2025年施行の建設業法改正とは?改正内容と対策を徹底解説

建設業界が直面している深刻な課題、長時間労働と低賃金による人材確保の困難さ。これらに対応するため、国は法制度の整備に着手しました。
その結果、2024年6月7日、「建設業法及び公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律の一部を改正する法律」が国会で可決・成立しました。
この法改正は、働き方改革の推進や処遇改善、さらには生産性向上を通じて、建設業界の担い手確保を実現することを目指しています。この記事では、2025年中に完全施行される予定のこの改正法について、その変更点と業界への影響を詳しく解説していきます。
目次
建設業法改正とは
建設業法改正は、深刻化する建設業界の課題に対応するための法整備です。今回の建設業法改正の背景には、建設業が抱える少子高齢化による人材不足及び長時間労働等の問題があります。
建設業法改正の背景①人材不足
建設就業者数は1997年のピーク時点で685万人が2023年では483万人と26年間で約3割減少しており、特に技能者の減少が大きく影響しています。
年齢層をみると55歳以上が36.6%、29歳以下は11.6%と高齢化が進行し、次世代への技術継承も大きな課題です。

一方、建設労働者の年収は、他産業よりも80万円程度「低い」状態で推移しています。また、出勤日数や労働時間を全産業と比較しても、年間11日多く出勤し62時間も「長く働いている」状況があります。
よって、休日取得は少なく、建設業全体では4週6休以下が約6割と、週休2日が確保できていない状況にあります。このような現状が、29歳以下の建設就業者(若年層)の離職率の高さも影響していると考えられ、その主な離職理由として、「休めない」「賃金が低い」があると推察されるでしょう。
建設業法改正の背景②長時間労働
また、長時間労働の背景には、人材不足以外の問題も存在しています。中小企業や下請け企業などの受注業者は、発注企業からの短期間納期での依頼などに応えるため長時間労働となってしまう現状も問題として挙げられます。
また、2020年からの原材料費の高騰等により、主要建設資材の価格高騰を契約変更に適切な転嫁が進まず、労務費を圧迫していることも影響していると言えるでしょう。
このような背景から、建設業界がインフラ整備の担い手・地域の守り手としての役割を果たし続けられるよう、時間外労働規制等にも対応しつつ、建設業全体の労働環境の大幅な改善を図ることを目的に、入契法・品確法とともに大きく改正されました。これは建設業界にとって非常に重要な法的変更となります。
建設業法の改正概要
今回施行された改正建設業法・入契法は以下の3つです。
- 労働者の処遇改善
- 資材高騰に伴う労務費へのしわ寄せ防止
- 働き方改革と生産性向上
また、これらの目的を確実に達成するために、以下の2つの取り組みが導入されました
- 建設業者への規制
建設業者に対して、上記の目的に沿った取り組みを行うことを義務付けています。 - 監視体制の強化
「建設Gメン」と呼ばれる調査官による現場調査が実施され、違反が見つかった場合は勧告や公表、改善指導などの措置が取られます。
改正建設業法はいつから施行予定?
今回の改正は3段階に分かれて順次施行されています。
改正建設業法 | 施行日 |
労働者の処遇改善 | 2024年6月13日 |
資材高騰に伴う労務費へのしわ寄せ防止 | 2024年12月13日 |
働き方改革と生産性向上 | 2025年12月(施行予定) |
- 賃上げを目指した「労働者の処遇改善」の内容が2024年6月13日に施行。
- 「資材高騰に伴う労務費へのしわ寄せ防止」の取組内容が2024年12月13日に施行。
- 労働時間の適正化及び現場管理の効率化を目指した「働き方改革と生産性向上」の取組内容が2025年12月までに施行予定。
以上を総合的に取組むことにより「建設就労状況を改善し、担い手の確保」へと持続して繋いでいくことを目指しています。
建設業法改正の履歴
建設業法の改正は定期的に行われています。建設業界の社会的ニーズや経済状況、技術の進展、労働環境の変化などに対応するため、適宜見直しや改正が行われています。2020年~2024年の履歴は以下のとおりです。
2020年
①著しく短い工期の禁止について
②工事現場の技術者の配置要件に関する規制の合理化について
2022年
①「働き方改革」の促進として工期の適正化等と処遇改善(社会保険加入の要件化や下請代金のうち労務費相当額は現金払い)
②「生産性向上」として人材の有効活用と若者の入職促進(工事現場技術者の規制を合理化等)や施工の効率化のための環境整備
③「持続可能な事業環境」として経営業務管理責任者に関する規定の合理化
2024年
①労働者の処遇改善
②資材高騰に伴う労務費へのしわ寄せ防止
③働き方改革と生産性向上
建設業法の改正ポイント①労働者の処遇改善
今回の建設業法等改正による変更点の1つ目が、労働者の処遇改善(賃金引上げ)に関する措置です。具体的な改正内容を解説していきます。
改正内容
改正内容は以下の4つです。
①労働者の処遇確保の努力義務化
②標準労務費の勧告
③適正な労務費等の確保と行き渡り
④原価割れ契約の禁止を受注者にも導入
1つずつ解説していきます。
①労働者の処遇確保の努力義務化
労働者の有する知識・技能その他の能力を公正に評価し、適正な賃金を支払う報酬を確保するための措置を講ずる努めを建設業者に規定しました。これは努力義務であり、法的な強制力はありません。
ですが、国は2022年度発注する公共工事の入札参加に「賃上げを実施する企業」への加点措置を始めており、労働者の処遇改善を企業側が積極的に進めることを期待されています。
②標準労務費の勧告
中央建設業審議会(国土交通省内に設置、以下「中建審」)において、建設工事における標準的な「労務費の基準」(標準労務費)を作成し、その実施を勧告する権限が付与されました。これによって労務費の適正な見積り、労働者が適切な賃金を受け取ることが期待されています。
③適正な労務費等の確保と行き渡り
建設工事を請け負う建設業者が、見積りや見積り依頼をする際に、著しく低い金額での材料費等や施工に係る必要な経費で提出等を行うことを禁止しました。これは、材料費等のコストを適正に反映させることを目的にしており、労務費の圧迫を防ぐ措置とされています。違反して契約をした建設業者には、指導・監督が行われます。
適正な賃金水準を確保していくために、発注者・元請間、元請・下請間のいずれにおいても、請負契約の当事者が「対等な立場で価格交渉」を行い、「適正な請負代金で契約」することが重要です。「不当に低い請負代金の禁止」や下請代金の支払期日の規定など、見積から契約、その後の支払いに至るまでを適正に実施していくことが求められています。
④原価割れ契約の禁止を受注者にも導入
建設業者が工事を請け負う際には、施工に通常必要な労務費等を著しく下回る金額で契約を締結することが禁止されました。この禁止規定は、労働者の処遇に悪影響を及ぼす可能性があるため導入されたものです。
必要な対策
著しく低い労務費については、中建審の「労務費の基準」を基に判断されます。また、一律にならないように、実効性確保に向けた具体策が検討されており、その動向を注視した対応が求められます。
例えば、
- 中建審の公表を反映した、賃金台帳の整備
(基本給、能力・資格等各種手当の見直し) - 請負契約書・金額内訳書の見直し
(請負代金の算定方法の見直しや標準労務費からの見積の見直しや追加)
等を整えておくとよいでしょう。
建設業法の改正ポイント②資材高騰に伴う労務費へのしわ寄せ防止
建設業法等改正による変更点の2つ目が、資材高騰に伴う労務費へのしわ寄せ防止に関する措置です。具体的な改正内容を解説していきます。
改正内容
改正内容は以下の内容です。
- 資材高騰時における対応策強化
詳しく解説していきます。
近年、建設資材の価格が高騰する状況が続いており、その結果として労務者へのしわ寄せが問題視されています。そこで今回の改正では、資材高騰時における対応策が強化されました。価格転嫁・工期変更協議の円滑化に向けて、制度運用上の留意点を取りまとめた
- 「建設業法令遵守ガイドライン」
- 「発注者・受注者間における建設業法令遵守ガイドライン」
が国土交通省より示される予定となっています。
※ガイドラインの詳細は、国土交通省HP参照(2024年12月公表予定)
必要な対策
① 契約前のルール
資材高騰に伴う請負代金等の「変更方法」を契約書の法定記載事項として明確化しました。そして受注者は、資材高騰の「リスク情報」を注文者に通知しなければなりません。この規定によって、受注者と注文者が事前にリスク情報を共有し、適切な対応を協議することになりました。
具体的には、天災等の事象によって生じる
- 主要資機材の供給不足や遅延
- 価格高騰や労務の供給不足
等があげられ、その情報の根拠となる客観性を有する資料(公共の統計資料・報道記事等)が求められます。
② 契約後のルール
資材価格の高騰が実際に発生した場合、受注者は注文者に対して工期や請負代金の変更について協議を申し出ることができます。注文者は、正当な理由がない限り、誠実に協議に応ずる義務を負います。公共工事の場合には、発注者が協議に応じることが義務化されています。
建設業法の改正ポイント③働き方改革と生産性向上
建設業法等改正による変更点の3つ目である働き方改革と生産性向上も今回の改正の重要な柱となっています。特に、工期の適正化やICT活用による現場管理の効率化が強調されています。
改正内容
改正内容は以下の2つです。
①工期の適正化
1. 工期ダンビング防止の強化
2. 工期変更の協議円滑化
②生産性向上について
1. 現場技術者の専任義務の合理化
2. ICTを活用した現場管理の効率化
3. 公共工事発注者に対する施工体制台帳の提出義務の合理化
1つずつ解説していきます。
①工期の適正化
工期の適正化としては「工期ダンビング防止の強化」と「工期変更の協議円滑化」の2つがあります。
①-1.工期ダンビング防止の強化について
従来から注文者側が施工に通常必要と認められる工期に比して、著しく短い工期による契約締結を禁止していました。ですが、今回の改正では「受注者側からも同様の禁止措置」が導入されます。
これにより、適正な工期が確保され、現場労働者への過剰な負担軽減が期待されます。「工期の基準」に照らして著しく短い工期の契約については、中央建設業審議会から勧告される恐れがあります。
この「工期ダンビング防止の強化」の実施は2025年施行を予定しています。
①-2.工期変更の協議円滑化について
※「工期変更の協議円滑化」については、前項の建設業法改正のポイント②を参照してください。
②生産性向上について
②-1. 現場技術者の専任義務の合理化
重要な建設工事においては、原則として専任の主任技術者や監理技術者を配置することが求められています。ですが今回の改正により、ICT活用を条件に専任義務が一部緩和されました。これにより、建設業者のコスト負担が軽減されるとともに、現場管理の効率化が促進されます。
②-2. ICTを活用した現場管理の効率化
特定建設業者は、建設工事の適正な施工を確保するために、ICT活用に関する必要な措置を講じる努力義務を負うこととなりました。また、国は「ICTの活用を含む効率的な現場管理の指針」を作成し、公表することとしています。これにより、建設業界全体で現場管理の標準化と効率化が進むことが期待されます。
②-3. 公共工事発注者に対する施工体制台帳の提出義務の合理化
公共工事の発注者が、情報通信技術を活用して工事現場の施工体制を確認できる場合には、施工体制台帳の提出義務が免除されることになりました。
必要な対策
①労務費の適正化・契約書の見直し
中建審によって定められる「標準労務費」の確認、および見積り等へ適切に反映することが必要です。また、請負契約書が今回の改正に沿った条文となっていること、適切な工期を算定できるようにしておきましょう。
②ICTの活用
国土交通省から示される指針に沿って、工事現場での積極的なICT活用環境を整えることが必要となります。ICT導入・活用促進のために国の支援措置(補助金)もありますので、この機会に検討してみるのもいいでしょう。同時に、ICTを利活用する建設技術者の教育・育成も必要です。
まとめ
「建設業法令遵守ガイドライン」には、具体的にどのような行為が建設業に「違反」するかが示されています。例えば、指値発注は「違反」、赤伝処理や長期手形は「違反の恐れがある」等と示されています。
このことにより、法律不和による違反行為を防ぎ、元請下請の対等な関係構築や公正透明な取引を図ることが可能になります。これにより、建設業界の持続的な発展や、地域の守り手としての役割を果たしていけることを目的としているのです。
そのような観点からも、社員全員が一読をして取り組んでいくべきガイドラインといえるでしょう。