や取引先からの信頼の向上
4. 入札における有利性の向上
5. 従業員の環境対策に対する意識向上
1. 認証取得・維持のコストがかかる
2. 即効性がなく、過剰なマネジメントシステムになる恐れがある
3. マニュアルや書類の作成、保管する記録が増える

メリット

建設業がISO14001認証を取得するメリットの詳細は以下の通りです。

  1. 環境リスクの低減や回避
    ISO14001マネジメントシステムの構築により、企業は環境への影響(騒音・振動・粉塵、排ガスなど)を認識し、改善策を講じます。また、ISO14001要求事項に基づいて業務を標準化することで、さまざまな環境リスクを未然に回避することができ、環境コンプライアンス向上にもつながります。
  2. 省エネによるコスト削減
    ISO14001マネジメントシステムの運用により、使用しているエネルギーや資源の見直しを行います。その結果、必要があれば有効な手段を取り入れ、環境負荷の低減やコスト削減が可能です。

    また、業務手順が明確化され、管理効率が向上することで、材料費、産業廃棄物処理費、エネルギー費、人件費などの削減が期待できます。これにより、生産性を維持しながら収益性の向上やコスト削減が実現します。
  3. 顧客や取引先からの信頼の向上
    ISO14001の取得は、環境コンプライアンスを順守し、積極的に環境保護活動を行っていることを国際的に証明するものです。これにより、企業のブランドイメージや社会的信頼が向上します。発注先の条件としてISO14001取得を求める企業もあり、他社との競合における差別化にもつながります。
  4. 入札における有利性の向上
    建設業の入札では、入札参加の義務となる「経営事項審査」、自治体が評価する「主観点」と、入札方式の一つである「総合評価」が重要な役割を果たします。ISO14001認証を取得していると、これらの評価項目で加点されることがあり、入札で有利になります。
  5. 従業員の環境対策に対する意識向上
    ISO14001マネジメントシステムを運用するうえで、事業活動上発生する環境側面の管理対策を決定しなければなりません。その過程で自然に従業員の環境意識が向上します。

    さらに、環境問題への認識が従業員間で共有されることで、環境目標達成への取り組み意識が強化されることも期待できます。

デメリット

建設業がISO14001認証を取得する際に発生する各デメリットの詳細は以下の通りです。

  1. 認証取得・維持のコストがかかる
    ISO14001の取得には、審査費用として50~100万円ほど必要であり、取得後も毎年の維持・更新審査に費用がかかります。

    また、ISOコンサル会社を利用する場合は50~200万円の依頼料が発生し、法令順守のための追加諸経費も考慮する必要があります。維持費用は年間数十万~百万円が相場であり、取得後も継続的なコストが見込まれます。
  2. 即効性がなく、過剰なマネジメントシステムになる恐れがある
    ISO14001認証は取得が目的ではなく、運用と継続的な改善が重要です。効果が出るまでに時間がかかり、誤った仕組みづくりや過剰なマニュアル化は業務効率を低下させるリスクがあります。こういった「無意味なISO」を続けてしまうと、生産性を損なう要因となり得るのです。
  3. マニュアルや書類の作成、保管する記録が増える
    ISO14001の取得・維持には、マニュアルや書類の作成、記録の保管が必要です。ほとんどの企業では、特定の従業員がISO関連の業務を兼任する場合が多いため、通常業務を圧迫し、負担が増加します。

【ISO14001】建設業の実情に合ったマニュアルや書類作成のポイント

ISO14001マネジメントシステムを構築する際、文書化や運用・管理方法の明確化が難しかったり、現在使っている書類がISO14001の要求事項のどこを満たしていて、何を追加しないといけないのかの判断に困っている方がほとんどでしょう。

そこで、建設業でISO14001取得を検討している企業に向けて、マニュアル構築の際の大枠の流れや書類作成のポイントについて解説していきます。

マニュアル構築の際のポイント

建設業の実情に合ったマニュアル構築を行うためにも、従業員が理解しやすい流れや分かりやすい言葉を選ぶようにしましょう。

一例ではありますが、建設業専門のコンサル支援を行っている弊社でのISO9001/ISO14001統合マニュアルの目次例は、以下の通りです。 

目次

  1. 目的
  2. 適用範囲の決定
  3. マネジメントシステム及び業務
  4. リーダーシップ
  5. 組織の状況・環境影響評価・法的及びその他の要求事項と順守評価
  6. 組織図、部門別の役割、責任及び権限
  7. インフラストラクチャと作業環境
  8. コミュニケーション
  9. 業務目標(目標及び実施計画)
  10. 変更の計画
  11. 受注(顧客要求事項)
  12. 設計(適用不可能)
  13. 施工計画書の作成
  14. 施工現場での運用管理
  15. 施工物の保存
  16. 識別及びトレーサビリティ
  17. 顧客・外部提供者の所有物の管理
  18. 検査・引渡し
  19. 取引先の評価
  20. 資機材・設備の購入、外注施工の管理
  21. 施工物の引渡し・変更の管理・不適合の管理
  22. 測定器(監視及び測定機器)の管理
  23. 緊急事態への準備と対応
  24. 文書・記録の管理
  25. 力量・認識(組織の知識)
  26. 顧客満足・監視、測定、分析及び評価
  27. 内部監査
  28. マネジメントレビュー(総括)
  29. 業務の改善

ISO14001規格の要求事項項目の順番に沿ってマニュアルを作成する企業が多い傾向にあります。

確かにISO初心者にとっては、確実に各要求事項に対応する内容を明記することで、審査時にどの要求事項の箇所を聞かれているのか分かりやすく、対応しやすいというメリットがあります。

ただし、複数の業務が適用されるような要求事項もあるため、実務に沿ったマニュアルというよりは、ISOのためのマニュアルになっている恐れがあります。ISOについて全く知識がない従業員が見た時、マネジメントシステムが組織にどう機能しているのか、標準化されている部分とはどこか分かりづらくなってしまう可能性があります。

書類作成のポイント

ISO14001で要求されている事項のうち、特にポイントとなる3項目の書類作成時の対応方法について紹介します。

【6.1.2 環境側面】

ライフサイクルの視点を考慮して、組織の活動や製品およびサービスに影響を及ぼす環境側面、環境影響を特定します。また、その中でも事業活動上で重要な環境側面である『著しい環境側面』を特定するための評価基準も設けなければなりません。

この要求事項に関しては、文書化して残すようにとも要求されています。『環境影響評価表』のテンプレートはWEB上で無料ダウンロードができるものもありますので、自社で使いやすい様式に書き換えて運用してみることをお勧めします。

【6.1.3 順守義務】

組織の環境側面に関する環境法令を特定し、順守状況を定期的に確認するようにしなければなりません。また、文書化して残すようにとも要求されています。

建設業で該当する法令を調べる時は、まず国土交通省が発行している『共通仕様書』を確認したら良いでしょう。共通仕様書に法令の遵守に関する項目がありますので、その中から環境法令かつ組織の業務上関係しそうな法令を特定し、内容を法令関係の解説サイトや解説本などで確認していきます。

【8.2 緊急事態への準備及び対応】

この項目では、企業の経営上のリスク及び機会や環境側面で特定された緊急事態に対する準備と対応が要求されています。

このような想定される緊急事態に対して、そもそもそれが発生しないように予防したり、それが発生してしまったときにそれによる有害な影響を最小限に食い止めたりするためのプロセスをあらかじめ計画することが重要です。

また、計画した緊急事態の対応プロセスについて定期的なテストも実施し、必要があれば手順の改訂を行います。緊急事態の対応プロセスは文書化し、テストの記録も残すようにしましょう。

ISO9001 とISO14001を統合する場合の書類作成のポイント

建設業者では、入札の加点につながるため、ISO9001とISO14001を同時に取得するケースが多い傾向にあります。工事現場では品質管理や環境対策ともに実施しなければならないため、規格を統合して管理した方が分かりやすく効果的です。

規格毎の二重管理による書類増加の防止にもつながるため、規格の統合を検討してみましょう。

ISO9001 とISO14001の統合とは?

ISOマネジメントシステム規格の統合方法は2種類あります。

  • 審査を統合する方法…ISO9001とISO14001の審査を同時に受ける方法。審査対応の負担と審査費用の低減に効果がある。
  • マネジメントシステムを統合する方法…ISO9001とISO14001の仕組みを一つに統合する方法。各規格の要求事項の共通項目を一元管理することで、重複する作業を削減し、効率化を図ることができる。

マニュアル構築や書類作成でのポイント

ISO9001やISO14001では、マニュアル作成は必須ではありませんが、業務プロセスや関連文書を一元管理できるマニュアルがあると審査の際に役立ちます。

統合マニュアルを作成する際は、共通で管理する項目と、別々に管理する項目を区別することが重要です。両規格の要求事項には共通点と相違点があるため、統合には深い理解が必要です。

→ISO9001とISO14001の要求事項の違いについては次の記事を参照:ISO9001:2015の要求事項とは?運用のポイントも含め分かりやすく解説

ISO専門知識に不安がある場合は、規格の統合について認証審査機関やコンサルタントに相談すると良いでしょう。

建設業でISO14001認証取得を成功させるには

ISO14001の目的は、『環境負荷を軽減し、持続可能な経営の実現』です。ISO14001特有の要求事項もあるため、認証取得を成功させるためには、的確な解釈を行い、組織に統合していくことが必要不可欠でしょう。

失敗しがちなISO14001の例

ISO14001の目的や概念を理解することは重要です。十分な理解がないと、実務にプラスして、ISOのためだけのルールを追加していく『無意味で重いISO』になるリスクが高くなります。

その結果、企業の実情に適応した仕組みというよりは、省資源・省エネ、廃棄物の分別・リサイクル、緊急事態対応訓練などを新たなルールとして追加する形となり、現場に大きな負荷をかけるだけの仕組みになりかねません。

ISO14001の考え方としては、企業の経営上、発生しうる環境側面を洗い出したうえで、優先事項が高い環境側面の管理対策を決めることが重要です。つまり、他の企業はこの環境対策に取り組んでいるから自社でも管理すべきと考えるのではなく、あくまで自社の経営状況を考慮した最善の対策をすべきということです。

そうすることで、ISO14001マネジメントシステムの効果的な運用が実現し、継続的な改善につなげることができるのです。

ISO14001認証取得のポイント

ISO14001認証取得のためには、規格要求事項の理解が必要です。

ISO14001の要求事項は、他のマネジメント規格との共通項目もありますが、ISO14001ならではの要素が強い以下の要求事項を抑えておくことが重要です。

【6.1.2 環境側面】
【6.1.3、9.1.2 順守義務及び評価】
【6.2 環境目標及びそれを達成するための計画策定】
【8.2 緊急事態への準備及び対応】
【9.3 マネジメントレビュー】

→各要求事項の詳しい解説については、次の記事を参照:ISO14001:2015の要求事項とは?運用のポイントも含め分かりやすく解説

まとめ

弊社のお客様の傾向では、建設業においてISO14001は単独で取得している企業は少なく、ISO9001と同時に取得しているケースが多く見られます。

ISO14001は入札条件の項目として入れている自治体もあるため、戦略的に需要がある規格です。

ISO14001とISO9001の同時取得を検討している企業は、書類管理のスリム化やスムーズな取得のためにもISOコンサルタントの活用を視野に入れてみることをお勧めします。