建設業でISO取得をする理由やメリット、運用のコツを紹介

建設業界は、多様なプロジェクト管理、安全管理、品質保証が求められる分野です。そんな中で、ISO認証を取得することは、工事の品質確保や環境への配慮、労働災害リスクの低減につながるという大きなメリットがあります。
しかし、ISOは初心者にとっては理解が難しく、自社で運用する場合は書類管理が複雑化する可能性が高いというデメリットがあります。
そこでこの記事では、建設業でISOを取得する理由や具体的なメリット、運用をスリム化するための方法について詳しく解説します。ISO取得を検討中の方や、運用に課題を感じている方はぜひ参考にしてください。
目次
建設業にISOは必要?不要?やめていく企業の理由とは
建設業にとってISO認証の取得は、純粋に企業品質を向上させるためでなく、『入札に参加するための条件』として、形式的に取得する企業が多いというのが現状です。
例えばISO9001の場合、建設業は国内でTOP3に入るほど取得件数が多く、建設業におけるISOの必要性は高いと言えます。

それでも、ISOの更新をやめる企業が出てくるのはなぜでしょうか。
ISOの更新をやめた企業の理由として代表的なケースは以下の通りです。
- 主要顧客からのISO取得の要望がなくなった
- 入札条件や総合評価での加点対象から外れる
- ISOに関する文書記録が多く、人的負担が大きい
- ISOに関する年間の維持費が高い
ISOをやめていく企業は「主要顧客からのISO取得の要望がなくなった」、「入札条件や総合評価での加点対象から外れる」といった理由がほとんどです。ISOの運用コストに比べて費用対効果が無くなったことが原因です。また、非常に少ないケースではありますが、「運用の負担や文書作成・管理の手間が大きい」、「審査費用が負担」といった理由もあります。
しかし、ISOをやめる事にはデメリットも存在します。
デメリットとしては、再び取得しようとする場合には、再度ISO規格の要求事項に沿った運用方法を検討しなければなりません。また、新規認証審査は認証維持の審査よりも費用と工数が上がってしまう恐れがあります。
他にもISO規格に基づく管理体制が崩れることで、不具合発生時の対応や、必要な記録類の保管等に問題が発生し、通常業務に支障をきたす可能性もあります。
ISOの更新をやめることを検討している企業は、後悔しないためにも、組織における現状の課題と、ISO認証を維持していることのメリットや、返上した場合のデメリットをもう一度振り返りましょう。その上で、ISOの必要性を再確認することが重要です。
なぜ建設業でISOを取得している企業が多いのか?
建設業においてISOの取得が広く普及している理由は、業界の特性とISOの認証の仕組みが密接に関係しています。
まず、建設業では入札が主要な受注手段であり、特に公共事業や大規模プロジェクトではISO認証の取得が参加条件となるケースが多いです。公共工事の発注者や大手ゼネコンは、施工品質の安定と向上、競争力を維持するために取引先にISO取得を促しています。
それでは、ISO取得における入札条件のメリットやそれ以外のメリットについて、どんな例があるのか見ていきましょう。
【入札条件】経審点で加点になる
平成6年の建設業法改正により、経営事項審査(経審)を受けることは公共工事の入札に参加する業者の『義務』となっています。
最終的な経審点(P点)でそれぞれ約7点アップします。ISOは経審を受ける全業種に対しての加点になるW点の中の一つなので、全業種が等しくアップします。

【入札条件】主観点で加点になる
各自治体には競争参加資格審査の要素の一つとして、独自に定める主観点があります。主観点と経審点(P点)の総合点数により、格付(等級別登録)を行います。等級により受注できる工事金額や受注率が変わってくるため、主観点はとても重要な要素です。
例えば鹿児島県では主観点項目の中にISO9001認証では10点の加点、ISO14001認証では10点の加点、ISO45001認証では20点の加点があり、すべて取得すると40点の加点になります。
鹿児島県の例のように一つのISO認証が経審点でも主観点でも評価されることもあります。
※それが理由で主観点評価からは外した自治体もあります。

【入札条件】総合評価で加点になる
「総合評価落札方式」とは、企業の技術力や提案力などの価格以外の要素と価格を総合的に評価し、落札者を決定する入札方式です。総合評価項目にも、自治体により様々な内容が盛り込まれています。
例えば福岡県では、5000万円以上の工事において、ISO9001の取得、ISO14001の取得の両方がそれぞれ評価されることになっています。

【入札条件】工事成績で加点になる
稀なケースではありますが、工事成績評定の評価対象の一つとして、ISOが入っている場合があります。
例えば鹿児島県では【施工状況】のうちの”安全対策”における評価対象項目にISO45001認証が入っています。

その他の理由
建設業はプロジェクトごとに異なる環境条件で作業を進める必要があるため、品質管理の仕組みが特に重要です。ISO認証を取得していること自体が、業界標準の品質管理体制を構築している証明となるため、取引先に対する信頼性が認められ、受注の際に有利に働く場合があります。
【建設業】ISO取得で発生するメリット・デメリット
建設業においてISO取得で享受できるメリットや発生するデメリットは以下の通りです。
メリット | デメリット |
1. 主観展や総合評価の加点 2. 顧客の信頼が得られる 3. 企業体質の評価 |
1. コストの増加 2. 即効性がなく、過剰なマネジメントシステムになる恐れがある 3. 人手と時間の確保の必要性 |
メリット
建設業がISO認証を取得するメリットは、主に以下の3点が挙げられます。
- 主観点や総合評価の加点
建設業の入札では、自治体が評価する「主観点」と、価格だけでなく技術力や品質を評価する「総合評価」が重要な役割を果たします。ISO認証を取得していると、これらの評価項目で加点されることがあり、入札で有利になります。 - 顧客の信頼が得られる
ISO認証は品質、環境、労働安全衛生などに関する高いマネジメントを証明するものです。発注者から見て、適切な施工管理や環境対策が行われていることが期待でき、信頼が向上します。
さらに、民間企業などではISO認証を取得していることを発注先の条件としている場合もあり、認証が取れていることで企業の信頼度が増します。 - 企業体質の強化
ISO認証を取得するためには、社内の業務や課題を洗い出し、業務プロセスの標準化を行う必要があります。この過程で、無駄の改善や社員教育が行われ、社内の業務が効率化されます。また、ISO審査の過程を通じて、業務の改善点を洗い出し、企業の体質を強化することができます。
ISO認証を取得することで、建設業は入札で有利になり、顧客からの信頼を得るとともに、企業の内部体質を向上させることができるのです。
デメリット
建設業のISO認証取得にはさまざまなデメリットがありますが、主に以下の3点が挙げられます。
- コストの増加
ISO認証取得および維持には審査費用など多大なコストがかかります。特に中小企業にとっては大きな経済的負担となる場合があります。また、取得後も毎年の維持審査や3年ごとの更新審査が必要で、長期的な費用が発生します。 - 即効性がなく、過剰なマネジメントシステムになる恐れがある
ISO認証は取得が目的ではなく、マネジメントシステムを運用し継続的に改善することが求められるため、効果が現れるまでに時間がかかります。
また、運用プロセスの改善を目的とするものの、誤った構築や過剰なマニュアル化は業務効率を低下させるリスクもあります。企業の実情に合わない「重いISO」の運用は、生産性を損なう原因となりかねません。 - 人手と時間の確保の必要性
ISO取得には6ヶ月から1年半ほどの期間を要し、文書化や運用記録の作成、内部監査などの対応が必要です。これらが通常業務に影響し、特に中小企業では人手不足が深刻化する場合もあります。そのため、事前に十分な準備と人員確保が求められます。
社内での業務負担を軽減するためにも、ISO構築を企業の実態に即した形で行い、継続的な運用の効率化を目指すことが重要です。
建設業に関連するISOマネジメント規格とは?目標の具体例も紹介
建設業に関連するISOマネジメント規格で代表的なものを挙げるならば、ISO9001、ISO14001、ISO45001の3つです。この3つの規格と建設業がどのように関連しているのかを確認した後、よくある目標の具体例も紹介します。
ISO9001
建設業においてISO9001の取得は、品質マネジメントシステムに基づく自主的な品質管理業務を活用して、工事の品質確保と事業実施の一層の効率化を図ることを目的としています。
- 入札が主な受注方法であれば、『工事成績評定点の向上』『技術者の新規雇用による増員』『資格取得』など
- 主な顧客が民間企業であれば、『受注高または利益率の向上』『顧客クレームゼロ』など
ISO14001
建設業においてISO14001の取得は、環境負荷の低減及び環境改善、コストダウン、法規制順守による環境リスクの回避、環境保全活動に熱心な発注者への協力などを目的としています。騒音・振動・粉塵対策や産業廃棄物の適正処理など環境に配慮した対応を求められています。
- 『環境事故ゼロ』(土壌汚染や水質汚染、大気汚染などにつながる環境事故防止の対策)
- 『地域貢献活動○件』
- 『騒音・振動・粉塵による地域クレームゼロ』 など
ISO45001
建設業においてISO45001の取得は、労働安全衛生リスクを洗い出し、対策を講じていくことで、従業員が安心・安全に働くことが可能な労働環境へと改善することを目的としています。建設業は労働災害リスクが高い業界であるため、自治体や工種によっては入札条件に入れているケースがあります。
- 『4日以上の休業災害ゼロ』
- 『各現場の安全ルールの順守率90%以上』(安全巡視や安全パトロールで監視、評価)
- 『全社員定期健康診断の受診』
- 『再検査対象者の再受診100%』 など
建設業のISO運用・取得を最低限の業務負担で成功させよう
建設業にとってISO認証の取得は、主な受注手段である『入札に参加するための条件』として、形式的に取得する企業が多いというのが現状です。この現状を踏まえると、建設業では最低限の業務負担でISOを取得したいと考えている企業が必然的に多くなります。
結論から言うと、入札のためにISOを取得したい場合は、『確実に認証がとれる』、『ISOの知識がなくでも取れる』、『ISOの業務を軽減したい』等の条件を満たす”代行型コンサルタント”がおすすめです。
それでは、自社運用でISO運用のスリム化を実現するために必要な事や、代行型コンサルタントを活用した場合のメリットなどを説明していきます。
書類作成や運用のスリム化について【自社運用編】
ISO運用のスリム化を実現するには、ISOの要求事項を十分に理解し、どういった効果があるのかを考え、実務に取り入れることが必要不可欠です。ISOを自社で運用する場合、ISOのための書類作成や運用を行ってしまうリスクが高く、『重いISO』になる企業がほとんどです。
ISOの要求事項の内容によっては、自社で使用している現場帳票や管理表などで実は既に賄えている箇所や必要な項目を追加するだけで対応できる箇所があります。
しかし、規格要求事項を深く理解していないと現状況で対応できているかどうかの判断は難しいです。余計な書類を増やして管理を複雑化させないためにも、ISOの要求事項の解釈は最優先事項といっても過言ではないほど重要です。
代行型コンサルタントの活用
ISOを自社で運用する場合、通常業務をこなしながら審査までの準備や審査の対応を行うのは大きな負担になります。ISOのスリム化のため、現在では多くの企業がISOコンサルタントを活用しています。
中でもおすすめなのは、代行型コンサルタントです。
代行型コンサルタントは企業側から必要な情報をもらい、ISO審査に向けた資料の作成やアドバイスをしてくれます。また、代行型コンサルタントを利用することで、企業側には以下のようなメリットがあります。
- ISOに関する知識がなくてもISO取得可能
- 打ち合わせ回数が1~3回ほどで済むコンサル会社もあるため、時間をあまり割かなくていい
- 費用が安価なコンサル会社が多く、コスパがいい
- ISOで発生する資料のほとんどを作成してくれるコンサル会社もあるため、ISOに関する工数をほぼ0に近づけることが可能
- 社内のISO担当者が変わっても引継ぎの必要がない
代行型コンサルタントは、認証取得までの時間に余裕が無かったり、自社での工数を最低限にしたいという企業におすすめです。自社運用が負担になっている企業は、代行型コンサルタントの活用を社内で検討してみることをおすすめします。
まとめ
この記事では建設業がISOを取得するメリットや、コンサルタントを活用するメリットなどを解説しました。コンサルタントを利用するかどうかも、ISOを取得する目的によって判断することが大切です。
例えば、会社組織全体でISOを取り入れて業務改善を積極的にしていきたい場合は、ISOに関する教育指導を行い、実務は担当者にしてもらう形式の指導型コンサルタントを採用すると良いでしょう。
他にも建設業でのISO取得に関連する記事がありますので、ぜひ参考にしてみてください。